貴女を世界一の美女と認めぬ者は…
そういやバレンタインだったので(やる気のない反応)アロマルでgo!!
「そう言えば、バレンタインですな。」
なんとも珍しいことに、
マルチェロの口から
そんな似つかわしくない言葉が飛び出しました。
「まあっ そう でした かしら わたくし すっかりと そういう こと には うとく なって
しまっておりまして まあ もう ばれんたいん ですの。 じかんの すぎる のわ はやい ですわ」
おなじみの奥さまの
超棒読み台詞
ですが、もちろんこちらもお馴染みのように、奥さまのお手にはしっかりと
作成構想を年明け前から立てていた手作りチョコ
が、スタンバイオッケーの状態で握りしめられているのですけどね。
精神的な要因に加え、物理的な要因で溶けちゃいませんかね?
ま、ともかく。
マルチェロは
思わずドキドキしちゃうような艶っぽい緑の瞳
で奥さまを凝視すると、
「ですので、愛する貴女に…」
おおっと、マルチェロにしては積極的すぎる発言です。
「は、はい。チョコならいますぐ差し上げ…」
「私からの贈り物を。」
「………え?」
「アルバート夫人アローザを世界一の美女と認めぬ者は、我が剣の錆となると知れっ!!」
アローザ奥さまは、そっと、馬車の外をご覧になりました。
「………」
外には、有象無象の赤い色をした躯が、転がる光景。
「あのー…そのぉ…マルチェロさま?」
奥さまがお声をおかけになると、マルチェロは
超禍々しい色を放つ地獄のサーベル
の血を拭き落としながら、奥さまに微笑みます。
「如何なさいましたか、マダム。」
「あの…今、ここは…どこですの?」
「サザンビークです。」
マルチェロはそう言って、辺りを見回します。
「しかし、なかなか手間がかかるものですな。
世界一の美女を認めさせる旅
というものは。」
「はあ…」
マルチェロの奥さまへのバレンタインの贈り物とは
ズバリ
世界一の美女の称号
というものでした。
そりゃまあ、世の女性なら欲しいに違いない称号ではありましょうが、マルチェロとる手段というのがまた、こんなものでした。
「全世界に、貴女が
世界一の美女
であると触れまわりましょう。何、貴女を一目ご覧になれば誰もが納得致しましょう。よしんば、それに異を唱える者がおりましたら…不肖マルチェロ、
その不届な口を永遠に塞いでくれましょう。御懸念召されるな、マダム。」
そんなマルチェロの
いつもながら強引極まりない結論
に引きずられた奥さまは、ただ今、
全世界周回世界一の美女被認定ツアー
の真っ最中なのです。
途中途中、
命知らずなことに奥さまが世界一の美女であることに同意しなかった身の程知らず。
マルチェロが何者か知らなかった物知らず。
不幸なことに、目が悪くて奥さまのお顔がはっきり見れなかった運知らず。
などなどの面々を、
マルチェロがバッタバッタと斬り倒し
ここ、サザンビークに着くころには、その噂もすっかり広まって、マルチェロの姿を目にするだけで(つまり、奥さまのご尊顔を見る前から)
「マダム・アローザは世界一の美女です。」
と、誰もが口にするようになりました。
まあ、今のような不運な人間も時には出て来ますけれど。
「あのー…マルチェロさま…」
「何でしょう、マダム。」
「あの…リーザス村からサザンビークまで来ましたし、そろそろいいのではありませんか?」
「何を仰います、マダム。
まだまだ世界は半分以上残っております。」
「はあ…」
「マダム、私は世界中の全ての人間、いや、異種族や魔物どもも含め、生きとし生けるもの全てに、貴女が
世界一の美女
であると認めさせます。それが、
私の貴女への愛の証なのです、マダム。」
「マルチェロさま…(ぽっ)」
奥さまは慈悲深いお方ですが、それはそれとして
乙女
でいらっしゃいますから、
貴女への愛の証
とか言われて、反論出来るはずもありません。
「さあマダム、次はどちらへ参りましょうか。」
「待てーっ!!世界一の美女を巡る勝負、オレも受けて立つぜっ!!」
ぱからんぱからん
蹄の音も勇ましく、白馬に乗り、馬車を従えた麗しい騎士がやって来ました。
「…(ちら)」
マルチェロはそれを一瞥するなら、
「メラゾーマ。」
剣先から巨大な火球を、その騎士に叩きこみました。
「どうわああああっ!!」
騎士はその淡麗な美貌に似つかわしくない、
ザコっぽい悲鳴
を上げましたが、さすが腐っても騎士というべきか、後ろの馬車を庇い、
「いきなり何すんだよっ!!勝負挑んでんだから、ちゃんと騎士の礼は守れよ、兄貴っ!!」
と、
少しコゲながらも
言い放ちました。
「ああ、スマン。」
マルチェロは、
本気謝罪度ゼロ
の声音で言いました。
「つい、相手が貴様だったので、言葉を交わす前に焼き尽くさねばならん気がしたのだ。いや、失敬。」
何とも恐ろしい
気
ですが…もちろん、勝負を挑んだのは、
赤銀の愚弟
こと、ククールです。
ま、こんな扱いをされるキャラクターが他にいる筈もありませんから、今更紹介するのも字数の無駄というべきでしょうけれどね。
「もうっ、兄貴ってば相変わらずなんだからっ♪
まあいいや。とっもっかっくっ!!
