子は時には親を赦す


たわしさま、大変お待たせしました、12万HIT記念リク「孤児院経営してるクク」のお話です。






オレの可愛い子どもたちは、食事の片づけを、決して段取り良くとは言わないが、まあ賑やかに楽しそうにしている。

「子どもというのは本当に罪が無くて可愛いものじゃわい。」

オレはそれを眺めながらオディロ院長の口真似をして、ついでに


「どっこいしょ。」

と爺さま臭く呟いて、椅子に腰かける。

まだ到底、じじいじゃねえんだけどさ。

やっぱ疲れるワケよ、子どもの世話ってのはさ。

ある意味、暗黒神倒す旅より疲れちまうかもしれねえ。


まあいいさ、子どもたちは可愛い。

オレは、子どもたちが良く働くのを眺めながら(別にサボってるワケじゃねえ。自分のことは全部自分でさせるのがオレの孤児院の流儀なんだ)髪をいじろうとした。


「ああ…」

オレは自分の手が空を掴んでいることに苦笑する。

髪をバッサリ切っちまったのはもう1年も前だってのに、まあだ長髪のつもりでいる自分への苦笑だ。




「髪、切っちゃったんだ。」

そう言ったゼシカの言葉が、すぐさっき聞いたみてーに耳に聞こえてくる。

もう1年も前に聞いたのに。


「オレくれー美男子だと、ショートもまた別の魅力だろ?」

もうオレの前にはいないゼシカに、言葉を返してみる。

あの時返したのは別の言葉。

孤児院経営に忙しいとか、何とか。

髪に手ぇかけてるヒマないとか、何とか。

つまりは、やっぱり君とはもうこれ以上一緒には居られないとか、なんとか。




「そっか、マイエラはやっぱり男子修道院だしね。」

ソレがホントの理由じゃねーんだよ。

別にオレ、もう聖堂騎士でも、別に修道士でもねーしさ。


「たださ、君はやっぱり、アルバート家のお嬢さまだからさ。」

もうオレの前にはいないゼシカに、言い訳してみる。


「お嬢様だからさ、オレみてーに花の若い身そらを孤児院経営なんぞに捧げちまった男と、付き合っちゃなんねーよ。」




ちょっと目を離すと、困ったことをしでかすのが子どもってもんだ。

「こーら、そこっ!!いつまでもふざけてんじゃねーぞ。」

オレは子どもたちの一人を捕まえて、ほっぺたをつまみ上げる。

さすが子ども、なかなか一筋縄じゃいかねー。


「はーい…」

「やーい怒られてやンのー。」

「お前もうるせーよ。ほら、さっさと風呂入ってこい。」


「せんせー、ほら、お皿とってもキレイに拭けたよ、エライー?」

別の子どもたちが、ピカピカに拭いた皿をオレに見せびらかす。

まったく、片付けの時間に、1枚の皿をひたすら拭いてたみてーだな。


「よーしよし、えらいなー。」

オレは頭を撫でる。

満足そうな顔。




そうさ、子どもってのは愛され、褒められるのが大好きだ。




「せんせー、大すきー。」

そして、まずはオレみてーな「親」を愛するものさ。

オレもそうだった。

ガキの頃は、親を愛してた。

悪魔と呼ばれるオヤジと、女神さまみてーにきれいだが女神像みてーに冷たいオフクロだったけどな。









暗黒神を倒し、世界に平和は戻った。

ついでに、オレたちのリーダーは、愛する姫さまと万難を排して結婚した。

で、オレことククールは…ただ今、孤児院経営をしている。


選択肢はいろいろあった。

聖堂騎士団にゃ団長として戻れって言われたし、トロデ王からは国の復興を手伝えと言われた。

そして、ゼシカからはリーザス村に来ないかと誘われた。

結局、どれも断った。

そしてオレは、自分の育ったマイエラ修道院の孤児院で、子どもたちを育ててる。




どうしてその道を?

