ツン:デレ比率 99:1

元拍手話。
ゲルダ姐さんはゲームでもかなりのツンデレですが、拙サイトではもっとツンデレです。




またこの季節になっちまった。


おれは天を仰ぐ。

外はぴゅーぴゅー寒風吹きすさびつつも、だんだんヌクくもなってくる2月も半ば。




世間さまでは「バレンタイン」なんぞと呼ばれるイベントも間近だ。









「バレンタインだぁ?ハッ、下らないね。あんな甘ったるいシロモン食うやつァもちろん、くれてやるやつの気の方が知れないよ。」

ゲルダ姐さんはそう仰いますけどね。

みんな知ってるんスよ、その机の中に、「手作りチョコレートキット」が、1月は前から準備されてるの。




「ましてや、もらって喜ぶヌルい男なんて、見るのもムカつくってモンよ。」

もー…だったら、そこでほんのりいい匂いさせてる、湯煎にかけられたチョコは何に使うんスか?


みんなそう思ってるけどよ、もちろん、何も言わねえよ。




「いいかい?アタシは次のトレジャーハントの計画を立てるんだからね。超綿密な計画なんだからね。時間がかかるんだからね。超極秘計画だからね。だから、いくらアンタ達とはいえ、入れる訳にゃいかない。つか、絶対、ずぅぅえったいっ!!入ってくんじゃないよ!?入ってきたら、ブチ殺すっ!!」

精一杯スゴむゲルダ姐さんの顔は確かに怖かったが、しているのは超可愛いスライムベスエプロン(地色ピンク)




なんだろう、アレでバレないつもりなんだろうか?

姐さんは確かにスゴ腕だが、なんつーかその…かなり天然系入りまくってるんだよな、アレで。




ばたむっ


スゲー気合で閉められたドアの中からは、早くも


かちゃかちゃ

という、メレンゲを泡立てる音が聞こえてきた。









ぴぴぴぴぴ

鳥の声が聞こえる。

もう朝は明けちまったらしい。




「フン、チョコのくせに…じゃないっ!!トレジャーハント計画のくせに、なかなか手こずらせてくれたじゃないか。」

そう言いつつ、目の下をクマにして出てきた姐さんの顔は、どうやら今年はうまく行ったらしい、満足感でいっぱいの笑顔だった。




「何、こっち見てんだよ。アタシがのんびり読書なのが見えないのかい?」

”のんびり読書中”の姐さんは、ほとんど本の一文字ごとにドアに目をやり、本に目を落とし、そしてまたドアに目をやっている。


”そんなに気になるなら、いっそアッシがひとっ走り、呼んで来やしょうか?”

