二分三十秒の壁 その一へ

竹内久美子さんとおっしゃる、作家さんがいます。専攻は文化人類学(マスターレベル)
ちなみにべにいもさんは、コッテコテの国文学な人間です、はい。









「…アッシだって、人を殺めたことは多々ありやすぜ。なにせ、元は山賊だったんでね。」

ヤンガスは、唐突にそう語り始めました。


マルチェロは、微妙に不思議そうな顔になりましたが、黙って続きを待ちました。




「エイタスの兄貴とお会いして、アッシは やり直そう!! そう、思うようになりやした。だけど、いくらアッシが改心したって、アッシが自分の為だけに殺めた人間は戻ってや来やせん。アッシはそう思って悩みやした。悩んで悩んで悩んで…なんせアッシは、アタマが弱いんでね…答えが出てこずに、不眠症で死にかけたでガス。そしたら、エイタスの兄貴がおっしゃいやした。


『ねえヤンガス。死んでしまった人はもう戻ってこない。だから、その事を思い悩んでも仕方がないと思うんだ。いや、それはその事を忘れていいということじゃなくてね、ずっと覚えておくべきなんだ。そして… いつか君が誰かを愛した時 に、 その人との間に、殺めてしまった人の分だけ子どもを育てればいい んじゃないかな。そしたら、死んだ人の償いにもなるとおもうんだ。』

ああ…エイタスの兄貴のお言葉の素晴らしいこと。アッシは 感激のあまり、即座にエイタスの兄貴にプロポーズ してしまいやしてね…エイタスの兄貴に即座に、

『いや、解決法が違うから』

とツッコまれてしまいやした。ああ…確かにそうでガス。 兄貴のような清純派には、アッシみたいな極道上がりの人間は似つかわしくない んでガス。そう思ってアッシは、 涙を呑んで 諦めたんでガスよ…」




クっ…

心からの涙を零す ヤンガスに、マルチェロは黙りこむだけでした。








ああ、 ツッコミ役がいないとは、なんとツラいこと でしょう。














マルチェロはこんな、 ツッコミ所満載会話 に、僅かのツッコミもせず、そして大長考の末、


ぽつり

と呟きました。











「12.5時間か。」

「…は?」

「12.5時間かかるのか。」

「…ナニが?」

「私の罪の償いには、12.5時間かかるのか、と言っているっ!!」







当然、合点がいかない顔をするヤンガスに、マルチェロは 猛然と 説明を始めました。







「聖地ゴルドの聖堂の定員は、200名だ。」

「はあ、そんなにいやしたか。」

「そして、あの日あの時、聖堂内の警備に当たっていたの聖堂騎士は、38名だ。」

「はあ、けっこういたんでガスねえ。」

「そして、私が、私の野望を果たすべく、殺めた人間…サヴェッラに来てから、ニノ大司教の命で暗殺した人間、失脚させ、自殺に追い込み、間接的に死に追いやった人間は、まあ60人は下るまい。」

「はあ、やっぱり業の深いお人でヤスねえ、アンタは。」

「総計、話を簡便にするために、 私が殺めた人間は300人 としよう。」

「はあ…で、それがどうして12.5時間に…」




ヤンガスの 至極もっともな問い に、マルチェロは




「人の交尾時間は二分三十秒だっ!!」

と、 女神に訴えかけるような荘厳さで朗々と叫び ました。









「は…?」

さしものヤンガスも、そのマルチェロの言葉には反応出来ずにいたところを、マルチェロは、 矢継ぎ早に 続けました。









「そうである以上、二分三十秒を乗算することの300人は… 12.5時間 だ。なにか可笑しい点はあるか?」













「あの…」

「なんだ?」

マルチェロの、 大真面目かつ鋭すぎる視線 にわずかにたじろぎながら、ヤンガスは言いました。




「お説はごもっともでヤスがね。それは、 連続で三百発デキる男でなきゃ成り立たねェ計算 じゃあ、ねえでガスか?」

「…」



マルチェロは、 超大真面目な顔で考え込み ました。





あまりにそれが大真面目な顔だったので、ヤンガスは、微妙に自分の質問を後悔すらしましたので、そっと付け加えました。


「いや、アッシはアンタが何発連続でデキるか知らねぇんでガスがね。いやあ、そりゃあアンタは HPが中ボス でガスから、もしかしたらそれくらい出来る…」


「私も試したことはない。」


「いや、アッシもそこまで試したことはねえでヤスが、だいたいは八発もヤれば腰がヤラれてこっちが立てなく…」


「そして、私も今、 脳裏でシミュレーションを行って みたのだが、その結果、 それは不可能であろうという結論に達したっ!!!」






「…」

そんなことは、 脳裏でシミュレーションを行って みなくても、健康な成人男子なら分かりそうなことですが…さすがマルチェロ、 童貞聖者 は違います。







「やはり、私の罪は償えるものではないのか…」

心から哀し気に 呟き、うつむくマルチェロを、ヤンガスは 複雑な思いで見守る ことしか出来ませんでした。




2007/9/9




ちなみに、類人猿の平均交尾時間は、チンパンジー平均7秒、ボノボ(ピグミーチンパンジー)15秒、ゴリラ60秒。対して、人類は2分30秒(でも、2から10分というのが、より正しい把握だそうですが。)“破格の長さ”だそうです。
しかし、二分三十秒って…“どこからどこまでの時間”なんだろうか?




二分三十秒の壁 その二へ


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