家無き子等 その三

拙サイトが開設される前から(つまりブログで細々とやっていた時から)連載されてるくせに、サイト開設十ヶ月にしていまだにクライマックスに達しないこのシリーズはどうかと思う。
なにせ、連載前から構想しているメイン場面の消化率は三割以下だからなあ…はやくシリーズを終らせたい(実は終った後の作品構想まで既にサイト開設時からある)









マルチェロの、 彼等が生まれてから、また高い確率で死ぬまで、出遭った中で一番怖い眼力 を向けられても、さすが正義の味方というべきか、 「悪徳の街パルミドで平和と安全を追求する漢の会」 の面々は、 恐怖のあまり泣き出したり、はたまた気を失ったり、逃げ出したり はしませんでした。(顔色は絵の具の群青色よりも青くなったようですが)




マルチェロに睨まれながら、漢たちはぼそぼそと相談した挙句、



「そうだ、すまない。」

と、あっさりと事実を認めました。




「正義の為だった…あの占い師の娘は前々から臭いと思って我々も警戒していたのだが、なかなか尻尾をつかませなかったのだ。とはいえ、君等を騙した事実には変わりはない。 煮るなり焼くなりなんとなりしてくれ!!」

さすが正義の味方というべきか、 爽やかで潔いにも程がある台詞 を発した 「悪徳の街パルミドで平和と安全を追求する漢の会」 のメンバーです。



ヤンガスは深く感動しましたが、それはそれとして、愛用の覇王の斧を手から離しませんでした。


いえいえ、もちろん 「悪徳の街パルミドで平和と安全を追求する漢の会」 の面々をやっぱりドツくためではありません。

煮るなり焼くなりしようとするマルチェロを背後から斬りかかってでも止めるため です。

いくら楽天的で心優しいヤンガスでも、 マルチェロが漢たちを笑顔で許す なーんて 聖職者みたいな行動をとる なんて 鼻クソの欠片ほども 思ってはいませんでした。


























「成る程、ならばまあ許そう(あっさり)」
















「え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛っ!!」



ヤンガスは驚きのあまり、 モリーの家まで届きそうな絶叫 を発してしまいました。




まったく、ヤンガスも三十うんねんほど生きてきて、山賊として、また世界を救わんとするエイタス一行と旅を共にしてきて、数々の驚嘆すべき事柄にも遭って来ましたが、 ここまで驚くべき事態 目にしたのは初めてです。





「ああ、アンタ… 四十三度の高熱を発して いたりはしやせんか?」

人間のたんぱく質が茹で上がって、確実に死にいたる高熱よりさらに上の熱でも発しているのではないかと気がかりで、ヤンガスはマルチェロの 秀でた額 に手をあててみましたが、特に熱は出ていないようで、ひんやりした感触がしました。





「なにを驚く?確かに気分の良い自体ではないが、まあ特に実害もなかったのだ。怒るほどの事でもあるまい。」




ヤンガスは思いました。

同じ事をククールがしたら、一体ククールはどうなっていたかと。




そうですね、最良でも 地獄の中でも最も深い地獄を味あわされていた ことは、まず間違いがないでしょう。








「さすが黒髪の兄さん、おれが風呂で見込んだ通りの器だぜ。 悪徳の街パルミドで平和と安全を追求する会名誉会員 にふさわしい 正義漢 ってモンよ。」

風呂で土方と言っていた男が、そう言って 暗黒神の力を借りて世界を理ごと破壊しかけた極悪人 マルチェロの肩を叩きました。


いやあまったく、 知らないとは幸せなことです。





「おおっ、ここに正義の為に尊い命を散らした若者がっ!」

漢たちの一人がようやく、 Dyingな赤い生物 の存在に気付きました。




「やっぱ苛烈な戦闘があったんだな…兄さん、ヤンちゃん、本当にすまなかった…」

土方の兄さんが声を掛けました。




「…」

ヤンガスは大人として、 何も反論はしないことにしました。




世界樹の葉をすりつぶし、呑ませようとする漢たちのすぐ横で


「まったく、資源の浪費も甚だしい。」

と誰かが呟いたりしましたが、ともかく、これでようやく




「世界の美の至宝が蘇ったぜっ!!」

ということになりました。







「ところで人身売買って言うけど、一体どんな人らが売買されてたんだ?」

死んでいる間、よっぽど色々喋りたかったのでしょう。ククールは蘇るやすぐに質問を発しました。



「ああ…それが…」

「キレイなおねーさんだよな、キレイなおねーさんっ!!ムリヤリ露出度の高いカッコをさせられてるキレイなおねーさんが、ビボーの騎士さまの助けを待ってるんだよなっ!?」

希望と妄想が入り混じった発言をして、蘇った瞬間、 血の繋がったどこかの誰かに滅殺され かけたククールを救ったのは、会員の返答でした。




「子どもだ。」




「…子ども?」

あからさまに不満そうな面持ちになったククールは続けます。


「そんなの売買して、何の役に立つんだ?」

「…子どもってのは反抗する力が弱いでガスからね。盗賊の技術なんぞをムリヤリ仕込んでやるには最適なんでガスよ…」

ヤンガスが悲しそうに答えてやります。



「うむ、子どもは油断されやすいという理由から、怪しげなものの売買に使ったり、場合によっては暗殺者として用いることもあるそうだ。」

「詳しいでガスな、前歴が前歴なのに。」

「パルミド出の部下から聞いた話だがな。ああ、それに加えて、 悪の秘密組織 が子どもを攫って、 戦闘員として育成する というのもなかなかポビュラーな方法であるそうだ。なにせ 大人だと洗脳しにくいし、赤ん坊だと手間がかかる からな。」


「兄貴…兄貴の部下に、 死神博士とかいたりしなかったよねっ!?」


悪の秘密組織 に詳しすぎる兄にまた新たなる不安を抱いたククールです。

なにせ、彼の兄は 悪の秘密組織の総帥の座がこの世の誰よりも似合う(元)聖職者 なのですから。




「なにをワケの分からんことを…」

マルチェロは一笑に付しました。


ククール、ちょっぴり安心です。






「ま、ともかく来てくれよ。」

「悪徳の街パルミドで平和と安全を追求する漢の会」 に先導されて行った先には、確かにたくさんの子ども達が暗い表情で立ちすくんでいました。





「そんなに暗い顔すんなよ。」

ガキなんかキライと言う割に、子どもの面倒見はいい ククールが真っ先に近寄って、そう声をかけました。


「心配しなくても、この美形のお兄さんがすぐにおうちに帰してあげるからさ。」

ですが、子ども達の顔にはわずかの笑顔も浮かびません。


「おうちはどこだい?」




「…ない。」

子どもの一人が、小さく呟きました。




「…ない?」

「…帰りたくない。」

暗い表情の子どもが続けます。


「そう言うなよ、お父さんもお母さんも心配して…」

「だって、お父さんとお母さんが、ぼくを売ったんだもん…」

「…」


絶句するククールを前にして、子ども達が、あたしは500Gだった、ぼくは体が弱いから400G…


と言い始めました。


2007/4/30




なんとも切ないお話になってきました。




最愛のお父さん、僕らは… その一へ


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