一年で二番目に呪われた日

かんなさまからの4000hitリクエスト。「一見仲が悪いようで心のどこかで通じ合ってる兄弟。『弟を憎みきれていない兄』をほのぼのもしくはいっそコメディで」
との事ですので、善処してみました。どこまで善処できたかは、かんなさまのご判断にお任せします。





「はーあ…」
オレはため息をつきまくる。


いや、嘆息するオレが、美形度が増しまくって、更に女の子にモテモテってコトは自覚してるけどさ、それはそれとしてオレ、




毎年、自分の誕生日が来るのがすげえ憂鬱


って…可哀想な人生だと思う。








あー、クソ、今日もあからさまに不機嫌な顔してるよ、ウチの団長ってば。

いや、確かにいつでも“ベースフェイスは不機嫌”な人だけどさあ、さらにその度合いが増すワケだよ。


あーあー、オレに向ける視線の冷たいコト、冷たいこと…





つーワケで、うさ晴らしにオレはドニに行く。




「ククールぅ、もうすぐお誕生日ねー。なに欲しいー?」
酒場のバニーちゃんは、明るい笑顔でオレに対してくれるから、オレも明るい笑顔で答える。

「もちろん、キミ♪」
「やだあククールのえっちぃ♪」

あー、こんな会話しつつも心は憂鬱だ。


だって、戻ったら…またあの不機嫌なツラ見て、不愉快な説教聞かなきゃなんねーし。



だからオレは、酒場のオヤジが勧める酒を、勧められるままガブガブ飲む。

酒でアタマがぼんやりしてたら、そんなにいろいろ気になんねーし。




「ククールって毎年、お誕生日前になるとよく飲むわよねー。そんなに嬉しいのー?」
馴染み踊り子の、そんな呑気な言葉が、ぼんやりと記憶の片隅でひっかかっていた…コトだけは覚えてる。







「聖堂騎士団員ククール、お早いお帰りだな。」
多忙中の多忙のハズのわれらが尊崇すべき聖堂騎士団長どのが、なんと!わざわざ修道院入口でお出迎えしてくれたしてくれた“ので”、オレは恐縮のあまり泥酔状態から意識が戻った…ワケないし。



あークソ、忙しいんなら毎度毎度オレの帰り待ってんなよ。

オレ的ベストは、酒で記憶が朦朧状態であんたが怒ったり罵ったりするのを「はいはい」って聞いて、意識が戻ったら翌日の朝、しかも二日酔いはナシ!!
ってヤツなんだからさ。

あんたの顔見たら、意識戻っちまうじゃん。



なーんてオレが言える筈もなく、オレは敬愛すべき団長どのに“エスコート”されて、団長室まで小旅行としゃれ込んだ。







いつもの会話…聖堂騎士団の戒律から、聖堂騎士の名誉、ついでにマイエラ修道院と聖堂騎士の歴史まで、たっぷりと直立不動で拝聴させられるオレ。

もういい加減耳タコで覚えたっちゅーにっ!!




