どんな美しい花よりも貴女が その二
兄貴は、どこまでも天然がイイ感じ…
あんぐり…
兄から事の次第を聞いたククールは、
彼の美貌が台無しになるほど
驚愕の余り口をあんぐりと開けました。
「何を驚くことがある?」
「ナニって…」
ナニつーか、なんつーか…
兄貴の存在自体がこの世のサプライズだよっ!?
ククールは心の中で力いっぱいツッコミましたが、あまりに口があんぐり開きすぎていて、言葉になりませんでした。
「分らん奴だな。お前がマダム・アローザに“貴女がとても素敵だと言え”と言った。だから褒め称えた…それだけではないか?」
「いや兄貴、問題は兄貴のその台詞でなく、
その台詞に至るまでの会話の流れ
なんスけど…?」
「ん、何か不味いのか?私はただ、
事実と感想と意見を述べただけ
だが?」
「いや…だからさ…」
ククールは、余りに胸がいっぱい過ぎて言葉になりませんでした。
兄貴…全ての台詞ってのはね、
文脈上において理解される
モンなんだよ?
だからね、あの文脈で奥様にあんな台詞を言うってコトはね、
「僕と結婚してくださいっ!!」
って意味と
限りなくイコールに近い
んだよ?
そしてね、兄貴。
「オレはそこまで言えって、言ってねえッ!!」
ククールは、
魂の奥底からの叫び
を発しましたが、マルチェロは腑に落ちない顔で、
「…?なんの事か、理解出来んが?」
と答えました。
ククールは、改めて
兄との絶望的な心の溝
を感じました。
ああ…このままじゃオレ、アローザ奥様を、
おかあさま 兼 お義姉さま
って呼ばなきゃな…
ククールは、遠くなっていく意識の中、
そんなクロスファミリー像
を思い浮かべてみました。
「ククールおじさん、こんにちは。」
整った顔立ちに、
キュートなおデコ
をした女の子が、ククールにきちんと挨拶します。
「おお、大きくなったなあ♪それにさっすが、躾のキッチリしてるお嬢さんなこと♪」
ククールは少女を抱き上げ、
キュートなおデコ
にキスします。
「でも、ククール“おじさん”って呼ばないでくれって何度も言ってるじゃん?オレは
永遠の美青年
なんだからよ♪」
「でも、おじさんです…」
生真面目に返答する少女に、男の子と女の子がまとわりつきます。
「ひさしぶりー♪」
「早く一緒に遊ぼう?」
「こらこら、手をひっぱるんじゃない。」
ククールは父親として、元気いっぱいなのが取りえのわが子たち…もちろん、可愛さも取り得です…を窘めますが、
「だってお父さん!」
「遊びたいモンっ!」
駄々をこねられて、笑って許してしまいました。
「あらあら、相変わらず甘い父親ですね、ククールさん?」
「これはこれは、オレのおかあさま♪相も変わらずお美しい。」
「ふふふ、相も変わらずお上手なこと。」
「お母さん、久しぶりー♪」
「お久しぶり、ゼシカ。三人目の子は順調のようですね。」
「もちろんよ。この安産体型ですもの。」
「私も三人の孫を持つことになるのですか…時の過ぎるのは早いものですね…」
「ナニ言ってるんですか、おかあさま♪“まだまだ現役”のくせにぃ♪」
「そーよ、“あたしの妹”がお嫁に行くまで、まだまだかかるんだからっ♪」
「ふふふ、そうでしたね。でもゼシカ、あの子は貴女よりよっぽど手のかからない“レイディ”でしてよ?」
「あ、ひどーい!!そんなひどいコトいうお母さんには、家事手伝わせちゃうんだからっ♪」
「はいはい、お手伝いさせていただきますわ。まずは、今晩の夕食から…」
子ども達も、妻ゼシカと、姑にして兄嫁なアローザ奥様がそれぞれ去っていった後…
「兄貴、お久しぶり♪」
兄マルチェロが姿を現しました。
「久しいな、ククール。」
軽く笑みを浮かべる兄に、ククールも
満面の笑顔で応答します。
「もうすぐ三児の父になる男とは思えん笑顔だな…」
苦笑する兄に、ククールも返します。
「なんだよ。兄貴だってすっかり、
優しい家庭のお父さん
な顔してるクセに。」
再び苦笑する兄に、ククールは続けます。
「いくら兄貴みたいな
鬼の団長殿
でも、
赤い屋根のステキなおウチと、キレーな嫁さんと、可愛い娘と、ちょいとおバカなわんこがいる家のほのぼのさ♪
にはヤられちまったみてえだな?」
兄は苦笑しながら、ぽつりと言いました。
「…ついこの間までは、私に“家族を愛する”などという事が出来るとは、思いもしなかった…」
ククールは、兄に言いました。
「出来たろ?」
照れくさそうに、ちょっとだけ頷く兄に、ククールは駄々を捏ねるように言いました。
「オレは?」
兄は答えました。
「無論…お前は、
私のたった一人の、そして大事な弟だ、ククール。」
「サイコーだよ、兄貴っ!!」
いきなり熱に浮かされたように叫んだククールに、マルチェロは
不審な眼差し
を向けました。
「…ククール…さっきから貴様の発言することは、何もかも、主旨と言うものが計りがたいにも程が…」
「そうしようっ!!兄貴っ!!」
「だいたい、貴様は昔から人の話というものを…」
「そうと決まれば、次のステップだよ、兄貴ッ!!そう、女心をガッチリ掴むには、
キミはとっても綺麗だよ♪
って言えばいいんだ!!
さあ、兄貴ッ!!GO!!」
一人で先走るククールに、マルチェロは冷静にツッコミます。
「そもそもだな、なにゆえ私がマダム・アローザに世辞を言って歓心を買う必要が…」
「…兄貴…兄貴はじゃあ…なんだよ、
アローザ奥様がブスだとでも言うのかよっ!?」
「…は…?」
「キレイな女性にキレイだって言うのはお世辞にゃなんねーだろっ!?それをお世辞って言うからには、兄貴は奥様をブスだと思ってるんだなっ!?」
「いや…私はそんな事は…」
「いーや!兄貴は、
オレの婚約者の母親を侮辱したっ!!
しかも、ゼシカは奥様と性格は違うにせよ、顔はそっくりだ。というコトは、
兄貴はゼシカも侮辱したも同じコト
だ…兄貴…
ナイトとして
オレは女性への侮辱を見過ごせねえ…だから、兄貴が奥様に
『貴女はとってもキレイだよ♪』
と言わねえってんなら、
オレは兄貴に決闘を申し込むっ!!」
ククールの論理破綻しているにも程がある
言い草に、兄マルチェロは黙り込みました。
ククールは、ようやく少し正気に返り、
決闘受けられたらどうしよう…
と、
微妙に冷や汗をかきながら
兄の返答を待ちました。
「…分った…」
「…マジ…?」
どういう思考の結果か分りませんが、兄は承諾しましたっ!!
2006/10/26
幸せ家族計画(笑)
兄貴と奥様の間のお嬢さんですから、それはそれは愛らしいデコの、小さな淑女に違いありません♪
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