ハッテン場@パルミド その三




ヤンガスの腹は本当に柔らかいのか…

アレが贅肉なのは当人が語っていたから間違いはなさそうですが、ヤンガスのあの膂力からするに、彼は相当筋肉質な筈。とすると、彼の腹も、ブ厚い腹筋の上に脂肪がついている、つまりは“相撲取な腹”ではないかと思われます。
むき出し筋肉よりも上に脂肪がついていた方が、衝撃吸収力が高くなるので(1トンくらいなら耐えられるらしいです)、相撲取のような正面激突商売の人はあんな“あんこ型”な体格になるとか。

つまり結論からすると、ヤンガスとマルチェロが相撲を取ったら、体格上、ヤンガスの方が有利という、つまりはそう言うことです。

…問いに対する答えになってない?









呼吸困難でのたうちまわるククールは完全に無視して マルチェロは続けます。


「そもそも、 犯罪は顔で犯すものではない!! 確かにサヴェッラにいた時も、私の人相の悪さはさんざ言われたが、顔というものは生まれもったものである以上、私にはどうしようもない。 男は四十を過ぎたら、自分の顔に責任を持たねばならない と、先人は言っているが、私はまだ三十だ。責任の所在をうんぬんされるいわれはない。だいたい、 人相の悪さという言い方をするなら、貴様もそうではないのか!?」

「…返す言葉がねえでガス。…がっ!!だとしたら、なんでわざわざこんな場所にいたんでヤスかい?ここは、パルミドでは有名なハッテン場 でガス!!」



ククールはのたうちながら、

オレと兄貴って、一体、なんだと思われてたんだろう

と思いました。




「…ハッテン場…とは、一体なんだ?」

博学なくせに一般常識に欠ける兄が真顔で問います。


ククールが、苦しい息をこらえて説明してやろうとすると、先にヤンガスが口を開きました。



「やれやれ、物知りなクセにジョーシキねえ奴だなあ…」

マルチェロは、不愉快そうな面持ちでヤンガスを睨みつけます。


「こんな悪徳の町の有名事など知らん。」

ヤンガスはそもそもイヤミに人柄ではないので、それ以上マルチェロに嫌がらせは言いませんでした。




「ハッテン場ってのはなあ… 悪党と悪党が寄り集まって、悪事の計画を練って、実行に移す場所のコトでガス。」




え…そうなの?

ククールは驚きました。




「なるほど、悪事の計画が実行計画まで“発展”するから、ハッテン場と言うのか…初耳だ。」




いや兄貴、初耳ってゆーか、多分コレ、他所では使わない用法だよ…

ククールは兄が、微妙な言葉のローカルな用法を知ってしまった事に対して、激しい危惧の念を抱きました。




「最近パルミドで、どうやら人の売り買いがされてるみたいでガシてな…いくら悪徳の町とは言え、人としてやって許されることと、許されねぇ事があるってモンよ!!…なんでアッシが、ここらを張ってたら、あんたが引っかかったってワケでヤス。」

「なるほど…私を疑った理由は分った。だが、私はこのパルミドには観光旅行で立ち寄っただけだ。そもそも私は悪事と名のつくものなら、 強盗・聖職売買・贈賄・公金横領・家宅不法侵入・詐欺・殺人・窃盗・内乱罪・法王暗殺 と手広く行ってきたが、 人身売買に手を染めた事は、女神に誓ってないっ!!」


力いっぱい、大声では決して言えないコトを叫ぶマルチェロ。

ヤンガスはその 曇りのない緑色の瞳 を見つめ、そして頭を下げました。




「確かに…あんたの目にウソはねえ…疑ってすまなかった…」



いや、疑われて当然の前歴ではあるけどな、兄貴のばあい


ククールは、ようやく正常に戻った発声器官で、言いました。



「つーかさ。ここに泊まれつったのは、 パルミドで健康を追求する漢の会 の奴らだぜ?あいつらが臭ぇんじゃねえの…なにせ、あんなに汗臭かったし。」

ククールの言葉に、マルチェロは鋭く不快な眼差しを投げます。

「貴様…彼らを疑う気か?」

「なんだよ兄貴、そもそも疑い深い兄貴が、なんで初対面にあいつらをそんなに信用するんだよ?」

「あそこまで純粋に健康を追求する彼らの気持ちに、 悪事が付け入れよう筈がないっ!!」




「…」

ククールは、あんなうさんくさいのに 猜疑心の塊のような兄心底信用される仮面筋肉の一団に、 激しい嫉妬すら感じました。







「ともかく、だ。人身売買と聞いては捨ててもおけまい。我が父とも思う方、オディロ院長は、人の売り買いを最も忌まれた…」

「確かに、孤児院やっていらした方みたいでガスからなあ…」

「オレも兄貴も、 人並み外れた美貌 な孤児だったかんな…オディロ院長が拾ってくれなかったら、どんな目にあってたかも知れねえもんな…よし、じゃあオレも手伝うよ、ヤンガス。その卑劣な人買い野郎どもを、まとめて一網打尽にしてやろうぜ。な、兄貴。」