「何度も何度も何度も何度もっ!!…聖堂騎士団員ククール、貴様が毎度毎度規則違反を繰り返し、聖堂騎士にあるまじき深夜帰りを繰り返す理由は何だっ!?」




うん、いくらオレでも素面だった言わなかったと思うワケ。

酒の威力って怖いねー。普段なら口に出せないコトが、口からぽろって出ちゃうんだからさ。




「団長どののせいです!!」
言っちゃった、オレってば。





「…」
予想通り、団長どのの緑の目に怒りの炎が点る。
あーあ、やっちゃったね、オレ。


けど、ここまで来たら特攻するしかねーよな。





「女神の剣たる聖堂騎士とて、人の子です。ストレスも溜まるし、辛い事があったら、酒くらい飲みたくなりますよ、団長どの。」

「それと私となんの関係があるというのだ?」

「オレのストレスの原因は団長どのです!!」

泣く子も黙る聖堂騎士団長殿にこの台詞…オレって勇者だね♪
ま、その勇気の来る由縁が酒ってのがちょっと情けないけど。



「オレにばっかそんな不愉快な顔向けられたら、オレだってストレス溜まりますよ。一体、オレの何が不満だって言うんです?」



緑の目に、めらめらめらとメラゴーストのように炎が燃え上がるけど、オレは怖くない。


…だって、酔ってるモン。


「オレの誕生日が近付いてるからってイライラしないで下さいよ!!オレは別に、あんたに嫌がらせをする為に生まれて来た訳じゃないんだっ!!」






うーん…ホント、酒の威力ってスゴいね。普段のオレなら…言えないな




兄貴が…気の毒で…






でも、オレはさすがにオレの言葉を聞いた兄貴の顔を確認できるほどブレイヴ・メンではなかったので、視線を兄貴のペンダントにそれとなく向けて、兄貴の反応を待った。




怖っ…沈黙怖っ!!



ごめんなさい女神さま、オレはやっぱりブレイヴ・メンではありません。チキン野郎です。

チキン野郎が、ちょっと酒飲んで気が大きくなったので、チョーシ乗っただけなんです。

今の台詞、ひっくるめて全部ナシにして下さい…




なーんて都合のいいお祈りを女神さまが聞いてくれるハズないので、オレは沈黙を破るためにもっぺん口を開いた。


「そんなにオレの誕生日が嫌なんですか。」



兄貴は答えた。

「悪魔に食われろ、と言ってやりたいな。私にとっては…一年で二番目に呪われた日だ。」









とんとん
小さなノックの音。

兄貴がそれで気付いて、礼儀正しくドアを開けると、


「マルチェロや、まだ起きていたのかい?」
小さな院長が入ってきた。


「は…して、なにか御用でしょうか?」
さっすが大人だけあって、瞬間的な変わり身の速さだった。



「うんうん、法王庁からの手紙なんじゃが、どこにやったか忘れてしもうての。もしかして、お前に預けておいたかと夜中にふと思い出してのう…」

「法王庁からの法王教書でしたら、院長の離れの一階に保管してございます。…私が行って、取ってまいりましょう。」
「おおマルチェロ、一階にあるんじゃったらワシが…」

けど、兄貴は一礼すると、優雅かつ大股で歩き去ってしまった。






院長はそれを見送ると、オレを見上げて、困ったように微笑んだ。


「また悪い事をしたのかね。」
「うっかりおやつをつまみ食いしたガキみてーな言い方やめてくれる?」

オレは、つまみ食いが見付かって怒られてふくれているのをじいちゃんに見つかって慰めてもらったのにへらず口を叩く悪ガキみたいに、ほっぺたを膨らませて続けた。


「オレ、悪くねーもん。」

院長はうんうんと頷く。


「兄貴が悪いんだもん。」

院長はうんうんと頷く。


「だいたいさ、オレが生まれたせいで兄貴が家を追い出されたからってさ、オレの誕生日まで嫌う事ねーじゃんな。」

院長はうんうんと頷く。


「“一年で二番目に呪われた日”とまで言うんだぜ?」

院長は頷くのをやめて、オレをじっと見上げた。



「…なんだよ?」
「…ククールや。」
「なにさ。」
院長は答えた。


「なんで“二番目”なのかのう?」

「あ…」




そういやそうだ。

おとなしく“一番呪われた”っつえばいいのに、なんで“二番目”なんだろ?




院長は黙ってオレを見上げている。


「院長はさ、知ってんの?」
オレは一応、疑問形にしたけど、院長は知ってるに違いない。


「教えてよ、オディロ院長。」


院長は、ちょっと困った顔になって言った。

「それは、正気の状態では言えん。」

オレが不満そうな顔をすると…酔ってるから、いつもの数十倍は態度が様子に出るんだよ、オレ…院長は言った。


「じゃが、ヒントはあげよう、ククールや。耳をお貸し?」
オレが耳を貸すと、院長はこそっと教えてくれた。



「マルチェロが、毎年、様子がおかしい日はいつか…考えてご覧。」








翌日、オレは二日酔いをまともに抱えたアタマで早朝礼拝に出ながら、院長の言葉の意味を考えていた。

兄貴の視線がやっぱ痛いけど、オレは気にしない。

さんざ朝帰りを繰り返して、でも朝っぱらから叩き起こされて礼拝に出なきゃいけない聖堂騎士なオレは、日々の苦難に対処すべく、



完全に別のコト考えてても、見た目だけはカンペキに礼拝に集中しているフリ



世界選手権で間違いなく入賞確実な態度を会得していた。

逆境は人を育てる!



