「マルチェロ…」
ヤンガスはそう呼びかけると、続けました。
「ホレた女を幸せにしてやんのも、漢のツトメってモンだぜ!!」
「ヤンガス…カッコいいっ♪」
ヤンガスの言葉は、共に旅をしたゼシカが
今まで見た事がないくらいの漢っぷり
でした。
マルチェロはしばし思案顔になりましたが、ヤンガスに向き合うと口を開きます。
「お前はそう言うがな、ヤンガス。
そういうお前はどうなのだ?」
「…いや…」
イタい所をツかれたのか、ヤンガスは口ごもりました。
「そーよヤンガス、あんたこそ、
ゲルダさんとはどうなってる
のよっ!?」
さすがゼシカも女の子です。
この手の話題への興味は津々のようです。
「いや、そのあいつとは…別に恋人どうしとか、そーゆー色っぺえ仲じゃあねえし…」
「ウソっ!!どう考えても、ラブラブじゃないっ!?」
さすが女の子だけあって、そのテのネタの追求には情け容赦がありません。
「いや…そりゃあよ、ちょっとゲルダのアジトに入り浸ってて…」
「やっぱり男女の仲なのねっ!?」
「いや…男女の仲なんて、そう艶っぽい仲じゃねえけど…その、一つ屋根の下にオトコとオンナがいたら、まあそういうコトも起きるわけで…」
「同棲してたんだっ!!!」
「いや…でも、よそ目から見たらそう見えるかもな…ゲルダの部下どもも、俺のこと
『兄さん』
って呼び始めるしよ…ゲルダとはそんな仲じゃあねえっての…でも、そんなこんなしてたら…」
「子供が出来たというわけだな。」
「なんで分かるんだよっ!!!!」
思わずマルチェロの胸倉を掴むヤンガスですが、マルチェロは動じもせず、理論整然と続けます。
「おかしいと思ったのだ。大概の男というものは、自分が結婚だの、配偶者の出産だのを経験すると、
やたらと人にもそれを勧めたがる
ものだからな。先ほどからのお前の話運びを見る限り、そうではないかと思ったのだ。やはり、私の推測は当たっていたな。」
さすが
自分の事はさっぱりでも、人のことには神眼を発揮する男マルチェロ
です。
ヤンガスは、ようやく観念したのか、事実を認めました。
「で、式はいつするの!?」
ゼシカが
乙女モード全開で目をキラキラさせながら
言います。
「そんな式なんて…俺が花婿なんて似合わねえコトしねえよ!!…だいたいゲルダの奴、可愛くもねえ、子供が出来たって俺に言っておきながら、
『子供産むなんてめんどくさいけど、デキちまったから仕方なく産むんだ』
だの
『子供が出来たからって、亭主ヅラされたり、父親ヅラされたりするのは御免だね』
だの
『結婚式!?ハン!!アタシが純白の花嫁衣裳着て喜ぶとでも思ってンのかい!?』
だの…」
「単にテレてるだけ
よ。だってゲルダさんってば、
超ツンデレ
だものっ!!!!」
ゼシカは、
マルチェロよりも自信満々に断言
しました。
「生憎、ゲルダという女は知らんが…女というものは、なぜか花嫁衣裳に憧れを抱くものらしいからな。式くらい挙げたらどうだ?そのくらいの蓄えはあるのだろう?」
「そーよっ!!ずぅえったいっ!!挙げるべきだわ!!大丈夫、今じゃ
デキちゃった婚なんて珍しくもない
コトだし。ゲルダさんも内心は、花嫁衣裳は着たいし、その隣にはあんたが花婿衣装着て並んで欲しいに決まってるわっ!!
あたしの言うことに間違いはないっ!!!!!」
ゼシカの
力強すぎる断言に気おされ
て、ヤンガスは、ゲルダと式を挙げることを約束させられてしまいました。
「結婚式には何を着ていこうかしら…あ、こないだポルトリンクで見た、ライトスカイブルーのドレス、あれにしようかな。うふふ、それにお気に入りの靴を合わせてぇ…あ、バッグも買わないと♪」
嬉々として、結婚式の準備を構想するゼシカに珍しく気おされたマルチェロは、同じく気おされたヤンガスと、ひっそりと話をしました。
「ま…なんだ…父親になるからには、責任は重いぞ。」
「そんなコトは分かってるでガスよ。アッシは元山賊で、まともに親の顔も知らねえ男でヤスが、作っちまったからには、子供は幸せにしてやりてえでガスからね。」
「子供だけではなく、そのゲルダとかいう女も、ではないのか?」
マルチェロの言葉に、ヤンガスはうなずきました。
「ま、ゲルダは
『幸せにしてね』
ってえ殊勝な台詞言う女じゃねえでガスが、アッシなりに
一緒に幸せになろう
てえ気持ちはあるでガス。なにせ、ガキの自分からの馴染みで…そりゃ、欠点だらけの女だが…多分…
惚れてるから
よ…」
ヤンガスは再び、
びっくりするくらい漢
な表情になると、マルチェロに言いました。
「マルチェロ…ゼシカのお袋さんは、そりゃあ、ちょいと年上だろうが、
賢明であり、品格があり、そして人間的にも高潔な、私が今まで出会った中で最も尊敬に値する淑女
なんだろ?だったらいいじゃねえか…幸せにしてやんなよ。
惚れてんなら
よ。」
「いや、惚れてるかどうかも分からんのだが。」
「それが惚れてるってコトなんだよっ!!!」
かなり乱暴な発言でしたが、マルチェロはなにか思い当たるフシがあるのか、はたまた
彼でも場の桃色空気に呑まれた
のか、うっかり頷かされてしまいました。
「しかし…婦人とは付き合ったことがないので、一体なにをしたらいいのか、皆目検討がつかんのだが…」
「一緒の時間を持つっ!!一緒に笑いあうっ!!!それが一番だっ!!」
「はあ…」
マルチェロらしからぬ返答に、ヤンガスの
無闇やたらと力強い肩叩き
が加わりました。
ちなみに、どこかでなにかが焦げ果てているというのは、もう今更言うまでもないですよね?
2007/10/7
というわけで、タイトルの「ベイべエ」は、マルチェロとかではなくて、ヤンガスの方の話だったのです。
べにいもはヤン主も推奨していますが、ヤンゲルも推奨しています。多分、ヤンガスの心の中では
「理想はエイタスのアニキでガスが、実際に惚れたのかゲルダだった」
って、そんなカンジではないかと…いや、エイタスにはミーティアがいるから。
ってか、そもそもこのシリーズは、ノット801だから。
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