Present for You?

元拍手話。
2年前の でも、そのサンタは… ではあんなだった奥さまですが、なんいうか… 成長 なさいましたね。

ええ、もちろん番外編なんですけどね?









「良い子のみなさん、クリスマスですわ♪」

リーザス村の孤児院で、アローザ奥さまが天使のような笑顔で仰いました。


「クリスマスには、良い子はサンタ・クロースにプレゼントを頂けるのです♪」

奥さまは、ご自分がサンタにプレゼントをもらえる良い子であるかのような満面の笑顔です。


「さ、みなさん?サンタ・クロースに頂きたいプレゼントをかいたお手紙をお書きなさい。」

テーブルの上には、あらかじめ、サンタへのお手紙用の紙と筆記用具が置かれています。

子どもたちは奥さまに促されて、嬉しそうにサンタへのプレゼントお願いの手紙を書き始めました。







「853Gだ。」

マルチェロが、子どもたちの手紙を神速で読破するなり断言しました。


「やー、一人ひとりはちょっとしたモンでも、さすが人数がいると違うよな。」

ククールが何の疑問も差し挟まずに感嘆します。


「なんで一瞬で分かるの。」

今更ながら、ゼシカはちゃんとツッコんであげます。


「そりゃ兄貴はクリスマスプレゼント代の計算のプロだぜ?」

「そんなプロとかいるワケ?サンタさん当人じゃあるまいし。」

そうツッコみながらゼシカは、「マルチェロがサンタなら、この世は闇に閉ざされちゃいそうだわ」と思いました。



「…サンタクロースの秘書、ではあったからな。」

マルチェロが、妙に感慨深げに答えます。


「もしかして、オディロ院長?」

ゼシカが言うと、マルチェロは頷きました。


「オディロ院長は子ども好きな方でいらっしゃったからな。このシーズンにはマダムと同じようなことをなさって、そして私はそれを毎年集計していたのだ。」

「配るのもアンタ?」

「いや、オディロ院長直々にだ。」

「そーそー、オレとお揃いのあっかいモコモコの服着て、でっかい袋かついで…つーか引きずって、

『良い子にプレゼントを持って来たぞい』

って、一人ひとりに配ってたのさ。なんーつか、少し大きくなるともう正体は知ってたけどさ、孤児院から出て聖堂騎士見習いになって貰えなくなってからは

『ああ、オレもう良い子じゃねーんだ』

って、なんか寂しかったコトを覚えてるさ。」

「てか事実、良い子じゃなかったでしょ?良かったわね、マルチェロがサンタなら、あんたムチ食らってるわよ。確か悪い子は、サンタにムチでぶたれるんじゃなかったっけ?」

「違うな。それは中途半端な悪童にだけだ。本当ににどうしようもない、そうククールのような、には、サンタは

『永遠の悪夢』

を贈るのだ。二度と目覚めぬ、そして死すらも救わぬ永劫の闇の中で、悪童は自らの悪事を尽きることなく悔み続けるらしいぞ?」

マルチェロの目があまりに怖かったので、ククールは言いました。


「オレ良かった。悪い子になったのがサンタが来なくなった年になってからで、ホントーに良かった。」




「さ、良い子のゼシカ?ククールさん?、サンタへのお手紙は書けました?」

軽やかにドアが開き、アローザ奥さまがお入りになります。


「…あたしとククールも貰えるの?」

ゼシカの問いに、奥さまは軽やかに微笑まれます。


「まあ何を言うのです、未婚の子は『子ども』扱いです。」

奥さまはものすごく嬉しそうです。


「ソレだったら、オレの兄貴も何かサンタさんにプレゼント貰えるんですかー?」

「バカな事を言うな。私の少年期などとうの昔に過ぎ去ったわ。」

確かに、何億年か前には過ぎ去っていそうですね。

ともかく、奥さまに促されるままにゼシカもククールも、「サンタさんへのお手紙」を書きあげたのでした。







「ゼシカー、そっちのラッピング終わった?」

「うーん、も少しー。マルチェロー、リボン取ってー。」

「愚か者!なんだこの気のない包装の仕方は!気合いが足りん!」

「えー、だってもう時間ねーじゃん。」

「重ねて愚か者がっ!!サンタにかける子どもたちの思いが分からんのかっ!!」

「もー、ククールに説教してる時間があったら早くやってよー。」

クリスマス会の後、アルバート家の一同は総出で、片付けと子どもたちへのプレゼントの用意に追いまくられていたのでした。


