アローザと元法王さま…はじめに その一
「もしどうしても許してくれなかったら、それはそれさ。駆け落ちとしゃれこもうぜ。」
その言葉に勇気付けられたように、ゼシカも笑いました。
「そうね。サーベルト兄さんの敵討ちに出た時だって、勘当されたんだもの。今更駆け落ちの一つや二つ…あなたとならしてやるわ。」
「それでこそ、オレのお姫様だ♪」
長い旅の中、信頼感と愛情を育んだ二人は、仲良く手をつなぎながら、ゼシカの故郷であるリーザス村への街道を歩いていたのでした。
「大丈夫だって。いくら駆け落ちったって、子どもの二人もつくってから会いに行けば、仲直りできるモンさ。」
「うふふ、なら上は男の子で下が女の子だといいわ。わたしとサーベルト兄さんとおんなじきょうだい構成だもの。お母さんだってホロリとしちゃうわ、きっと。」
「オレと君の子だから、どっちに似ても完全美形だもんな。」
「あら?なんか今、妙なものがうごめかなかった?」
「まあオレの子だから、きっと品行方正じゃあないだろうけど、そこはそれ。 オレ譲りのエンジェルスマイルでおばあちゃまの心をゲットさせれば…ん?なんか言ったかい?」
「いえ…きっと通りすがりの暴れ牛鳥かなんかだわ。えっとなんの話だっけ…でもやっぱり、お母さんには結婚式に出席してほしいな。たった一人の肉親なんだもの…」
ゼシカの台詞に、ククールは少し哀しそうな目をしました。
「そうだな…たった一人の肉親は、結婚式には出て…ほしいよな。」
「あ…」
ゼシカは、少し後悔を滲ませた声を漏らしました。
「…どこ…いっちゃったんだろうね。あんなひどいケガだったのに。」
「…」
それは、徳高き法王さまを暗殺し、暗黒神のチカラを手に入れてまでも、この世全てを変えようとした男のことでした。
彼のやったことが、やろうとしていたことが、許されることか許されないことかは、今はどうでもいいことです。
一つだけ、なにより確かなことは、彼がククールのたった一人の血のつながった兄だということなのです。
「…会いたい?」
ゼシカは短く問いかけました。
ククールは
ちょっとうつむいて、
から答えました。
「兄貴が望むなら…」
「…あの…」
ゼシカが優しく慰めようとした、ちょうどその最高のタイミングで
「本当だなっ!?」
聞き覚えのおもいっきりありまくる叫び声がしました。
という訳で始めてしまいました。タイトルはもちろん『アンナと王様』のパクりです…分からないって?
一体どんな話になるかは、今後のお楽しみです。とりあえずコンセプトは
「ナンバーワンにならなくてもいい。それでも特別のオンリーワン」
で、よそさまには薬にしたくてもない、毒々しい話を書きたいと思います。