って質問は、みんなにうんざりするくれーされてる。









日もまだ暗いうちから、オレは子どもたちと畑を耕す。

自給自足、働かざる者食うべからずだ。

オレの手にあった剣ダコは、鍬ダコにとうに変わっちまった。

オレの白皙のビボーは、少なくとも「黒」皙くれーにはなっちまった。

まあいいさ、気になんざするもんか。


「よおーし、今日中に種蒔き済ましちまうぜ。」

オレが指示すると、子どもたちは素直にバラバラと手分けして種を蒔き出す。


「ははは、素直でいい子らだ。」

そうだ、まだ素直ないい子たちだ。

親を失っちまったってのにな。

そうさ、オレだって孤児になった最初のうちは素直な良い子だった。

ま、「あの人」だって、最初は素直な良い子だったんだろう。




子どもってのは、「親」に愛されたい。

「あの人」はオディロ院長を心から愛してたけど、それだけじゃなく、多分、血のつながった方の親にだって愛されたかったはずさ。


だって、子どもってのは、親を愛してるもんだからさ。




トントン

オレは軽く肩を叩く。

子どもたちがオレを見上げる。


「せんせー、かた、いたい?もんだげよっか?」

「あー…」

色も同じじゃねえけど、その瞳にふと思い出す。

そうだよ「あの人」も、オディロ院長にこんなこと言ってたっけな。


「おうさ、じゃ、頼むぜ。」

「うん。」

軽過ぎて肩たたきにもなんねー、そのトントンってリズムを聞きながら、オレは思い出す。

オレがマイエラの孤児院を継ぐって言った時の、みんなの言葉。

オレは最後までずっと「子どもが可愛いから」で通したのに、誰ひとり信じやしなかった。

しまいまで黙って聞いてたエイタスだきゃ信じたかと思いきや、最後にこう言いやがったもんな、あいつ。


「贖罪の、代理?」

なんて、よ。




「せんせー、きもちいい?」

「ああ、気持ちいい。いい子だな、大好きだよ。」

「あたしもだいすきー。」


やれやれ。

子どもが、永遠に親を愛してりゃ、問題なんて何もない。

親も子も、永遠に幸せだ。


もっとも、孤児院なんてやってるとすぐに実感する。

子どもはすぐに、「親」のアラを見つけ出すようになる。

タリ前だ、「親」は万能の女神さまなんかじゃねえ、ただの人の子だからな。

そして、ガキんちょのくせに、いっちょ前に「親」を批判するようになる。

ったく、可愛くねー。

この世紀の美青年が、溢れる博愛心で孤児院経営やってやってるってのによ。


なんてな。

「親」がどんなに献身的な気持ちだったって、そりゃ仕方ねーさ。

ましてや、「親」が、子どもに献身なんてする気がこれっぽっちもねー生物なら、なおさらだろう。




「ああ、気持ち良かった、ありがとう。またしてくれよな。」

「うん。」

きれいで澄んだ瞳をしていたはずの「あの人」も、すぐに「親」を心の中で裁くようになった。

クソオヤジだけならまだしも、あの人はその後、聖者だったオディロ院長だって裁くようになったのだろうか。

自分の信じた女神に、あっさりと見捨てられたということで。




「子はまず親を愛し、次に親を裁く。そして、自分の道を見つけていく。」




子どもたちが、種蒔きしろっつったはずなのに、またワケわかんねーコトして遊んでる。

子どもってのは理不尽だ。

でも、子どもにとっては、大人って、親ってのもまた、あり得ねーほど理不尽なシロモノなんだろうと、孤児院やってて、気付く。

「親」ってのは、なってみねーと分かんねーことがいっぱいで、だからオレは孤児院始めた…つっても、誰も信じねーんだよな。







「あの人」も、オレも、同じ父親の元に生まれた。

「あの人」も、オレも、同じ育ての親に育てられた。

「あの人」も、オレも、種類は違えど、「親」のせいで、同じだけの理不尽さに晒された。


