最愛のお父さん、僕らは… その二

全世界二億七千万の奥様フリークのみなさま、たいへん長らくお待たせいたしました。ようやくマダム・アローザのご登場でございます。









「マダム、不肖マルチェロ、一生のお願いにあがりました。」

ちょっと(ちょっと?)デコがMい とはいえ、 標準レベルをはるかに凌駕した美丈夫 にそう 真摯な面持ちで至近距離から迫られ 奥様はうっかり、


「ええ、もちろんよろしいですわ、マルチェロさま。」

とお答えになられてしまいました。





「…まだ何も申し上げてはいませんが、マダム?」

「え?ええっ?…失礼いたしました。」

マダムは、 少女のようにときめく心 を、いつもの厳しいお顔の下に押し隠…そうとして、けっこう失敗なさいました。







ええ、なにせ相手は 100超のエロカリスマスキル所持者(元一日法王) です。奥さまのようなか弱い淑女には、だいぶ抵抗力がおつきとはいえ 久々では刺激が強すぎ ました。


今の奥様なら、たとえ今のマルチェロの科白の続きが、もし



「貴女が欲しいのです、マダム!!」

であったとしても、



「ええ、もちろんよろしいですわ、マルチェロさま。」

とお答えになられてしまいそうです。






いえいえ、もちろん「もし」の話ですよっ!?











マルチェロは、ちょっと静まり返ってしまった雰囲気の中で、再び話を再開しました。






「…ということがございまして、孤児院を創めたいのです。」

的確で簡潔な話をお聞きになられたマダムは、もちろん嫌と仰ろうはずもありませんでした。




そもそもマダムは、 高潔で慈愛深いお心をお持ち ですし、それに、経済的にはまったく困ってはいらっしゃいません。(マダムの嫁がれたアルバート家は、資産家ですが質素な御家風なので、いくら財産が増えても贅沢をしようとは誰も思わないのです)

というかむしろ、 マルチェロがあまりに精力的に稼いでくる財産の使い道にお困りになられて、いっそ世界征服の資金にでもしようか と心の片隅にお考えになられていたくらいなのでしたから。



何より、 マルチェロが欲しいと望むなら、全財産くらいあげても良いかも(はぁと) という気もします…


いえいえ、もちろん「気もする」だけの話ですよっ!?





という訳で、マダムには異論はまったくおありになりませんでした。


そして、



「それはぜひ、その子たちをなんとかしてあげるべきよっ!!」

奥さまのご令嬢のゼシカにも、もちろん否応なんてあろうはずもありません。





「オレ反対だもんっ!!(泣)だって兄貴ってば、オレの言うことなぁんにも聞いてくんないんだもんッ!!(大泣)」

奥さまの未来の娘婿(赤い生物)が 非常に見苦しく泣きわめき ますが、幸いなことに奥様の麗しい瞳には、 青い男前しか映っていません でした。









「でもマルチェロ、孤児院っていろいろと大変なんじゃないの?人手とか…」

「うむ、勿論だ。だが、ここに戻ってくるまでには一応、 収支シミュレーション は立ててある。まず、孤児院としての建物及び、そこでの人件費だが、これは継続的・安定的な収入が求められるからな。変動要素の高い貿易での利益ではなく、安定性と災害からの損害性の低い山林からの利益をあて、さらにそこに田畑からの収穫物を二次収入として加えることで…」

さすがは元銭ゲバ聖堂騎士団長です。

いかな慈善事業でもまずは金の算段から ということをよく分かっています。




マダムは、久々にご覧になるマルチェロの、 金勘定の話になると俄然輝きだすその表情うっとり とご覧になりました。






「えっとね、人手なら、リーザス村のみんなが手伝ってくれるはずだわ、なんせ今は農閑期だし。それにお手当てを出してあげたら、みんな副収入が入って喜ぶと思うし、なによりみんないい人たちだもの。そうだわ、ポルクとマルクに相談しないと。あの子たちから、村の子供たちに声をかけて…」

ゼシカの表情も、俄然輝きだしました。

そもそも彼女は、お節介なくらい世話を焼くのは好きな質なのです。 そうでなければ、ククールなんぞと付き合って、結婚までしてやろうと思うはずはありません。




「…」

そして当のククールは誰も構ってくれないので、 恨みがましいが、それでも宝石のような青い瞳 を、彼の最愛の兄と婚約者に向けていました。






「でも驚いたわ、マルチェロ。あんたがこんな 儲からない事をはじめようとする なんて。」

嫌みのない口調で感嘆するゼシカに


「…遅まきながら、我が最愛の養父、オディロ院長の顰に習わんとしただけのことだ…院長は常々言っておられた。

『人を愛せよ、それは必ずや己の為となる』

と…その時は理解できなかったが…」

マルチェロはゼシカに、 今まで見せたことのない、照れたような、優しいような笑みを向けて 続けました。



「理解しようと思ったのだ…今更ではあるかもしれんが、な。」


「マルチェロ…」

ゼシカは、マルチェロのその言葉を聞いて思わず、 胸がいっぱいになるほどの歓び を感じました。





「ウソつきーっ!!兄貴のウソつきーっ!!ぜんぜん理解してないじゃんっ!!ずぅえんずぅえん理解してないじゃんっ!!だって、理解したんだったら、まずは実の弟のオレから愛するべきじゃんっ!!」

じたじたじたじたじた

空気を読まない銀色の生物がだだをこねます。



「…」

そんな愚弟へ、マルチェロは 世界を氷河期に逆戻りさせそうな冷やかな視線 を向けますが、赤い生物は気づきません。



「愛して愛してーッ!!世界一キュートで宇宙一びゅでぃふぉーなリトルブラザーのオレを骨まで愛してーっ!!あんなガキどもなんて、オレに比べたらどーでもいいじゃーんっ!!!!!!」







「さて、孤児院の建物はどこに建てるかな。」

「それと内装を考えなくちゃ。子どもが落ち着いて暮らせるような色にしましょうよ。」


マルチェロとゼシカが計画を楽しげに進める姿を、マダムは 楽しげに眺められ ます。





そして、アルバート家の屋敷の裏庭では、何かが メラゾーマ二発分の火球の直撃 を受けて、めらめら燃えていましたと、さ。

2007/5/26




いっぺんでいいから、“またお金が増えちゃう”と思ってみたい、今日この頃




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