例えばこんな一目惚れ
彼女いない歴が実年齢と同じな僕だけれど、僕の弟のクラビウスには、多分間違いなく将来結婚するんだろう彼女がいる。
彼女は、見た目も性格も、丸くて円満な、でも芯が強くて、思いやりに溢れた、しかも思慮深い令嬢だった。
両親はすぐに彼女が好きになって、交際も許可されたし、僕も彼女のことはとても好きになった。
きっといい義妹になってくれるだろう。
「クラビウス、君は彼女どこに惹かれたんだい」
ある日、僕はクラビウスに聞いてみた。
彼女はどこをとっても素敵な人だったけれど、クラビウスはそのどこが一番好きなのか、ちょっと気になったからだ。
「いきなり何だ、兄上…」
クラビウスはちょっと照れた顔をしたけど(クラビウスがそんな顔をするのはとても珍しい)でも、まんざらでもなかったらしく、話し始めた。
「彼女とは舞踏会で出会った。そら、彼女は田舎育ちだと言ったろう?田舎から出てきて初めての舞踏会であったから、両親がいろんな人間に紹介していたのだ。そして、自分のところにも来た。」
「お、じゃあ一目惚れなんだね。やるなあ、クラビウス。」
「彼女は、そら、今流行りの胸元の大きく開いたドレスを着ていた。そして、腕には純白の手袋をはめ…」
あ、これは見た目に一目惚れしたのかな?
でも、だとしたらちょっと意外だ。
クラビウスは、どんなにキレイな女性に会っても、基本、謹厳実直なのに…
「彼女は一礼すると、その手を差し出した。そして、自分は礼としてキスすべく、その手を取った。軽くキスして、そして視線を上げた時…」
「時?」
「目に入ったのは、彼女の、
ものすごく”ふくふく”した二の腕だったっ!!!!」
「…は?」
僕は、展開の意外さに呆然としたが、クラビウスは勢い込んで続けた。
「今まで色んな貴婦人の腕を眺めてきたが、
あれほど”ふくふく”した二の腕
を見たことはなかった。だから思った。
この出会いは女神の下された運命だっ!!!!!
と。」
「…はあ」
「というわけで、即、彼女をダンスに誘い、二回目の出会いで交際を承諾させることに成功した訳だ。うん、なかなか自分も捨てたものではない。」
「いやお前はハンサムだから、交際を申し込まれて拒否する女性はあんまりいないと思うんだけどね。でも、一目惚れが
”ふくふく”した二の腕
というのは…」
僕の控えめな問いに、クラビウスは珍しく怒気を露にすると(クラビウスがこんな表情をするのは、ひっじょうに珍しい)
「兄上は、全く分かっていないっ!!!」
と、僕を正座させて、延々と何時間も
”ふくふく”で”ぷにぷに”の二の腕の素晴らしさ
を拝聴させられることになったのだった。
それから僕は、どんな女性を見てもまず
二の腕
が気になって仕方なくなってしまった。
ああ、クラビウス。
お前はとても素晴らしい弟で、お前は間違いなく僕より賢明なんだろうけど、
その二の腕への執着が、僕には全然分からないよっ!!!
その後、僕はウィニアに出会った。
ウィニアは本当に素敵な女性だった。
え?
どこがって?
そりゃもちろんたくさんあるんだけど、何よりスゴいのは、
僕に二の腕がどうとかを、一切意識させなかったくらい魅力的
な所、かな。
と、ウィニアからの
自分のドコが好き?
という問いに答えたら、ウィニアはものすごく怪訝そうな顔をして
「人の子って、よく分からない」
と言った。
僕は笑って
「君はその”人の子”でないような言い方だなあ」
と言ったら、ウィニアは深刻な顔をして、告げた。
「実は”人の子”ではないの」
僕は笑顔のまま凍りついた。
「竜神の一族なの」
そして、彼女はその姿を現した。
終る
2008/12/7
分かったような分からないようなお話。
書いてる当人が分かってないんだから、閲覧者の皆様には余計分からないだろうなあ。
別に人に理解されなかろうが、されようが、
好きなものは、好き!!
でいいと思います。