ENVY その一

あれだけ(嫌な意味で)感情豊かなマルチェロですから、きっと嫉妬深いと思います。
きっと小さい頃も、オディロ院長が他の子をちょっと構っただけで、内心メラメラしていたに違いありません。もちろん、賢い子だから言葉にも素振りにも見せなかったでしょうが、オディロ院長は気付いていたに違いありません。

そんな彼が、生身の女性に嫉妬なんぞしようものなら…その感情は、世界をも滅ぼしそうな気もせんでもないです。
というわけで、オフィシャルで女性に恋しなくて、良かったね、兄貴?









カッカッカッ

マルチェロは、 童貞ならばぴったりフィットの、カッコよさ100のプリンス・スーツ なのに、聖堂騎士団長の制服を身にまとったようにキビキビと 威圧感たっぷり で、奥さまとゼシカに歩み寄りました。



「まあっ、マルチェロさま、こんな格好で…」

「いえ、よくお似合いです、マダム。」

恥ずかしがられる奥さまに、礼儀正しくそう声はかけたものの、 その声は激しく機嫌悪そう でした。




「その…他意はありませんのよ、マルチェロさま。その、ちょっと昔、 わたくしが花嫁だった頃を思い出していただけ で…」


奥さまはそうおっしゃると、また今は亡き旦那さまのことを思い出されたのか、 ほわわん乙女モード に入られました。





びきききききっ!!




ゼシカもククールも、そんな 空気が凍りまくる音 をしっかりと耳にしました。




「マダム、貴女ほどお美しい花嫁にお似合いだった方だ。貴女の亡き御夫君は、さぞや御素晴らしい方だったのでしょうな。」

口調がイヤミモード に入っていましたが、 ほわわん乙女モード の奥さまはお気づきになられません。



「うふふ、もう亡くなった方ですから、 少しのろけて も宜しゅうございますわね。ええ、 本当に素敵な方 でしたわ。 爽やかに吹く春風のように穏やかな方 で、 女神さまに心から愛された、まっすぐで善良な方 ええ、サーベルトは夫に似たのでしたもの。」




これは大変です。

ゼシカとククールは同時に思いました。


だって、マルチェロは、誰がどの角度から見ても、 凍てつく木枯らしのように厳しい方 ですし、 女神に反逆した、歪みまくった邪悪な大魔王 ですから。




「でも、あまりに素晴らしすぎるのが、きっと宜しくなかったのでしょうね。あんなに早く、女神さまにお召しになられてしまったのですもの…」

アローザ奥さまは、 心から悲しげに 嘆かれました。




「…マダム、 貴女の御心はやはり、今も亡き御夫君のものですか?」

マルチェロらしからぬ、 ストレート極まりない、しかも危険な問い に、奥さまは無用心にも、 直球ストレート にお答えになりました。




「ええ、もちろんですわ。」







がつんっ!!




踵を返すすさまじい音と共に、マルチェロは大またで部屋を出て行きました。












これは不味い





同時に思った二人は、方やククールは、あわてて兄を追い、方やゼシカは、母に話しかけました。























「待ってくれよ、兄貴!!」

ククールは、ようやく兄に追いつきました。



「私に何の用だ?」

不機嫌丸出し の言葉に、ククールは少しビビりますが、それでも言葉を返します。


「あの態度は良くないよ、兄貴。そりゃ、兄貴が 嫉妬 する気持ちは分からないでもないケド…」

嫉妬!? 貴様ククール、私が 嫉妬 するとほざくか!?」


兄のあまりの剣幕に、やっぱりククールはビビります。


嫉妬 一体、私が誰に 嫉妬 すると言うのだ!?まさか、マダムの亡き御夫君か!?」

「いや…それ以外に、する人なんていないと思うんだけど…」


「フン、そもそも私がマダムに恋情を抱いているという、貴様の愚考そのものが奇怪だ。それに…仮に私がマダムに恋情を抱いていたと仮定しよう。そして、マダムの御夫君に 嫉妬 する… それこそが不合理だ!! 何故なら、彼はとうに死んでいるのだ。 何故、私が死人に対して嫉妬の心を抱かねばならんのだ、説明してみろっ!!」




相も変わらず、 合理的極まる不合理思考 のマルチェロです。




「いや…説明出来ないのが、 嫉妬心 ってモンなんだよ、兄貴。」

「ふん、使えんな、貴様っ!!」


八つ当たりにも程がある マルチェロでしたが、ククールは慣れているので気にしませんでした。



「嫉妬…嫉妬心だと…私がマダムに…」

ブツブツ呟くマルチェロを慰めるために、ククールは言いました。




「安心しなよ、兄貴。 女神に反逆した、歪みまくった邪悪な大魔王の兄貴 だから、 兄貴は奥さまのダンナと違って長生きするから…」












その時、リーザス村の村民たちは、アルバート邸から、美しい紅蓮の色をした人の形をした何かが、遥かかなたに吹っ飛んでいく光景を目にしました。





2008/6/28




憎まれっ子世にはばかる
やっぱり、生きてる人間が最後には勝つと思います、はい。




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