いちゃらぶの場合







兄貴のオレの返答を聞くや否や、オレの腕をひっぱって野原をどんどん歩いていった。



「兄貴ってば、どこ行くんだよー?」

兄貴は答えずに、二時間はどんどん歩いた。




ルーラを使い慣れてる、か弱いオレの足が、そろそろ棒になりそうになった時だった、兄貴は言った。



「着いたぞ。」











着いたのは、 一面のお花畑 だった。



はっきしゆって、兄貴とお花畑って取り合わせは、 びっくりするほど意外だった ので、オレは呆然とする。


てか、なんでこんな場所知ってるんだろう、兄貴ってば。




兄貴はそんなオレを見て、 団員を叱責する団長口調(つまりは峻厳な声) で言った。



「ではククール、 契約内容を確認 しようか?」

「兄貴…これって契約なの(泣)?」

オレは兄貴と心からいちゃらぶしたいのに…
オレのそんな切ない乙女心を、兄貴は完全に無視して続ける。



「見ての通り、ここは一面の花畑であり、私の長年蓄積してきた知識の上からも、 “いちゃらぶ”という行為を行うには、最適の場所であると自信をもって断言できる!!

「ねえ兄貴、だったらも少し柔らかい言い回しをしようよ。神学論議じゃないんだからさ。」

オレは訴えるけど、兄貴は聞いているそぶりはない。
…まあ、いつもの兄貴もそうだけどさ。




「貴様が望んだのは“私といちゃらぶ”する事、だな?」

「うん。」

「では、良かろう。 私は、長年の学問によって得た知識と、社会生活で会得した演技力の全てを総動員して、貴様といちゃらぶしてみせよう!!


“知識”と“演技力”という言い方は激しく気になったけど、それはそれとしてオレは 兄貴と全力でいちゃらぶ ってコトに激しく萌えた。







「はいはいはーい、オレもかくにーん。」

「なんだ?手短にしろ。」

「ホントに兄貴と全力でいちゃいちゃしてもいいの?」

「ああ」

「『あーにきっ♪大好きー♪ぎゅむっ』
ってしていいの?」

「ああ。」

「『あーにきっ♪ちゅーしちゃうぞー』
って、言っても肘打ち食らわさない?」

「ああ」

「そんでもって、実際にちゅーしてもいいの?だいじぶ、オレちゃんと食後に歯は磨く人だから口臭とかは気にしなくていいから。」

「お前に口臭があろうが、なかろうが、別に構わん。」

「『兄貴ー、オレのコト愛してるー?』
つったら
『愛してるよ、ククール』
って、すげえ優しい笑顔で言ってくれる?」


ええい、しつこい!!全力でいちゃらぶと言っただろうが!! つい先日まで、大司教だの大司祭だのと言った役職のブタどもに、心にないにも程がある美辞麗句その他恥ずかしい台詞をさんざ口にするという、世にも忌まわしい体験はした!! どうせ今更の体験だ、相手が貴様だろうが今更何を躊躇する私でもないわっ!!



「兄貴…“どうせ今更の体験”って…どゆこと(泣)?兄貴は誇り高き孤高の男じゃなかったの?」

「黙秘権を行使する…質問は以上か?だったらさっさと始めろ!!」



オレは激しく気になったけど、 まあ、言うだけなら兄貴のナニが減るワケでもない ので、それ以上は気にしないように努めることにした。










というわけで。

オレは兄貴と全身全霊をもっていちゃらぶするコトにした。




「あーにきっ♪」

オレが、 とびきりのエンジェルスマイル で言うと、兄貴は
「なんだい、ククール♪」
世界を震撼せんばかりの甘ーい笑顔 で応えてくれる…うん…ぶっちゃけ あんまりに、いつもの兄貴と違いすぎて少し怖い けど、それはそれとしてすげえ幸せ♪











兄貴は、優しい笑顔を浮かべたまま花を摘む。

「ククール、この色はお前にとても似合うよ。」

そして、その花をオレの髪の毛にそっと飾ってくれた。


えへへへへへー

兄貴のさっき言った“長年の学問によって蓄積した知識” ってのが、いったいドコの三文少女漫画かとか、それを兄貴がどのツラ下げて熟読して知識に変換したのかとか、いろいろとアタマの片隅で疑問が沸き起こったけど、 それはそれとしてオレはとっても幸せだった。