「邸の片付けは終了しましたよ。」

奥さまがそう仰る頃には、ようやくプレゼントの用意も完了です。


「さて…と。」

一まとめにしたプレゼントをかついでマルチェロがどこかへ行こうとするので、ククールは

ニヤッ

と笑って声をかけます。


「おんやあ、今年のサンタさんは赤じゃなくて青い服来て着たりすんのかなー?」

ふん

マルチェロが鼻で笑いました。










イブの晩です。

リーザス村の中を孤児院へ向かって歩く人影があります。

大きな袋を重そうに担いで、なんだか微妙にフラフラしながらの姿が、ちょっとだけ心配になります。


しばらくして、大分軽そうになった袋を持った、同じであるらしい人影がウキウキとした足取りで今度はアルバート邸へと向かう姿が見られました。


もちろん、どちらの人影を見た人も、

そっ

と微笑んで見送るだけで、誰何したりなんてヤボはしません。




ゼシカは、ドアを開ける微かな音で目をさましました。

彼女とて歴戦の勇士です、わずかの物音に気付かないわけはありません。

ですが彼女はもちろん、起きたそぶりなんて見せません。

彼女の枕元にきちんとかけられた靴下に、誰かがプレゼントを入れる微かな物音と、その手が彼女の髪を優しく撫でる手触りを感じて、見えないように

にっこり

しただけです。




ククールは、ドアを開ける微かな音に

にんまり

としました。

元より子どものころから、サンタは起きて正体を確認してやろうって了見の持ち主です。

そっと忍び寄る足音は軽く、ククールは

おや

と思いました。

さらに

ガコンッ!!

と派手な音がして、足音の主が何かに蹴躓いた音もします。

自分の部屋と好き勝手散らかしていたククールのせいなのはもちろんですが、「ククールが思っているサンタ」なら、いくら室内が暗いとはいえ、絶対にそんな醜態は晒さないはずなのですが。


「…」

どうやら転ばずに済み、痛さも悲鳴もこらえたらしい「そのサンタ」は、こんどは探り探りククールのベッドまで近づくと、ククールの枕元の靴下に、丁寧にプレゼントを入れてくれました。


「…ああ」

サンタがドアを閉めて立ち去ってから、ククールは小さく頷きました。




ドアの開く音がして、そして暗い室内に灯の明かりが小さく広がりました。


「…いらっしゃい、我がサンタ殿。」

ベッドの上に身を起こし、枕元の靴下を手に取ります。


「良い子にはプレゼントを下さるとのことだが…」

プレゼントを入れているはずのサンタの袋は、もうカラッポです。


「悪い子の私は、やはり頂く権利がないですかな?」

その言葉に、真っ赤な衣装の「サンタ」は言いました。


「まあ、まだプレゼントはありましてよ。」

そして続けます。

「だから、『良い子』には、プレゼントを差し上げますわ。」


ふっ

小さく笑って、マルチェロは手にした靴下をもう一度枕元へかけました。


「では、何が頂けるか、お教え頂いても?」

真っ赤な衣装の「サンタ」は、ベッドの上に腰かけると、優しくキスをして言いました。


「わ、た、く、し♪」


ふっ

今度は、灯りを拭き消す音がしました。











翌朝、プレゼントを貰った子どもたちの歓声がありました。

子どもたちは口ぐちに喜びを訴えましたが、その中に一人、心優しい子がこう言いました。


「ねえ、サンタさんは昨日の晩、世界中の子どもたちにプレゼントを配ってたんでしょ?今日はどうしてるのかな?」

ゼシカとククールは

そっ

と目配せして、言いました。


「すっかり疲れてね。」

「でも、充実した喜びでいっぱいでさ。」

「ぐっすりと」

「幸せに」

「お休み中♪」




子どもたちの笑顔を、奥さまとマルチェロが実際に見たのは、それから何時間か経ってからのことだった、ようですよ?





終わり




2009/12/26




このシリーズが始まった時はまさか、アローザ奥さまが
「プレゼントはわ・た・く・し♪」
とかおっしゃる日が来ようとは、どなたも予想すらしなかったでしょう。

「人は変わるものだ」
でも、多分良い風に変わってるんですよね?ねっ?

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