世界一の美女
なら、オレも負けちゃいられねー。いいかっ、
世界一の美女
ならオレの…」
「ほう、私のマダムの絶対を侵すか、貴様。」
ギラリ
エスタークだって漏らしちゃいそうな眼光
が、放たれました。
「愛する…」
グランドクロスっ!!
ククールにみなまで言わせず(ま、それもいつものことですけど)マルチェロのグランドクロスが、至近距離でクリーンヒットしました。
うぴゅーう
そして、とても三枚目キャラっぽい負け悲鳴を残し、
赤銀の愚弟
は、どこか遠くへ飛んで行きました。
マルチェロは、そんな生物には目もくれず、ククールが守っていた馬車の扉を開けました。
「さあレイディ、貴女を守る男は負けた。おとなしく敗北を認められよ。」
「…ま、展開は想像通りだったけど。」
馬車から降り立ったのは…
「まあ、ゼシカ。」
でした。
「これはこれは、ゼシカ嬢。」
「言っとくけどねえ、別に世界一の美女とかアピールしたかったわけじゃないのよ。ただ、あのバカが…」
「わたくしの負けです。」
「…え?」×2
マルチェロとゼシカが驚いて振り向くと、そこにはアローザ奥さまが馬車から降りて立っていらっしゃいました。
「マ、マダム?」
ものすごく不本意そうなマルチェロの顔に微笑みを投げかけられ、奥さまも微笑み返します。
「マルチェロさまのお気持ちはとても嬉しいのですけれど…やはりわたくしは母親です。
世界一美しいと思うのは、我が娘ですわ。」
「…マダム…」
さしものマルチェロも、返す言葉がなくて沈黙します。
そんな二人の様子を見ていたゼシカは、にっこり笑って言いました。
「お生憎さま。
負けを認めるのは私の方よ。」
「ゼシカ…?」
「そりゃ、カオもスタイルも、もちろん中身までカンペキっ♪なあたしだけど…
やっぱりまだまだお母さんには叶わないもん。」
「ゼシカ…」
「言っとくけど、『今の時点では』だからね。あたしも絶対、
歳を重ねるごとにどんどんキレイになってみせる
んだ…
お母さんみたいにっ!!」
「ゼシカっ!!」
麗しい母と娘は、もっともっと麗しい母娘愛から、ひしと抱き合いました。
そして
「マルチェロさま、リーザス村に帰りましょう。」
「マダム…」
「もう十分です。」
「しかしマダム、まだまだ世界は…」
完璧主義者
のマルチェロは不満そうですが、奥さまはぴしゃりと断言します。
「わたくし、世界一の美女の自覚が出来ましたの。もう誰にも負ける気など致しませんわ。それでは、いけない?」
「いえ、滅相も有りません、マダム。」
マルチェロは奥さまをエスコートして馬車に乗せた後、ゼシカもエスコートしながら、言いました。
「さあ、どうぞ。
世界で二番目に美しい方。」
「ありがとう、マルチェロ♪」
こうして、マルチェロに守られた、世界一の美女と二番目の美女は、仲良くリーザス村へと帰りました。
その日の晩餐は、3人で話も弾んで、とても楽しいものであったようですよ。
え?
オチ?
いつものオチ?
ククールオチは?と?
行間を読んで下さい。
終わり
2011/2/13
母の日ネタでもいけそうな、バレンタインの贈り物のお話。マルチェロが贈り物をするのは、欧米式でしょう。
「(貴婦人の名)を世界一の美女と認めぬ者は、我が剣の錆にしてくれる…云々」は、西洋騎士物語の定番の表現です。彼らの流儀では、世界一の美女とは、貴婦人そのものの容貌ではなく、それにお供をしている騎士の腕が世界最強であることらしいです。(詳しくはドン・キホーテあたりを読んで下さい。)
しかしこの理屈で行くと、水戸の黄門さまは「世界一の美人」になれそうですね。(「ほう、このワシが世界一の美人と認めぬか。助さん格さんや、ちょいと懲らしめてやりなさい。」「ははっ」って理屈で。)
何だかんだ言って仲良しな母娘と、何があっても分かりあえないし合う気がマルチェロにない兄弟のお話でした。
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