「あーにきっ♪」

ぎゅむっ
と音がしそうなほどオレは兄貴を強く抱きしめたけど、兄貴はちいとも嫌な表情をしなかった。



「兄貴ってば、オレの髪の色、好き?」

「好きだよ、月の光のような銀色だ…」

兄貴はそう言って、オレの髪を優しくかき上げてくれた。


「兄貴、オレの目の色好き?」

「好きだよ。広く澄み切り、まるで鏡のような湖の色だ…」

「へへへ、でも、映してるのは兄貴だけだぜ?」

「それが本当だと…嬉しいな…」

「いや、オレとしちゃただの事実なんだけど…」

オレはそう言いながら、 慈愛とオレへの愛情をいっぱいに湛えた 兄貴の翡翠色の瞳を覗き込む。



「兄貴…」
「なんだ、愛しいククール…」

愛しいククール… 愛しいククールだってさ、どうしようっ!?



「オレのこと、どれくらい愛してくれてる?」

「言わなければ、分からないか…?」

「言って、兄貴…」

微笑を湛えた兄貴は、オレの耳元で囁くように言う。


「この場に咲き乱れる花々の、花びら一枚一枚すべてが、萎れ枯れ散るその時まで、お前の美しさを語り、お前への愛を囀り続ける事があったとしても、私の心の内のお前への思いには叶うまいよ…ククール…」

そして、 うっとりした翡翠色の眼差し で、オレの瞳を覗き込んだ。











「兄貴…」
オレは兄貴にそっとキスした。

そして唇を離して、もう一度呼ぶ。
「兄貴…オレの大好きな兄貴…」

「ククール…私の最愛の弟、ククール…」

最愛の弟、ククール…
最愛の弟ククールだってさ、どぉうしようっ!!??



オレの上半身は、もう幸福の極致でおなかいっぱいにも程があったけど、オレの下半身は
もう辛抱たまらん!!
と悲鳴を上げていた。



「兄貴ー!!」
オレは叫ぶと、兄貴を押し倒し、ぶちゅっといって、舌を入れようとした。
























ごきゅ!!



その瞬間、オレの首は万力のような力で締め付けられ、かなりヘンな方向に曲がった。




「兄貴、痛…」

「ナニをとちくるっている、貴様!!」

そして、いつもの兄貴の口調…

「私が貴様と契約したのは、“いちゃらぶ”であって、“ずっぽし”ではない。よって、これ以上貴様がなにか私にしようとするのは契約違反だ。」


「だって…だって兄貴、ちゅーしていいってゆったじゃん!!」

「“いちゃらぶ”という言葉で許される接吻は唇に唇で触れるまでだ。 舌まで入れる事は、道理に反する!!

「なにさー、最近の少女マンガは最後までアリだもん(泣)ってか、オレや兄貴みたいないい年したオトコがさ、ここまでいちゃいちゃしといて、 ちゅっ で我慢出来るハズないじゃん!!」

「出来るも出来ないもない、我慢しろ!!」



「兄貴はぜんぜん分かってない!!いちゃらぶってモンを全然分かってない(泣)」

「言語交換行為に、そんな大層な理想があるとでもいうのか?」

「違うのー!!全然ちがうのー!!そりゃ、愛の言葉と眼差しを交わすのは大事だけどさ、 同じくらい大事なものが二人の間には必要なのっ(泣)!! それナシで愛してるって言葉だけ交換したって、仕方ねーじゃん(泣) オレ、そこまで精神的なニンゲンじゃねーもん!!オトコノコだもんっ!!


兄貴は冷たく不審そうな目で(ところで、今まであんだけオレへの愛情いっぱいな目してたのに、いったいアレはどこに消え去ってしまったんだろう?)オレを見上げた。

「貴様の言う“同じくらい大事なもの”とはなんだ?」


兄貴の問いに、オレは オレの最大出力エンジェルスマイル で答えた。

「そりゃあもちろん…」

「もちろん?」


肉体の交歓





















兄貴は答えた。


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