思春期の男の子の頭の中
とりあえずククールがバカですが、それでもよろしいでしょうか?
ドニの村で、ため息をつく、美青年(字あまり)
「ククールぅ、なぁにため息ついちゃってんのー?」
「フッ、ちょっと、な…」
「やっだぁ、もしかして…恋?」
「ひどーいっ♪アタシとゆーものがありながらー!!」
ドニの村の酒場で、女の子たちに囲まれながら、カリスマ兄弟の弟は、きざったらしく髪をかきあげた。
「ふふっ、君たちのコトはもちろん愛してるよ。ただ…それでも忘れられない人ってのが、いるもんさ。悪ィな。」
「ひっどーい、この浮気モノー♪」
「くくく、モテる男はツラいぜ。」
ククールの存在は、実は ドニの女の子達のマスコットであり、誰も本気で妬きなんかしないということを、この銀髪のクソガキはよく分かっていなかった。
その証拠に、女の子達はククールそっちのけで、ククールにナゾの本命現るネタで盛り上がってしまった。
「…まあいいや。」
ちょっぴりさみしかったククールだが、いい機会と、酒場をそっと抜け出した。
「ほう、また午前様か。いいご身分だな、聖堂騎士団員ククール。」
マイエラ修道院騎士団長、マルチェロかせ冷たい目で睨む。
「おやー?もしかして、起きてわざわざオレの帰りを待っててくれたんですかー?嬉しいなー♪」
ククールは都合よく脳内妄想して返答したが、騎士団長はタチの悪い軽口だと思ったらしく、重々しく告げたのだった。
「明日から一月、巡礼用便所掃除を命ず。以上だ、下がれ。」
「ちぇ、せっかくラブコールしたのに…兄貴っては冷てぇ…」
布団のなかでゴロンゴロンと寝返りをうちながら、ククールはぶーたれた。
ここまでお読みの、賢明なる読者諸氏にはもうお分かりかと思うが、ククールの本命とは、異母兄のマルチェロその人に相違なかった。
「兄貴ってば、オレがこんなに愛してっのに、ぜんっぜん気付いてくんねーんだもん。オレ、兄貴のコトを考えるだけで夜も眠れないくらいムラムラするくらい、兄貴を愛してんのにさー。」
恋心と下半身が直結するお年頃のククールは、ぶつぶつ言いながら毛布を抱きしめた。
「やっぱ…言わなきゃ分かんないかな。…そうだっ、告白しようっ!!そしたら兄貴もオレのコトを実は愛してたって気付くに違いないっ!!てか、気付くっ!!コクるがよい、オレっ!!」
思春期の青年の単純思考でそう決め付けると、ククールはさっそく、両思いになった兄貴と相思相愛でズッポシ♪!!というエロ妄想をオカズにしてイッパツ抜くと、爽やかに眠りについた。
翌日、便所掃除へと向かう途中のククールは、人影のない小部屋に、兄と騎士団員が二人っきりでいるのに気付き、さっそく様子をうかがうために身を隠した。
「こんなところに私を呼び出して何の用だ?」
騎士団員はしばらくもぢもぢと恥ずかしうつむいていたが、意を決したように顔を上げると、吠えるように叫んだ。
「小生は名誉ある騎士団員に選ばれましてから本日までぇっ!!団長殿を常に敬愛しておりましたぁっ!!しかぁしっ、近日、団長殿のお姿についに劣情をもよおすようになりましてぇっ!!つきましては、致し方なぁしっ!!ぜひに、ぜひ!!小生と義兄弟の契りを……ぼぐわぁっ!!」
団員は最後まで言い終えることすら出来ず、顎下からキレイに、最愛の団長の拳をくらって、悶絶した。
「こやつの騎士団からの除籍命令書類を作らねばならんな。また仕事が増えた…」
マルチェロ団長は、ちょっと不愉快そうに呟くと、さっさと立ち去った。
「…」
ごしごしごしごし
巡礼用便所。
「畜生、トイレは綺麗に使えっての。」
麗しい銀髪を、三角巾で包み、力強くも秀麗な白い手に便所たわしを握りながら、ククールは便器を一生懸命こすっていた。団長殿の、
便所掃除当番のものは、便器を、舐めても塩味がしないまでに綺麗にすること。違反したものは、自己の清掃した便器を舐めてもらうのでそのつもりで