しっかし、「兄貴の様子がおかしい日」ねえ…
兄貴はいっつも機嫌悪そうに、眉間に皺寄ってる人だしなあ。


オレの誕生日以外に、機嫌悪そうな日なんてあったかなあ…






オレはその日一日、ひたすらその事を考えていた。

うん、出張礼拝の時も、院内奉仕活動の時も。


どうせ、いっつもやる事は機械的に一緒だから、考え事しながらでも出来るしね。



礼拝の時は、にっこり笑って挨拶して、威厳のありそうな顔でお説教して、そんでもってにっこり笑って貴婦人方だのお嬢様方だのと中身のない会話して、金貰って引き上げてくるだけだし、院内奉仕活動に至っては、決まりきった事を決まりきった手順でやるだけだし。







「おい、おいってば、ククール!」

「…」

「さっきから何ぼーっとしてるんだ?」

「…オレのどこがぼーっとしてるって言うのさ?」

「そこの雑巾掛けはもう済んだって俺が言うの、もう三回目だぜ?」


オレは、オレの大事な思索を邪魔したトマーゾを睨みつけた。
なんだよ、オレのカンペキな演技をあっさり見破ってさ。


「…なんか悩み事でもあるのか?」

トマーゾの台詞に、オレは可愛くぷすっとした顔で応える。

「カンケーねーじゃん。」

「関係なくはないだろ。いつまでもぼーっとされてたんじゃ、俺が迷惑だ。」

「オレがいつ迷惑かけたよっ!?」
オレが雑巾をぶん投げると、いいカンジで女神像に当たりそうになったのを、トマーゾは慌てて受け止めた。
そしてため息をつくと、雑巾を綺麗に洗ってから、オレに渡す。
オレが不機嫌なまんま受け取ると、トマーゾはもっぺんため息をついて雑巾がけに戻る。




なにさ、無視しなくたっていいじゃねーか。

「いくらあに…団長どのと同期の聖堂騎士だからって、団長どのみたいに無視しなくたっていいじゃん!!」
オレが叫ぶと、トマーゾは困ったような顔になって、オレに言った。



「人に聞かれたくない悩みなのかと思った。」
「…トマーゾ、あんたは団長どのと同期だよな?付き合い長いよな?」

トマーゾは頷く。

「団長どのがさ、いつもより不愉快な日っていつだろう?」

トマーゾは間髪入れずに答えた。
「最近。」


「そんなの分かってるって!!オレの誕生日が近付くと、団長どのの機嫌が日に日に悪くなるってのは知ってるって!!」

トマーゾは困った顔になった。


「なにさー!!オディロ院長は分かってるんだから、きっと分かるハズだって!!」

だむだむ
オレが足を踏み鳴らして怒ると、トマーゾはちょっと考えて言った。

「院長はなんておっしゃったんだ?」

「『マルチェロが、毎年、様子がおかしい日』って…」

トマーゾは、ああ、という顔になった。


「それなら知ってる。」
「いつ?」
オレが急かすと、トマーゾは答えた。


「誕生日。」
「だーかーらー!それは知って…」


「違う…マルチェロ団長ご自身の誕生日だ。」








「…え?」






オレはぐるりと記憶を巡らせてみた。

そういや、兄貴は自分の誕生日になると、やたらと静かになった。
自分の仕事はそりゃあカンペキにするけど、残りの時間は静かに女神さまにお祈りして過ごしていた。







そういや、毎年…そうだ…






「そりゃ、俺たち聖職にある者は、俗世に生まれた日よりも女神に身を捧げた日の方が重要だけどな。それでも、俗界に家族のいる奴は贈り物が届いたりして、わりと浮ついた気分になるものなのに、なんであんなに静かになるのか…っておいククール!!掃除は?」
トマーゾが何か言ってたけど、オレの耳には入らなかった。

オレはダッシュで、オディロ院長の住む離れに向ったからだ。












ばんっ!!

