ムチを惜しんでは子どもはダメになるーー聖者も所詮は人の子よ




とある夜のことでした。


威厳溢れる女性の声「オディロよ…」

オディロ院長「こんや夜更けにワシをお呼びになるのは、一体どなたですかね。」

女性「わたくしは、至尊なる女神なり…オディロよ、わたくしはそなたに言わねばならぬことがあります。」

オディロ「この老いぼれに、女神直々にお声とは…なんなりと…」

女神「あの男は聖堂騎士団長であることをいいことに、恐喝まがいの寄付強要や、団員苛めなどやりたい放題しています。そなたはマイエラ修道院の院長として、これを放置していて良いとでも思っているのですか!?」

オディロ「いや…その…確かにマルチェロはちょっと悪いこともしているかもしれませんが、根はとっても優しい子で…」

女神「(とてもきっぱりと)お前は、マルチェロを甘やかし過ぎています!!そのせいで、あの男は図にのるのですよ!?いいですか?そなたはあの男の育ての親として!マイエラ修道院院長として、あの男を躾け直す義務がありますっ!!良いですね!?!」

オディロ「は…確かにそうですじゃ…」

女神「そうしないと、わたくしは地上の秩序を体現するものとして、それなりの罰を加えねばなりません、本当によろしいですねっ!?」




翌日


マルチェロ「聖堂騎士団長マルチェロ、お召しにより、御前に参上いたしました。」

オディロ「(珍しく厳しい面持ち、口調で)マルチェロ…ワシはそなたに言わねばならぬことがある。」

マルチェロ「(怪訝そうに)は、何なりと…」

オディロ「調べてみたが、そなた、巡礼者たちに相当高いお布施をふっかけておるそうじゃの?」

マルチェロ「あの…ですが、それは修道院に必要な経費を捻出…」

オディロ「黙らっしゃいっ!!事実かどうかを聞いておるのじゃ!!」

マルチェロ「…事実でございます…」

オディロ「そして、更にそなたは配下の聖堂騎士たちに、特訓と称して、限りなく苛めに近いシゴキを加えたり、何よりワシの目の届かぬところで、またククールをいびり倒しておるなっ!?」

マルチェロ「…」

オディロ「よいか、マルチェロッ!!ワシはマイエラ修道院長として、もうこれ以上そなたの行いに目は瞑らぬッ!!そなたも聖堂騎士団長にふさわしい行動を取るが良い、分かったなっ!?」

マルチェロ「…承知いたしました。不肖マルチェロ、院長の御命令とあらば、なぜにそれに逆らうことがありましょう?御意に…御意のままに…」

オディロ「なれば良い、下がれ。」

マルチェロ「は…(しょぼん)」




マルチェロがいなくなった後


オディロ「ああ…マルチェロがあんなにしょぼんとして…あの子はめったに感情を表に出す子ではないのに…ああ、マルチェロや…追いかけて行って抱きしめてやりたい…」


院長は駆け出しかけましたが、女神像を見て、はっとしました。


オディロ「これがいかんのじゃな…あの子ももう大きいのじゃ、悪いことは悪いと言うてやらねばならん。さもないともっと悪い子に…(強い口調で)ワシは心を鬼にする!!『ムチを惜しんでは子どもはダメになる』と諺に言うのじゃ!!厳しくするのも、マルチェロのためじゃっ!!」





という事で、マルチェロばかりを可愛がるのをやめ、それどころかちょっぴり冷たいくらいに厳しくし始めて三日後。



オディロ「(そわそわしながら)ああ、ワシの愛し子マルチェロに、お休みのキスをしたり、あの可愛い黒髪の頭をなでなでしたり出来ないのが、これほど辛いとは(そわそわそわ)」


とんとん(遠慮がちなノック)


オディロ「こんな夜更けに…誰じゃね?」

マルチェロ「…マルチェロにございます。」

オディロ「(一瞬、喜んで扉を開けかけるが思いとどまり、重々しく)なにか火急の用か?」

マルチェロ「いえ…」

オディロ「ならば、明日で良かろう。」

マルチェロ「…ですが…ですがっ、ぜひぜひ、院長とお話申し上げたくっ!!(とても切羽詰った声で)」

オディロ「…(逡巡するが、結局、情に絆される)入るが良い…」



オディロ「(がんばって冷やかな様子を装いながら)何用かね?」

マルチェロ「…不肖マルチェロ、此度は、院長にお伺いしたことがあって、参上いたしました…」

オディロ「ワシに聞きたいこと?」

マルチェロ「オディロ院長…(がばりと跪き)単刀直入に伺います!!貴方は私を…お嫌いになってしまわれたのですかっ!?」

オディロ「…はっ!?」

マルチェロ「(とても切羽つまった口調で)私は不肖の子です…領主に捨てられたまま荒野でのたれ死んでいたであろう私を、院長が引き取って下さり、溢れるばかりの愛情を注いで育てて下さったというのに…そして、悪魔の子たる私を、聖堂騎士団長にまで引き立てて下さったというのに…私は院長の御意に沿うことすら出来ません…」