という厳しい通達により、さしものククールも、便所掃除の手を抜くことが出来ないのである。
「…やっぱ、正面から告白ってのは、ちと短絡思考だったかな。」
便器掃除をしながらでも、妄想は出来るのである。
「やっぱ、和姦でいこうってのがヌルかったかな。」
ごしごしごしごし
「やっぱオトコは力ずくだよなっ♪」
ククールのその爽やかな笑顔は、 場所が便所であるというマイナス要素を完全に打ち消すくらい爽やかだった。
「確かに兄貴は強ェけど、不意さえつけばオレだって…」
むふふふふふふ
Pギン村のDR.NORIMAKIのような笑いを浮かべ、場所が便所なのを幸い(ちなみに
「清掃中、ご迷惑をおかけしますが、他のお手洗いをご利用ください」
の立て札を立てているため人はいない)さっそく兄貴強姦妄想でヌこうとしたククールだったが、ふと思い出した。
それは何ヶ月か前のこと。
兄が呼ばれて、とある貴族の屋敷に出張ヘルス祈祷に言ったときの話である。
貴族の当主は実は兄に出張祈祷ではなく、出張ヘルスを期待していたらしく、睡眠中の兄の武器防具を完全に隔離、自己にはマジックバリア及びバイキルト及びスカラ、果てはフバーハまで重ねがけし、果ては短期集中で習得したボミオスを兄にかけるという、男としてほれぼれするくらいの完っ璧な布陣で強姦に及んだらしい…
が結果は、
当人
顔面大破
下半身不随(当然、アレ、も)
修道院への寄付
三十七万ゴールド(その貴族家の全財産のおおよそ五分の三)
ということであった。
「んー…ムリ♪」
ククールは、 ドニの女の子全てを魅了せんばかりのいい笑顔 で、強姦計画を諦めた。
ごしごしごしごし
ごしごしごしごしごし
ごしごしごしごしごしごし
ごしごしごしごし…
単調な音をたてながらどうやったらナマ兄貴と合体できるか、をひたすら思考するククールに、ふと天啓がふってきた。
それが 聖地ゴルドの麗しい女神様からつかわされたものなのか…は女神様以外、誰も知らない
女神様がくれたわりに、教育上よろしくないことを叫ぶククールの声は、狭い便所内で微妙に反響した。
「媚薬の一つでも、盛っちまって、んでもって……んぷぷぷぷぷぷ」
ククールは、
ククール「ほら、どうしたよ兄貴…ココがこんなにぐちょぐちょになっちまって…(くすくす)」
兄「あ…きさ…ま、ククール…!わたしになにを…」
ク「ちょっと、ね。でも、それにしたってカンジてんじゃねえか、兄貴。こんなに、さ。」
兄「あ…ああっ(涙声)」
ク「はやく言いなよ。『オレを下さい』ってさ…もう我慢の限界だろ?」
兄「ん、んふ…(切ないあえぎ声で)だれ…が…」
ク「なかなか強情だな。コレでも我慢できる?」
兄「……!!??…ん…は…あ…くくー…る…も、もうダメ…は…や…」
ク「聞こえないなあ。もっとハッキリ言ってみなよ…」
と、美味しいトコまで妄想したところで
「おーい、ククール、メシだぞー。」
野太い声が妄想を中断した。
ゴム手袋を外し、手を洗い、三角巾を外すと、ククールは微妙に直らない三角巾癖はみなかったコトにして、食堂へと急いだ。育ち盛りは腹が減るのである。
「今日のメインメニューはなんだ?」
食堂当番の騎士団員は、激しくチカラをこめて言った。
「聞いて驚け。カニクリームコロッケだっ!!」
「わーい、久々にぜーたくなメニューだな。」
最近、食堂メニューで、牛肉入りコロッケですらない、プレーンコロッケしか食したことがなかったククールは激しく喜んだ。
「こないだの慈善バザーで結構黒字が出たんで、団長殿が特別にっ!!許可してくれた特別メニューだ。もう一年は食えないと思って、味わって食え。」
「さすが団長殿♪」
兄への愛をカニクリームコロッケで再確認したククールへ、食事当番団員から声がかかった。
「で、団長殿の食事なんだが、団員満員からの感謝をこめて、キャベツを大盛りにしてみたっ。」
どんっ!!
