パルミド良いトコ一度はおいで その一




ハァ、どっこいしょーどっいしょー…とは続きません、多分









ククールとマルチェロは、パルミドにいました。




なんていきなり言われても、皆様お困りでしょうから、状況を説明しましょう。


先日、ククールの入れ知恵により、アローザ奥様に、 世界を震撼させんばかりの愛の言葉 を囁いてしまったマルチェロは、おかげで、アローザ奥様と 村人公認の仲 になってしまい、なおかつ、 薔薇の花の君 なんてゆー、恥ずかしいけど、兄につけるとやたら似合いまくるような称号まで頂いてしまいました。


それならだけなら良いのです。

後は、ククール希望の 明るい家族計画 になだれ込むだけなのですが、一つ、 巨大すぎる障害 がありました。




ゼシカです…




例の一件を、噂好きのオバサンから聞いてしまった彼女は…と言っても、村人みんなが見ていた出来事なので、例え緘口令を敷いたとしてもいずれは彼女の耳には入ったことでしょうが… 地獄の業火のように怒りまくり ました。




なんせ、相手はゼシカです。 地獄の業火の“ように” でなく、事実、 地獄の業火を発動させる女 です。


そして、彼女の怒りを買った兄も、同じく 地獄の業火を発動させる男 です。


さあ、こんな二人がかち合ってしまったら、果たしてどうなることでしょう?




もし、ゼシカがマルチェロを地獄の業火で焼き尽くして しまったら…

いくら最愛の婚約者とはいえ、ククールは生涯、決してゼシカを許すことは出来ないでしょう。



ではもし、マルチェロが正当防衛とはいえゼシカを地獄の業火で焼き尽くして しまったら…

いくらたった一人の兄とはいえ、ククールは生涯、決してマルチェロを許すことは出来ないでしょう。



かといって、二人が相打ちになって互いを 地獄の業火で焼き尽くして しまったら…

ククールはその後、この世に生き残る気力を無くす自信が満々です。



では、そんな二人の仲介をしようとしたら… ククールは間違いなく、二人の地獄の業火で焼き尽くされて しまうでしょう。




う゛わ゛…最後の可能性が、一番高いよ、オレ




花の盛りで死にたくない と思ったククールは、ほとぼりが冷めるまで、兄をリーザス村から引き離す事にしました。






とは言っても、兄マルチェロは、 特級犯罪者の身 です。そこらにほいほい出掛けられる身ではありません。それに、兄はククールの誘いにほいほいのる人でもありません…



そんなククールに、耳寄りな噂が入りました。














「しかし、まさか悪徳の街パルミドに 温泉 が出るとはな…」

しみじみと呟きながら、地殻変動とマントルと温泉の関係に付いてについて、DQ世界人のくせに得々と語る兄に生返事をしながら、ククールは、うまい事、兄を連れ出せたことにほっとしました。




「兄貴、たまには温泉に浸かるべきだよ。だって兄貴は働きすぎじゃないか…」

「別に働きすぎとは思わんが、まあ、たまにはそれも良かろう。なんせ、 お前たちにつけられた古傷が、いまだに疼くからな…」




そんな、 ちょっぴり耳に痛い皮肉 を受けながらも、兄はパルミド行きを快諾してくれたのでした。





「ま、兄貴。とりあえず宿を取ろうよ。アローザ奥様も、存分にごゆっくり、って、言ってくれたことだし。」

アローザ奥様も、マルチェロがちょっと休暇を取って温泉に行くのを喜んで送り出し、ついでにバケーション代まで出してくれました。




「…高い…」

「…え?」

宿の料金表を見るや、マルチェロは開口一番、そう言いました。



「悪徳の街の宿のくせに…しかも、外装と比べて、劣りすぎる内装の宿のくせに、この値段は高すぎるっ!!」

マルチェロは、宿のフロントだと言うのに、 力いっぱい 叫びました。



「いや兄貴…」

確かにそうだけど、せめてそういう事は、宿の人間のいない所で言おうよ…

そう言い掛けたククールですが、マルチェロは宿の料金設定がよっぽど腹に据えかねたのか、 部下を叱咤する聖堂騎士団長時代の彼そのままの怒声 で叫びました。



「この宿代を払うくらいなら、 パルミドの街路で新聞紙を敷いて寝た方がマシだっ!!」


そして、 怒りを露わにした王者のような悠然たる足取り で、さっさと宿から出てしまいました。





ククールは、兄に追いついて開口一番、 半泣きで言いました。

「どうすんのさ兄貴、パルミドの宿屋はあっこしかないのに…もうこれじゃ、泊まれないじゃんッ!!」

兄は、悠然と返します。


「泊まらねばいいだけの話だ。」

「じゃあ、今日はどこで寝るのさ。」

街路に新聞紙を敷いて寝ればいい!! なあに、頑健な成人男子が、一晩や二晩、野宿したとしても死にはせん。」



ククールは、 そうする気満々な 兄の言葉に、うっかり、 街路に新聞紙を敷いて野宿する 自分たちの姿を脳裏に思い浮かべてしまい、 涙が零れそうになりました。



「なんでだよ…どうして、骨休めに温泉に浸かりにきただけなのに、こんなパルミドくんだりで、新聞紙を敷いて野宿しなきゃなんないんだ…」

しくしく

ククールは泣きましたが、兄は気遣うそぶりすら見せません。




「ま、とりあえず温泉に浸かるか。しっかり骨まで温まれば、野宿の一つや二つ、ものの数ではない。」

悠然と、 パルミド温泉 コチラ の看板に向かって歩みを進める兄を足取り重く追いながら、ククールは、 オレって、なんて薄幸な美青年 と、わが身の美しさを呪うのでした。


2006/11/20




タイトルに引きずられた…
兄貴は、例え新聞紙の上に野宿してようが、やっぱり 優雅で尊大で帝王の風格を持ってる と、思いません?




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