おれは言いたくなるが、ぐっと我慢する。



姐さんが


うん

と言うわきゃねえ。









おれは空を見上げる。


ド赤黒い、どう見たって禍々しい、空。









ドアがあいた。



「あ、何しに来たんだ、この野郎。呼んじゃいないよ、こっちゃ!!」

向こうが用件を言う前に、スゴんでしまう姐さん。


この人、自分だってこの性格、持て余しちまってんだろな。




「ゲルダ…」

「まあ、来ちまったモンは仕方ねえ。茶ぐらい出してやる、座りな。」

なんて口調だけはめんどくさそうに言いつつ、このためにとびっきり上等のティーセットと、可愛いお菓子が用意されていることを、おれは知ってる。

そして、ゲルダ姐さんが手作りチョコを入れた机の引き出しを開けようとしていることも。



「ゲルダ…」

「なんだ、棒じゃあるまいしいつまでもウスノロみてーに突っ立ちやがって。とっとと…」

「別れを言いに来た。」

「…え?」

姐さんは、大きく目を見開いた。




ヤンガスは座りもせずに続ける。

この赤黒い空は、暗黒神が復活したからだということ

それを倒しに、今から空飛ぶそいつの城まで行くんだいうこと

を。




「だから、しばらくさよならだ。いや、もしかしたら、これが永遠の別れかもしれねぇ。」


ヤンガスは顔を上げないから気付いてねえが、姐さんの表情は凍り付いてた。




「は…はは、てめぇのそのウスノロ面見ないで済むなんて、せいせい…するよ…」

口調はいつも通りだったが、姐さんの顔色は蒼白だった。


「暗黒神だかトンカツ神だか知らないが、とっとと行っちまいな…」

「お前、いくら古なじみとはいえ、そりゃ…」


ようやく顔を上げて何か言いかけたヤンガスの視線を遮るように、ゲルダ姐さんは5時間かけてラッピングした手作りチョコをヤンガスの顔面に叩きつけた。




みしっ

どう好意的にとっても、チョコが砕ける音がした。




「ま、最後の思いやりだ。長旅にはチョコがいいんだってよ。餞別代わりにくれてやるっ!!」


ヤンガスの面が固すぎるのか、姐さんの叩きつけ方が強すぎるのか、俺は知らない。


さしものヤンガスも痛そうだったが、それでもチョコ(かなり真っ二つに割れてることが外見からでも良く分かった)を受け取った。


「ゲルダ、さんきゅな。腹が減っちゃ戦は出来ねえもんな。腹減ったら食うよ。」

「フン、その腹の肉でもくっときゃ、五年は餓死しねえだろ!?」

「ったく、気にしてんだから言うなよ。」




姐さんは顔を伏せる。

見せたくない顔だから。

姐さんはホント意地っ張りで、だから意地を張り通しちまうんだ。


みんな知ってるさ。


おれたちも

そして、ヤンガスのツレたちも。




それが”意地”だと気付いてねえのは、当のヤンガスだけさ。




「ゲルダ?悪いモンでも食ったのか?腹でも痛ぇのか?」

鈍いヤンガスでも、心配そうに顔を覗き込もうとする。




「…!!」



ちゅ

聞いてて恥ずかしくなるような、甘酸っぱい音がした。




伏せた顔を上げた時”偶然に”ヤンガスにキスする形になった、っていう




姐さんとして、勇気をフル活用した行為、だった。




バシイイインっ!!

「何すんだよっ!?」

「それはこっちの台詞だっ!!いきなり平手食らわしやがってっ!!」


「このバカ野郎っ!!」

「俺がバカなのは今更だが、俺が何したってんだよッ!?唇が触れたのは”事故”じゃねえか?」

「もうアンタなんざ知るかっ!!」




だっ

ゲルダ姐さんは走り去った。

残されたのは、状況も、そしてゲルダ姐さんの気持ちもまるで呑み込めてない、ヤンガスだけ。




仕方なく、俺は納屋に行き、「怒りの鉄球」を取り出す。




「ほら、ゲルダ姐さんからの餞別だ。」

「は?ああ…ふたつも餞別もらって、悪いな。」

「いいから、絶対に返しに来いよ。」

「鉄球はともかく、チョコもか?」

「…ホント、アタマ悪いな。」

「なんだよ、ゲルダみてーに。」










おれが後で怒りの鉄球をヤンガスに”貸した”ことを言うと、姐さんは言った。

「は?勝手なことしやがって。フン、まああんな重たいシロモン、あのバカ力の力バカくれーにしか使えねーから、場所ふさぎがなくなってむしろせいせいしたかな。」

「ちゃんと返せって言いやしたよ。」

「フン、あのバカがそんな難しいこと覚えてるかね?ま、返すってんなら、受け取ってやるさ。むしろ…とっとと返しにきやがれってんだ。」




最後の最後、ようやく姐さんは「本音」を口にした。









おれたちのゲルダ姐さんは、そりゃもうキョーレツなツンデレで




そしておれたちは、そんな姐さんだから、大好きなのだ。



終る


2009/3/1



実は拍手時のタイトルは「ツン:デレ比率 9:1」だったのです。だったのですが、改めて読み返してみて
「9:1どころじゃないよ」
と思ったので、9がいっこ増えました。
実はかつてないほど切羽詰った(家を出るまであと何分とかいう朝のクソ忙しいとき)に書いた代物なので、かなりいろいろ手抜きでした。
なので、ちょっと文章をいじくりました。でも、あらくれさんのキャラ設定はわりと気に入ってます。 inserted by FC2 system