オディロ「…(いやいや、そんなことはないよ。お前はとおってもよくやってくれるよ、と言いたい気持ちを堪えるために必死)」

マルチェロ「それでも、私は院長の広大無辺な御恩に、わずかでも報うべく、微力を尽くして努力して参ったつもりです…ですが…(声が曇る)ですが、院長の御心には沿えていないのですね…そして、そんな私を、貴方はお見捨てになられようとしているのですね…?」

オディロ「ああ…いや…(心の中で、女神の言葉と、マルチェロへの愛情がもんのすごい闘争を繰り広げ始める)」


マルチェロ「(声の曇りがどんどん増した、悲壮な声で)仕方ないと、頭では分かっています…私は、私は貴方のご期待に沿えないのですから…院長のお叱りもまことに尤もなのです…私は、私は、聖堂騎士団長に相応しくないのです…ええ、理性では分かっているのです…ですが…ですが…」

オディロ「…(ああ、違うんじゃ。そういう問題じゃなくて、やり方があくどいのが問題なのじゃ、マルチェロや、と言いたいが、うまく言葉にならないくらい動揺してしまっている)」

マルチェロ「…ですが…ですが…そんな不肖の子ですが、一つだけ…たった一つだけで良いのです!!私の願いをお聞きください!!」

オディロ「…(必死で冷静を装い)なんじゃね?」


顔を上げたマルチェロの、澄んだ宝石のような緑玉柱色の瞳から、すうっ、と涙がこぼれました。


マルチェロ「私を…嫌いにならないでください…」




その瞬間、オディロは弾けるようにマルチェロに駆け寄っていました。



オディロ「(マルチェロの頭をかき抱いて)何を言うのじゃ、マルチェロや。ワシがお前を嫌いになどなるものかね?」

マルチェロ「…院長…」

オディロ「ああ、すまないねマルチェロや。お前に冷たくしてしまったね。でもね…でも…もうあんな事はしないよ。ワシの愛し子マルチェロや。(マルチェロのおデコに優しく口づけして)ワシは心からお前を愛しているよ。お前が何をしようと…ああ、例えお前が世界を滅ぼしたり、女神の御心に逆らったとしても、ワシは本当に心からお前を愛しているのだよ。」

マルチェロ「…本当…ですか?」

オディロ「(慈愛のかたまりのような笑顔を向けて)本当だよ、マルチェロや。」

マルチェロ「院長…!!」


その直後に、オディロ院長に向けられたのは、マルチェロの心からの喜びの笑顔でありました。




マルチェロが、足取り軽く立ち去った後、オディロは女神像にがばりと跪きました。


オディロ「ああ女神よ、お赦し下さいっ!!ワシは本当にダメなじじいです!!あの子に厳しくせねば、せねばと心に念じて過ごしましたが、あの子の、あんなに純粋な涙を見てしまってはもうダメですっ!!だって…だって…愛し子の涙を見たくないと思うのが、人情ではありませんか?」

女神像「…」

オディロ「ああ女神よ…あの子はあのように、やっぱり心から純粋で優しい子なのです。あんな子が、どうして悪事など働きましょう?ええ女神よ、あの子の笑顔の本当に純粋な事っ!!」

女神像「…」

オディロ「ああ、マルチェロの笑った顔は、本当に可愛らしいのう…やはり、愛し子には笑顔でいてほしいもの…(以下、延々とマルチェロへのジジバカトークが続く)」

女神像「…もう知らん…」





さて問題です。結局、女神様の言うとおりになってしまった訳ですが、悪いのは一体だれでしょう?


一 保護者責任をきっちり果たさなかったオディロ院長


二 エロカリスマパワーで院長を“誑かし”たマルチェロ


三 そもそも不可能な事を要求した女神様












2007/7/22

元拍手話。
べにいもはオディマルが大好きですが、そこに女神様が絡むともっと好きかもしれません。
つか、拙サイトの女神様、性格悪すぎだよな。


というわけで最後の問いには「女神様が悪い」と答えた方が一番多かったです。そして、次がニ番

けど…よくよく考えると、院長がやっぱり一番悪くない? inserted by FC2 system