あばれ牛どりのモモ肉 398G その三

夏休みが終っちゃった…(シクシク)









ヤンガスは、黙ってマルチェロの顔を覗き込みました。

かつては、あれほど自分の真情を出すことを嫌った彼が(ヤンガスはマルチェロとそんなに長い付き合いではありませんが、いくら彼だって、マルチェロと 五十秒も顔をあわせれば そんなことは分かります) 心からの沈痛を表し ているのです。




「親に裏切られた、などという事が、僅かな時で癒される傷であるはずがない。」

「…それは、実体験からの発言でガスか?」

ヤンガスは、地雷発言であることは覚悟の上でそう言いました。

もちろん 自らのHPが、マルチェロのテンション100のグランドクロスにも耐え得る 事は知っての上での発言です。

いくら 彼の脳みそがスッパマンより小さい とはいえ、彼も歴戦の勇士です、そのくらいの計算は本能で出来ます。




「思い切った発言をするものだな…」

マルチェロは、 苦笑しただけ で、攻撃を放とうとはしませんでした。

ええ、彼だってさまざまな人生経験を経て成長しているのです。そしてその成長は、 あれほどの大人気なかった マルチェロをして、 分別というものを身につけさせるくらい偉大な成長 であったのでした。





もろちん、同じ発言をどっかの赤銀色の生物がすれば、 超即死 なのは、言うまでもありませんが。










「今更こんな告白をするのもアレでヤスがね。アッシには親ってえモンがそもそもなくてね…ま、パルミドじゃあ珍しいコトじゃあありやせんが。」

「らしいな。昔の部下が言っていた。」

「ま、つまりは親に捨てられたコトに違いはねェんでしょうが…なんせ物心ついてなかった頃の話でガス。あんたみたいに、その…」

とはいいつつ、元山賊とはいえ善人のヤンガスは、本人から直接聞いていない、センシティブな話題に触れるのはためらわれました。



「ふん、今更。どうせ 赤銀の生物があのよく動く舌をぺらぺらと動かした のだろう?それに、どうせドニの町でも、そしてサヴェッラでも誰でも知っている話だ。 私は実の父に、母親共々捨てられた。嫡子が生まれたからには、脇腹の息子などいらんという、身勝手極まりない、そして、私には如何ともしがたい理由で な。それが幼い私に、どんな傷を残したか…」

マルチェロは、小さく首をふりました。




「自己許容感の欠如、安心感の喪失…まあ、多々ある。そしてそれが、おそらく私の人格形成及び、人生に多大なる影響を及ぼしたであろう自覚もある…なんだヤンガス、不思議そうだな?」

「いやあの…そんなに怒らねえでくだせえよ?その… 意外と冷静に自己分析ってモンをしてる なと…ちいっと意外でガシた。」

「そこまで身の程知らずと思われていたとは心外だな。」

「すいやせんね…」



さすがにヤンガスはオトナでしたので、 だってアンタの行動と言動を見てるとそうとしか思えない とは口にしませんでした。







「そして… 自ら子孫作成行為を為したいとは思えない という思考も持った。」

「それは… 子作りしたくねえってコト でガスか?」

「そうだ…というか、それ以外の意味など、今の発言にあるのか?」

「いや、アンタの発言はいっつも言葉が難しすぎて…ま、それはともかく、そりゃまたなんででガス?アッシはパルミドの裏町で親の顔も知らずに育ってヤスが、 小さくても暖炉のある可愛いおうちの中での、包丁の音、食事のにおい、そしてそこにある エイタスのアニキの笑顔っ!!! ってのには、すげえ憧れを感じヤスがね?」


なんだか、 スゴい勢いで論点がズレ ましたが、マルチェロは気にしなかったようです。



ククールがいたらツッコミを入れてくれたでしょう。




「いや、ヤンガス。 エイタスとは子孫作成行為は出来 ないから。そこはゲルダとやろうよ…」




そうですね、 ゲルダとは子孫作成行為は出来 でも、エイタスとは出来ません。同じ行為を 愛情確認行為と言い換えるなら可能 でしょうが。





閑話休題


「子孫作成行為を行った結果として、私に私の血を分けた子が作成されるとしよう…」

「だからソコは、も少し分かりやすく喋りやしょうよ。 エッチしたら赤ちゃんが出来やした でいいじゃないでガスか。」

「別に私とて、子をカスタマイズすることは不可能だが、子の方は更に不利な条件を持っているのだ。つまり、 子は誰が生物学上の父親かを選択することが不可能であるのみならず、 生まれてくることすら選択すること叶わないのだ。 これが不幸でなくてなんだっ!?」


「…」


「この世に生を受けることすら選択不可能な上に、生まれてみたら父親が私のような 暗黒神の力を借りてまで野望を果たさんとし、それに失敗して法王庁に追われる大罪人 だったとしよう… 私ならそんな人生はご免蒙る な。」




なんと壮絶な自己否定の言葉 なのでしょう。ヤンガスは他人事ながら 哀しく なりました。



マルチェロもそれと感じ取ったのでしょう。 自嘲気味に続け ます。




「自ら為した行為だ。今更後悔などせん。いや、 後悔したとてどうしようもない 事だ。私の行為の結果、死した人間は決して戻っては来ないのだからな。」




2007/9/2




天然だけど、意外と自分は把握している…それがマルチェロだと思います。




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