オレが勢いよくドアを開けると、院長はうつらうつらしていた体を慌てて起こした。


「おおう、びっくりした。ククールや、そんなに慌てて、なにかあったのかね?」

「分かりましたっ!!兄貴の様子がおかしい日って、兄貴の誕生日でしょ!?」

院長は、髭の中の小さな目をぱちぱちさせ、そして頷いた。


「へへへ、オレってばスゴい!!」
そして、オレはいかにオレが一生懸命考えたかを得々と院長に聞かせて…




気付いたら、院長はまた寝ていた。






「院長!!なんで寝るんだよ!!考えてきたんだから、早く正解教えろよ!!」

オレがゆさゆさ揺さぶったけど、院長は目を開けない。




「オディロ院長のケチー!!」
オレがだむだむと足を踏み鳴らすと、院長はむにゃむにゃと何か…でも、はっきりとこう言った。



「ワシは居眠りをしておる。したがって、これは寝言じゃ。よいな?ワシは眠っておるから、正気の状態ではない。」

「…」
オレはなんの事だかよく分かんなかったけど、とりあえず、こくんと頷いた。



「なあククールや。マルチェロはどうして、己の誕生日に静かに女神に祈ると思う?」

「…女神さま、この世に生まれさせてくれてありがとうのお祈り?」

院長は、哀しそうに首を振った。

「誕生日とはのう、自分をこの世に生み出し、育んでくれた全ての者に感謝する日じゃ。それは女神であり、親であり、きょうだいであり、周囲の人間であり…そうして人は、自らの存在を肯定するのじゃ。だからククールや、誕生日を呪われたら悲しかろう?」

「うん。」


「あれは…うむ、ククールや、お前が修道院にきてすぐのマルチェロの誕生日の事じゃ。マルチェロはその日、黙って女神に祈りを捧げていた。…ワシは思ったよ。女神に生誕の感謝の祈りを捧げるなんて、この子は殊勝な子じゃと…じゃがの。様子を見ていると、マルチェロの顔はとても哀しげなのじゃ。ワシは気になってマルチェロに尋ねたよ。そうしたら、あの子は言うた…」

院長は、もっと哀しそうな顔になって続けた。


「『院長さま、僕はククールが嫌いです。』と。」

「…兄貴の誕生日、カンケーねーじゃん。」

「まあ最後まで聞かんかい。…ゆっておくが、これは最初からさいごまで寝言じゃからな。マルチェロは続けた。

『ククールが生まれたから、僕はあの屋敷を追い出されました。そして母は死にました。僕はあの子が嫌いです。本当に憎いです。でも…僕は考えてみました。僕とククール、間違っているのはどっちだろうって…』」

「…間違ってる…?」

「うむ。マルチェロは“間違っている”とゆうた。『ククールの母は屋敷の奥様です。そして僕の母はメイドで、…父とは女神さまに祝福された結婚の秘蹟を経ていません。だから僕は…僕は庶子です。』」

「…」
オレは声もなく、院長のつむった目…だけど、とても哀しそうな目を見つめる。

院長も、ぎゅっと目をつむったまま、続ける。


「『院長さま、僕はククールが嫌いです。あの子なんか生まれてこなければ良かったと心のそこから思います。でも…本当は、間違っているのは僕なんです。女神さまに祝福されていないのは僕なんです。ククールが生まれなければ母は死にませんでした。でも、僕が生まれなければ、母はそもそも屋敷から追い出されはしなかったんです。』」


オレは、静かに祈りながら、時々、沈痛そうな面持ちになっていた兄貴の顔を思い出していた。



「『院長さま、だから僕は祈ります。僕の罪をお赦し下さるよう、女神に祈ります。この世に生まれ、母を不幸にし、そして…』」


「…そして?」


「…『本当なら、憎まれる筋合いのない弟を憎んでしまう僕を、女神さまがお赦し下さるように。』」





なんて哀しい祈りなんだろう。


オレが生まれた事はオレが悪い訳じゃないように、兄貴が生まれたのは兄貴が悪い訳じゃない。
兄貴と兄貴の母親が屋敷を追い出されたのも、兄貴が悪い訳じゃない…もちろん、オレの責任じゃないけれど。




