最愛のお父さん、僕らは… その一

(前回の前書きの続き)
今回のお話は、当初の構想より逸脱しまくったこのシリーズにおいて、ホントに最初から考えていたシーンなのですよ。つまり、重要









「あたしは、お父さんとお母さんにちゃんと

『さようなら』

って言ったのに、二人ともあたしを売ったお金を数えるのに夢中で、なんにも返してくれなかった…」

延々と続くこどもたちの、なんとも凄絶な身の上話を前にして、大人たちはなにも言えませんでした。


とりあえず、お腹を減らしているらしい子供たちを、 「悪徳の街パルミドで平和と安全を追求する漢の会」 のメンバーが食事に連れて行きました。




重苦しい沈黙の中、マルチェロが口を開きました。


「貧困とは、最も弱いものを直撃するものだ。」

言い方こそぶっらぼうでしたが、彼にしては珍しく、イヤミのない口調でした。




「どうしやしょうね。あの子ら…」

ヤンガスが言いました。


「…」

ククールは、黙り込みました。




親元に帰すわけにもいきませんが、かと言ってパルミドにおいておくのも危険極まります。



「悪徳の街パルミドで平和と安全を追求する漢の会」 の幹部の一人が、辛そうに口を開きました。



「正義の味方たる我々がなんとかしたいのは山々なのだが、なにせ 正義の味方はボランティア業 なんでな、そこまでする余裕がないのだ。。かといって、このパルミドに 孤児院 がある訳でなし…」




「孤児院っ!?」

ククールは叫びました。



「兄貴っ!!それだよ!!」

不審そうな緑の瞳もなんのその、ククールは、 弟が兄に対するかのように親しげにマルチェロの肩を掴ん で話そうとしましたが、



「貴様、馴れ馴れしいぞ、ククールの分際で!!」

と、とてもあっさり振り払われました。





「…あんたら、兄弟じゃなかったっけ?」

温泉で出会った 「悪徳の街パルミドで平和と安全を追求する漢の会」 の幹部が不思議そうに問うと、



「私が望んだことではさらさらない。」

マルチェロは、 それが世界の法則であるかのような当然の口調で 冷たく言い捨てました。




「うう…兄貴のバカ…オレは 世界一キュートでセクシーでビュディフォーなリトルブラザー なのに…」




さめざめざめざめざめざめ







「…で、一体ナニが『それだよ』なんでガショう?」

バカリスマ兄弟 に任せておくと、何も話が進まなさそうなので、ヤンガスは軌道修正を図りました。




「…言ってやんない…だって兄貴が聞いてくんないんだもん…」

いい年こいてベソをかく 銀髪の美青年をヤンガスはなんとかなだめすかしました。










「へっへー、じゃあ言ってやる♪」

小学生のように速やかに機嫌を直すと、ククールは言いました。



「孤児院をやればいいんだよ、オレたちがっ!!」




「…孤児院?」

形の良い眉を顰め、マルは冷たく続けます。



「簡単に言うな、愚弟。 孤児院を運営するのもタダではない のだぞ、バカ者。もう少し脳みそを通してから発言しろ、 貴様のような脊髄反射で生存している生物と血が繋がっていると思うとゾッとするわっ!!」


「そこまで言わなくてもいいじゃんッ!!兄貴のバカーっ!!」


ククールの、 いい年こいて大泣きする声をバックミュージックにする 中、ヤンガスは言いました。




「いい考えだと思いヤスがねえ…」

「何度も言うが、孤児院を経営するのは簡単な事ではない。 子供というのは、特になにを生産するわけでもなく、ただただ消費し、手間をかけるだけの生物 なのだ。そんなものを十何人も世話出来てたまるか。」

非常にマルチェロらしい台詞 でしたが、ヤンガスも引きません。なにせ、 彼の所持スキルはにんじょうなのですから。




「でも…でガスよ、マルチェロ。あんたもその、 特になにを生産するわけでもなく、ただただ消費し、手間をかけるだけの生物 であったワケでがしょう?そのアンタを育ててくれた人がいたから、今のアンタがいるんでガスよッ!!」

「…」


「そのお人は、アンタになんかの見返りを求めて育ててくれたんでガスかっ?いや、ぜったいに違うハズでがすよ、 オディロ院長はっ!!」


「おおっ!!兄さん、あんたはもしかしてオディロ院長の孤児院で育ったのかい?」

温泉で出会った 「悪徳の街パルミドで平和と安全を追求する漢の会」 の幹部が言いました。


「…まさか貴兄も、孤児院育ちだとでも言うまいな?」

「いやそうじゃねぇが…あのお人はおれの大恩人だ。この街の悪徳にどっぷり漬かって、 肉体も精神もドロドロに不健康 に過ごしていたおれに、あのお人は言ってくれたんだ…

『お前さんや、この世で一番楽しいことはなにか知っているかね?それはのう、 人を愛し、人に献身し、人に感謝されること じゃよ?』

おれは…おれはその言葉に、ハッと目覚めたんだ…ああ… おれはなんてつまんねぇ人生を歩んでいたんだっ!! ってよ…」

思い出し感涙にむせびはじめた男の声 が、ククールの大泣きに新たな旋律を加えました。





ヤンガスは、マルチェロの肩を優しく叩きました。



「ククールに聞きやしたが、アンタは今、羽振りがいいみてぇじゃないでヤスか?ここらで一つ、 金では買えねぇ楽しみ を見つけてみても、いいんじゃないんでガスかねえ?」




「…そうかも…しれんな?」

わずかながらも優しい笑み を浮かべたマルチェロに、




「オレの言うことなら聞いてくんねーくせに、なんでヤンガスとその覆面ならいいのさーっ!!兄貴のバカーっ!!」

愚弟のつまらない抗議の台詞が重なりました。


2007/5/20




マルチェロにだって、人の心の欠片や、血と涙の一滴くらいはあると…思いませんか?ええ、“マルチェロにだって”!!




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