「うむ、無論だ。してヤンガス、この場以外に心当たりはあるのか?」

「うーむ…それが…ねえんでガスよ。」

「おいおい、パルミド生まれじゃねーのかよ。」

「ンなコト言われたって…今までこのパルミドにゃ、ンななかったんだ、見当付きゃしねえ…」

「なんで今頃、そんな今までなかった犯罪がパルミドに…」



「…経済発展だ…」

マルチェロは呟きました。




「けいざい…痛っ!!いきなりむつかしい話されると、アッシのキュートな広さしかねえ脳みそが…」

いきなり頭痛を起こすヤンガスはさておいて、マルチェロは続けます。



「妙だと思っていたのだ。極貧の悪徳の町であったこのパルミドに、何故に温泉などが出たのかと。日々の生活で精一杯の輩が住む町に、そのような余剰資金があるかとおもっていたのだが…この目で見て、ようやくはっきりした。」

「…そーか?相変わらず、痒くなるくれーこ汚ない町に見えっけど。」

「貴様の目はフシ穴か、ククール。あの野良犬があさっているゴミ捨て場を見ろ。そしてこの町に来てこの通りを通ったときの事を思いだせ。」

「…?」

ククールが不思議そうな顔をしているとマルチェロは、 貴様の脳みそは本当にカラッポだな という態度を満面に出して続けました。



「裏町の住民でもペットを連れ、そして野良犬のあさっている残飯の量も多く、そして質も良い。」

「兄貴、この暗いのによくそこまで見えるね。」

「つまり、下層市民でも、それだけの生活の余裕が出てきているという事だ…という事は、さらに上層の者なら言うまでもあるまい。一山当てようと温泉を掘る余裕も出るというものだ。」

「なるほど…このこ汚い町でも、少しは金持ちになってんだな…でも、なんで?平和になったから?」

「まあ根本原因はそれだが、最大の理由は、貿易による資金の流入にある…」



「うがー…熱が…熱が出てきたでガスぅ…」

知恵熱で茹でタコのように真っ赤になるヤンガス は、とりあえずおいておいて、兄弟は会話を続けます。




「アルバート家の資金をフル投入して、ポルトリンクとの間に貿易を振興させたからな。この東南の大陸には、大量の資金が流入してきていて、他の大陸との間に、大きな経済格差が生じつつある…急に大金を手にした者の中で、タチの悪い輩が、他の大陸から安く仕入れた人間をこの大陸で高く売りさばき、更に儲けようと企んだのだろう。そして、そんな計画を実行に移すのなら、まずは逃亡のしやすい船着場を考えようが…」

「あそこは オレらがマジシメたもんな。」

「うむ。リーザス村でそんなコトをやらかせよう筈もなし、アスカンタは由緒ある国ゆえ、怪しげな人間が出入りすれば目立ちすぎる。」

「トロデーンは今、復興作業の真っ最中だけど、トロデのオッサンはそーゆーのにはキビしそうだもんな…で、パルミドか。」

「そうだ。そもそも種々のあやしげな人間が屯ろする町ゆえ、よそ者が出入りしても目立たず、また、この入り組んだ町の構造は、この手の取引の場所には事欠くまい。」



「アタマが痛いー!熱が熱がー!!ついでにむつかしい台詞でカラダが痒いーボリボリボリ…」



「でもよ、兄貴。完全に他所モンだけでそーゆー商売って出来るモンでもねーだろ。」

「ああ、大概は元からある組織と癒着して犯罪を行っているものだ。…何か心当たりはあるか?」

「ああ…とりあえずなんでも売り買いしちまう ってんなら、アレだろ…少なくとも、探ってみる価値はあるぜ…行こう、兄貴、ヤンガス。 闇商人の店だっ!!」


2007/1/4




からゆきさんとか、ジャパゆきさんとか、そーゆーノリの話になってきました。
人身売買も、所得の少ない農村部から都市部へ、発展途上国から先進国へ、というのが常道らしいです。




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