兄貴がオレを憎むのは…そりゃムカつくけど、筋が通らないとは思うけど、理解できない訳じゃない。







でも、兄貴が生まれてしまった事で、女神に赦しを乞わなきゃなんないなんて、そんな理不尽な話はない。





「ワシは、そんな哀しいお祈りをしなくとも、女神はお前を愛しておられるし、お前は何も悪くないとマルチェロに何度も言ったよ。でも…」

院長は、小さくため息をついた。


「あの子は毎年、祈り続ける…」





オレは、黙って院長の顔を見つめた。

「何度も何度も繰り返すが、これは寝言じゃ。起きたらワシは覚えてはおらん。よって正気の言葉ではない。なんせワシは女神さまに、決して正気の状態ではマルチェロの言葉を他には漏らすまいと誓ったからの。じゃから、お前もお忘れ、ククールよ。」

「いやです!!」
オレはきっぱりと断言すると、院長にお休みなさいの挨拶をして、部屋を出た。





「なら、お前が一番いいと思うことをしなさい、ククールよ。」

後ろから、聞こえよがしの“寝言”が聞こえてきた。












オレはドニに繰り出して、誕生日の日付になるまで女の子たちとどんちゃん大騒ぎをして、そして修道院に戻った。




想像通り、爆発寸前の兄貴が修道院入口で出迎えてくれる。


「聖堂騎士団員ククール、騎士団長の“一年で一番呪わしい日”に帰院いたしましたッ!!」

「…一番?」

「二番ではありません、一番ですっ!!こないだ『もう二度としません』と誓ったのに、すぐさま規則破りをする奴は、団長どのにとって、いっちばん呪わしい奴でしょうから、一番です!!二番ではありません!!」

「…」

「オレは、規則を破ってドニに向かい、規則を破って酒場でイカサマ博奕をし、儲けた金で規則…つーか戒律を破って女の子といちゃいちゃして、規則破りにもほどがある午前様です!!めっちゃダメな奴です。悪魔にすげえ勢いで呪われてんのかもしれません。」

「…」

「団長どのは、潔白で立派な方です!!アタマもいいし、剣の腕も立つし、カオも良くて、しかも戒律とか規則とかバリバリ遵守する方です!!オレはそんな団長どのをソンケーしまくっています!!」

「…」

「だから、団長どのが呪わなきゃなんねーのは、オレです。いや、実はあんまり呪ってほしくはないけど…それでも、オレを呪った方がマシです!!」

「…どこで聞いた?」

「人間、どんなにエラい方でも、うっかり寝言を漏らしちゃうコトもあります!!だって人間だもの。でも、その人だって団長どのが大好きだから、うっかり寝言も言っちゃったんでしょう。ううん、院長だけじゃなく、修道士も、聖堂騎士も、みんな団長どのを敬愛しています!!団長どのがいなかったら困ります!!」

「…寝言…な…」
兄貴が冷たくない苦笑をしたので、オレは最後に畳み掛けた。


「そしてオレも団長どのが好きです!!団長どのがいてくれて良かったです!!団長どのが生まれてくれて良かったです!!オレ…オレ…オレ…けっこうダメな子だから、団長どのみたいな立派な兄貴がいてくれて、本当に嬉しいんです…」