キャベツの大盛りは、本気で大盛りだった。というか、実態を正しく伝えるならギガント盛りとすら名づけるべき代物であった。一言で分量を説明するのは困難だが、まあ、リップス一日分のエサくらいは優にあった。
「というワケで、団長への給仕は一人じゃムリな分量になったからククール、給事役を手伝ってやってくれ。」
「…えっ!?」
給事役の気の弱そうな団員は、なぜか激しく動揺した。
「あの…一人でいけますから…」
「いいっていいって。」
「は…はい…」
という訳で、キャベツのギガント盛りを抱えたククールと気弱な団員は、マルチェロ団長の部屋へと向かった。
コンコン
「誰だ?」
「団長どのっ♪ランチはオレがいい?それともカニクリームコロッケ?両方も可♪」
「カニクリームコロッケで十分だ。」
あっさりかわされて、ククールは少し不満だった。
「マルチェロ団長、パンと…お飲み物はワインでよろしいでしょうか?」
気弱な団員がおどおどと給事をする横で、ギガントキャベツ盛りをどかん、と置くククール。
「食事が済んだら来客を迎える。水でいい。」
「なあ団長殿、こんなおもーいキャベツ盛りを、 か弱い身で運んできてくれたオレへの感謝の言葉は?」
「役立たずの貴様でも、出来る仕事があって良かったな。」
兄は、塩もふらずにキャベツをたいらげはじめた。
(さっすが貧乏性、出たものは残さずに食べる主義なんだ。)
とククールが感心している間も、気弱な団員はやたらそわそわカニクリームコロッケをチラ見していた。
(なんだよこいつ、そんなにカニクリームコロッケが好きなのか?そりゃ、オレも食堂で食ってたら、ドンくさい団員から巻き上げるくらいには好きだけどさ。)
優雅で的確なテーブルマナーを完璧に守りながらも驚異的なスピードでキャベツを完食した兄は、カニクリームコロッケに手をのばす前に、
ぱちん
と、手袋をはめたまま指を鳴らした。毎度ながら、どういう原理で音が鳴っているのか、ククールには皆目見当がつかない。ともかく、その指の音に誘われてやってきたのは…
げげーろ
人面ガエルだった。可愛い首輪に
げろちゃん
と書いてある、兄の字で。
ゲロちゃんはカエルのくせにやたら馴れ馴れしげに兄に近づいた。
そして、ククールに対するのより三千万倍は優しげな表情で、兄は微笑むと、ゲロちゃんにカニクリームコロッケを食べさせた。
そして
げげーろ
ゲロちゃんは、なまめかしい声を発して、ククールに対して求愛のしぐさをはじめた。
「…」
涙目でぶるぶる震え始めた気弱そうな団員の肩を、兄は叩き、感情のない表情と声で言った。
「事の仔細は、地下の異端審問室で聞こうか。」
「…」
兄に去られてしまったククールに出来ることは、兄に可愛がられて?いる憎たらしいカエルを踏みつけながら、手付かずのパンとジャガイモの皮フライ(よそでは廃物となるはずのジャガイモの皮を再利用したマイエラ修道院の名物)と大根の菜っ葉ソテー(これも、スーパーでダンボールに入っているお持ち帰り自由の葉っぱを再利用した、修道院の名物)をたいらげることだけだった。
夕方。
便所大掃除を完遂したククールは、切ない気持ちで一杯だった。
「正面からの告白もダメ、強姦もダメ、媚薬を盛るのもダメなんて、一体オレはどうしたら兄貴と合体できるんだよっ!!」
だんっ!!
壁に拳を叩きつけ、苦悩するククールに優しい声をかけてくれたのは、マルチェロとククールの育ての親、修道院長のオディロだった。
「どうしたんじゃ、ククール。ずいぶん荒れておるようじゃが。」
「院長様…いや、なんでもないんです…」
オディロ院長は、慈愛のこもった瞳でククールをみつめた。
「そうかそうか…だがの、ククール。誰かに話すだけで、楽になる事もあるんじゃぞ。」
「院長様…」
ククールはその瞳に見つめられて、たまらずに口を開いた。
「オレ…オレ…兄貴と(肉体的に)仲良くしたいのに、兄貴ってばちっともスキがないんです。口をひらけばオレへの嫌味ばかり。オレが聞きたいのは、兄貴の甘い(喘ぎ)声なのにっ!!」
「そうか、そうか…」
院長は悲しい光を目のうちにやどして続けた。
「お前とマルチェロは、初対面の時からすれ違っておった。時が解決してくれるものと思うておったが…マルチェロは強情だからの。だがの、ククール。」
「はい。」
「諦めてはいかん!!諦めたらそこで試合終了じゃ!!」
院長の優しくも力強い言葉は、ククールの心を奮い立たせた。
「はいっ!!院長!!オレ、諦めません!!ぜったいにっ!!絶対に!!兄貴とこれ以上ないってくらい仲良くなってみせますっ!!」
ククールの力強い断言に、オディロは満足したように微笑んだ。
「それでよい、それでよい。若者はいつもネバーギブアップじゃ。わかめ王子はいつも浪間でアップアップじゃ、ほっほっほっ!!」
ククールへ勇気と、そして、分かりにくく、しかも理解したとしても一ミリグラムも面白くない駄洒落を残し、オディロ院長は去っていった。
「よおし、明日からもがんばるぞぉっ!!一回や二回や三回はうまくいかなくても、いつの日か絶対!!兄貴をオレ無しではいられないカラダにしてやるからなっ!!」
月に向かって吠えたククールのその言葉は、その邪悪な雰囲気だけが地下の異端審問室(別名拷問室)の兄にも伝わったということである。
「…最近、不祥事が続いて困る…」
特に、あの生きる不祥事をなんとかせねば、
と、マルチェロ団長は、深く心に誓うのであった。
終わり
こう…マルチェロ団長は、マイエラ修道院の聖堂騎士団みんなに狙われてるといいと思う。
ちなみに、あの修道院が経済的に成り立っているのは、団長の徹底した節約策と、ありとあらゆる手段で寄付を集めるその姿勢によるところが大きすぎると思う。団長無きあとのあの騎士団、多分ツブれるよなあ…
しかし団長、そんな騎士団食堂のメニューまで一人で切り盛りしてたら、諸葛某のように過労死しますよ。
ともかく、こんなアホ話を最後まで読んでくださってありがとうございました。