二分三十秒の壁 その二へ

その二分三十秒のため、人類はその人生をかけて努力する。
なんて…なんだろう…









ヤンガスはしばらく黙って見守りましたが、マルチェロに回復の兆しが見えないので、仕方なく言葉を発しました。


「あの…何も 一時に三〇〇発 にこだわる必要はねえんでガスかねえ?その… ひと月に一人ずつくらいのペースでゆっくり とイケばそれで…」

言いながらヤンガスは、 ひと月に一人ずつ、自分の子供を増やしていくのもかなりゾッとする光景じゃあねぇな と思いました。









ナニを考えるのでしょう。


生めよ増やせよ地に満てよ女神さまが定めたもうた人の摂理 です。




遠慮会釈なくハゲみまくれば良い でしょう、ねえ?



もっとも

あんまり“ハゲ”みすぎるのも、マルチェロはちょっと危険 かもしれませんが。















閑話休題


マルチェロはようやく顔を上げました。




「ならば、 一月で十二人 として、 25年計画 ということか…」


さすがマルチェロ。

数値目標が具体的になると俄然元気が出た ようです。




「まあ、そんくらいでガスかねえ…しっかし、25年はなかなか長いモンでガス。」

「まったくだ。 我が人生30年の償いに、25年かかるとは…」

なんだか、だんだん本題がズレてきた気もしますが、ヤンガスはそれはそれとして言いました。



「こんな言い方はヘンかもしれやせんがね、 アンタに元気が出て、アッシは嬉しい でガス。」

「妙な男だな。私とお前は元はといえば赤の他人。そうでなければ敵同士だ。私がお前に恩を施したでなし、一体なにが喜ばしいと言うのだ?」

「正直言うとね、昔はアッシはアンタを見るだけで、背中が痒くなったでガスよ。それに、アンタがククールにしたひでぇコトの数々…アッシだって、アンタのことを好きになれそうな気配は皆無だったでガス…気分を悪くしたでヤスか?」

「別に。嫌われるのには慣れ過ぎている。」

「相変わらず、悲しい人生おくってきてヤスね。だが、アッシも 似たような嫌われ人生 を送って来た男でガス。アンタと話してて、それを改めて思い出して…なんでヤスかね、 親近感が湧いた んでガスよ…アンタは嫌がるか、知りやせんがね。」




ヤンガスは、そっとマルチェロの表情を盗み見ました。




「…嫌がりはせん。自らの歩んだ道から正道に戻った人間がいることが、私にとって不快であるはずがない。」

マルチェロは、呟くように返答しました。




ええ皆様。




お驚きくださいますか?

お信じ下さいますか?



その時のマルチェロの顔が、 わずかに恥ずかしそうだったことをっ!!!!!














「まあ、そんなことはどうでもいい!!」

そんな表情をヤンガスに晒してしまったことが、 余程恥ずかしかった のでしょう。

マルチェロはいつもの仏頂面に戻ると、そう言いました。



「今の問題は、 如何にしてその計画を実行に移すか、だ。いかな素晴らしい計画といえども、それが計画のまま終わっては画餅というもの!!ヤンガスっ!! 我々はその目標を達成すべく、即座にとりかからねばならないっ!!!」


「…“我々”?いや、あの、アッシは…」

「余言は無用っ!!」

マルチェロは在りし日の聖堂騎士団長の時のようにヤンガスの、 アッシは別に300人も子供を作る必要はねえんでガス という、 至極もっともな抗議を却下 し、続けました。






「まず、第一にして最大の要所は、 相手の女性を確保することである。」

「いや、あの…」

「なんだ?私の発言になにか誤りがあるとでも?…私は大概の事は自らで成し遂げる自信はあるが、 子どもを自ら産めと言われても、それだけは不可能 だ…なにか可笑しいか?」

「いえ、まったく可笑しくはねえんでガスが…」

「ならば相手の女性を確保すること は必須であろうが!?」

「はあ…まあその通りなんでガスが…」




ヤンガスは思いました。

きっと、自分たちが行っている会話は、どんな会話か分類しろと言われれば、 間違いなくワイ談に分類される 会話のはずです。


なのに、当のマルチェロは、 不変の正義でも説かんばかりに大真面目 なのでしょうか?





ヤンガスは、確かにマルチェロのことはけっこう好きになれそうですが、それはそれとして、 一生、その神経・精神構造を理解することは出来ないだろうな と感じました。














「あの…お客様にご挨拶も申し上げないで…失礼いたしました。」

なーんてしているうちに、 お客様に挨拶もしないで逃げ出したのはレイディに相応しくない とお感じになったアローザ奥様が、 ちょっと恥ずかしそうに お戻りになりました。




「いやいや、そんな、アッシが急に押しかけたんでガスから…」

と、礼儀作法は拙いかもしれませんが、至極まっとうな対応をしかけるヤンガスを


ぐい、

と押しのけ、マルチェロは奥様の瞳を 緑色の瞳で見つめる と、言いました。






「マダム…唐突ではありますが、 子どもは何人をお望みですか?」





その瞬間、ヤンガスが凍りつき、マダムも硬直なさったのは、言うまでもありません。




2007/9/12




べにいもに言えることは、なにもありません。




二分三十秒の壁 その三へ


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