そして今。

「あの人」とオレは、まったく違う道を歩んでいる。






オレは、子どもたちが沸かした風呂で寛ぐ。

忙しくしてる時はいいんだが、こうしてボケっとしてると、ゼシカのことを思い出す。

「子育てしたきゃ、自分の子ども育てりゃいいじゃねえか。」

ってオレに言った、ヤンガスのことも思いだす。




「違うんだよ。」

オレは一人で、虚空に向かって反論する。




「兄貴は子どもなんだよ。そう、親を裁いて、赦せねえでいる段階で止まってる、な。でもさ、ソレって意気がってナマイキ言ってるガキでしかねーってコト、そろそろ分からせてやりてーのよ。オレはボチボチ分かってるって、言ってやりてーんだよ。でもさ、兄貴ってばスネ坊だから、オレがゼシカとラブラブで幸せな家庭築いてたりしたら、意地でも分かろうとしねーのさ。だから、自分が『かつて有った状態』で示してやんねーと分かろうとしねーんだよ。」

反論したって、風呂場で反響するだけなんだ。


「別に、コレは贖罪じゃねーよ。ましてやオレが兄貴の代理ってワケでもねーよ。オレはただ、兄貴と一緒でねーと、『親』を本当に赦せる気がしねーだけなんだよ。」




オレたちの親父がああでなきゃ、オレたちはこうはならなかった。

オディロ院長がもっとうまくしてくれりゃ、オレたちはこうはならなかった…と、八つ当たりと分かりつつ、思う。


子どもってのは理不尽で、更に理不尽な親を裁き続けることで、大人に近づいていく。

けど、全ての人間じゃねーが、子どもは時に親を赦すこともある。

おそらくそれは、親の卑小さに気付き、憐憫の情と共に、自らに投影できるようになった時なのだろう。

ま、それにゃ、自分が親になるのが一番早いのかもしんねーけど。




オレは、髪をいじろうとしてまた指が空を掴んだのに苦笑する。

兄貴を探して、そして見つからないと悟って、オレは髪をバッサリと切り、この孤児院を始めた。

オレの過去を一緒に切り落としたつもりだったのに、過去はどこにも落ちて行ってないと、改めて気付く。




過去は消せない。

憎しみは忘れられない。

しかし、赦すことは出来る。




「せんせー、フロ長ーい。」

「はいはい、風呂くれーゆっくり入らせろってのっ。」

「これだから年よりは。」

「うるせーぞ、世紀の美青年捕まえて。」




今の生活を後悔はしない。

オレが望んだ道だ。

だがまあ、オレはやっぱり今になっても思うのだ。




お節介だけどな。

そろそろ、大人になろうぜ、兄貴。







2010/12/14




たわしさま、冒頭にもございます通り、12万ヒット記念作品(遅過ぎ)でございます。
なんつーか、自分の手で料理するには大きすぎるテーマでした、スイマセン。下手にマルチェロを絡めない方が良かったかもしれません。
北米版で、なんでククールが孤児院を始めたかという理由を考えてみたら、ククゼシが破局して、なんで破局しなきゃいけなかったかと考えたら、上のような理由になりました。

元は、オスカー・ワイルドの『ドリアン・グレイの肖像』の台詞「子はまず親を愛し、次に親を裁き、時には親を赦すこともある」です。
マルチェロは親(と、それが象徴する価値観)を裁く(断罪する)ところで終わってしまったので、ぜひ、最後の「赦し」の段階まで進んで欲しいな…と思ったのですが、自分じゃ進めなさそうなので、ククールがなんとか進ませてやりたいけど、そもそもマルチェロはどこじゃー!?
というお話でした(そうなのか?)

ほんとスンマセン、実は「多数×マルチェロ」で書こうとしていたのですが、いろいろ照れてしまったのでこっちでまず仕上げてみました。正月のお屠蘇で照れがどこかに吹き飛んだら、またそちらも書くかもです。

ともかく、リクありがとうございましたー。 inserted by FC2 system