ヤバい、涙声になっちまった。

酔った勢いで、テンション上げて言うつもりだったのに、泣いたら台無しじゃねーか、オレ。



「だから…だから…オレの大事な誕生日を呪ってくれてもいいから…だから、だから…」

涙で声がつまった。

うわ、すげえ恥ずかしい。

でも、涙で視界が霞んで来て、兄貴が近付いてくるように見え…




「聖堂騎士団員ククール。」
「…はい…うわあっ!!」



オレはいきなり、兄貴に修道院を取り囲む河の中に突き落とされた。





ちょ…なんだよ、この仕打ち。


酔いもいい気分も涙も吹っ飛び、オレが不満そうに兄貴を見上げると…つっても、兄貴からオレの表情は見えなかっただろうけど…兄貴は言った。


「水は聖なるものであり、邪悪を洗い流す力を持つ。貴様も聖職者の端くれなら、知っているな?」

「…」
だからなんだよ。




「…貴様と貴様の誕生日から、聖なる水の力で邪悪な呪いを洗い流せ。」

オレは、兄貴の顔を凝視した。
兄貴はすぐに身を翻したけど、その直前に見せたのは、間違いなく





ちょっと優しい笑顔





だった。

















まあ、朝と夜は寒くなってるからね、そりゃあ、深夜に酒に酔った状態で“水浴び”したら、風邪くらいひくわけよ。なんせオレ、華奢な美青年だからさ。


「うー…寒…」
一眠りしたけど、熱はあんま下がってない。


「兄貴のバカ…」
オレは呟いたけど、でも、ちょっとだけ幸せだった。
だって…

オレの誕生日は、“ちょっぴり手荒な禊”によって、ようやく呪いを解かれた訳だから。





喉が渇いたオレは、卓の上の水差しに手を伸ばし…そしてそこにあった何かに手が触れた。


「…?」
小さな銀の十字架と、メモみたいな手紙。





聖堂騎士団員ククール。

解呪された貴公が、より立派な団員となることを望み、そしてその第一歩として朝の礼拝を真摯な気持ちで受ける事を願い、この十字架を贈る。


マイエラ修道院聖堂騎士団長マルチェロ




文面は、激しくそっけない。けど…


「兄貴からの誕生日プレゼントだーっ!!」
オレは叫び、激しくじたばたし、そして…熱が上がってしんどくなって、ベッドに倒れこんだ。


「兄貴、あにきー!!」
オレは小さな十字架に頬擦りする。



「オレ、めっちゃ真面目に朝の礼拝出るー!!これもって出るー!!女神さまにかけて…一ヶ月は。うん、一ヶ月くらいは真面目に出る。」





熱で意識が朦朧としてきたけど、オレは嬉しくてたまらない気分で、銀の十字架にキスした。

そして、ベッドに寝たままだけど、女神さまに感謝のお祈りを捧げた。









「女神さま、オレをこの世に生み出してくれてありがとうございます。そして、深夜に河に突き落とされて、ベッドで一日過ごす羽目になったけど、それでも生まれてから一番幸せな誕生日をオレに与えてくれてありがとうございます。更に…」




オレは、もう一度、銀の十字架にキスした。


「オレに兄を与えてくれた事を、心から感謝いたします。」




2006/9/11





だだっ子アホの子ククール話。彼がまだ高校生くらいの年の話だと思ってください。だから少し(少しか?)子どもっぽいです。

かんなさま、4000hit記念のお話です。ノーマル希望…のようでしたが、かなりククマル風味ですね、すいません。
ついでに、「心が通じ合ってないわけでもない」じゃなく「あからさまに兄大好きなククール」ですね、それもすみません。


ちなみに「マルチェロが一番呪ってるのは、実は自分が生まれたコトではないか?」というのは、「rose kruze」のラグナロクさまとのチャットで頂いたご意見です。勝手に使ってすいません。
でも、ククールが生まれた事を憎むって事をつきつめていくと、確かに生まれて悪いのはマルチェロだ、って結論に達します。彼は頭のいい人なので、多分、理屈の上ではそう思ってたと思います。 逆の言い方をすれば、そこらへんに二人の仲をなんとかするカギがあったんじゃないかなーと。

という訳で、ほのぼののククールは、
「そこらへんの矛盾を兄貴に真正面から突きつけることが出来(酒の勢いを借りてだけど)、結果、ぼちぼちの関係を築くことが出来た」
という事にしました、今。
ゲームのククは賢いので、きっとそんな兄貴があからさまに傷つく事は言えなかったから、あんな事になってしまったのだと思います。
さらに言うと、ゲームの兄はもっと頑ななので『童貞聖者』の二人は、見事にククールの片思いなのですが、これは“ほのぼの”なので、兄にも少しスキ(笑)を作ってみました。


言い訳ばっかの作品ですいません。ともかく、少しは仲良し?になれそうな可能性のある終わり方にしてみました。これで良いでしょうか、かんなさま?いや、ダメって言われても困るんですけど。
ともかく、これでどうぞっ!!

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