ENVY その二

そしてアローザ奥様は、聡明だけど、こういうところでは激しく鈍感だといいと思います。
これぞ乙女っ!!
ってなモンですからね。









さて、こちらはアローザ奥様&ゼシカです。


マルチェロが、見るからに不機嫌に出て行ってしまったのを見て、奥様は驚かれました。




「まあ、わたくし、マルチェロさまに何かしたでしょうか?」

「いや…別にお母さんは悪くないとは思うんだケド…」

「けど?けれど、何なのです?」



そこで奥様は、ようやくハッとされました。




「まあ、わたくしとしたら何ということ。」

「お母さん、気付いた?」

「ええ、わたくし、 レイディにあるまじき無作法 をしでかしてしまいました。」

「いや、別に無作法とは思わないけどね。ちょっと、人の心は傷つけたというか…」

「まったくです、 マルチェロさまのお心を傷つけてしまい ました。さっそく、謝らないと…」

「いや、あのイヤミはそんな程度で傷つくようなヤワなタマじゃない…ってワケでもないか。 暗黒神の支配を跳ね返す精神力してるくせに、人生の大部分を八つ当たりで無駄にしてきた ヒトだもんね。常人とは傷つく基準が違うのかもしんないし…」

「まあ、ゼシカ、マルチェロさまに失礼なことを。いえ、わたくしがそもそも無礼をしでかしたというのに、人を咎めている場合ではありませんね。」

早速、ドレスをからげてマルチェロを追いかけようとなさる奥様を、ゼシカは留めました。



「まあ待ってよ、お母さん。今追いかけたって、話がややこしくなるだけよ。ククールが何とかしてくれると思うから、その間に、ちょっとこっちもアタマ冷やさないと。お母さんてば、 ちょっと乙女モード入りすぎ で、そりゃアイツだって、そりゃ大人気ない反応だとは思うけど、 嫉妬 の一つもしたくなるわよ…」



ゼシカの言葉に、奥様は きょとん となさいました。




「嫉妬?一体、何の話をしているのです、ゼシカ。」

その言葉に、ゼシカも きょとん としました。




「え、そりゃ、あのイヤミがあたしのお父さんに嫉妬…」

「嫉妬?マルチェロさまが、貴女のお父さまに? どうしてそのようなことをする必要があるのです、ゼシカ?」

真顔で問い返されて、ゼシカはいっそ焦りました。



「え…じゃあお母さんは、なんでマルチェロが怒ってるって思ってるの?」

「まあ、今更何を言うのです。先ほどのマルチェロさまをご覧なさい。 非常に素敵なお召し物でいらした ではありませんか。マルチェロさまはいつもお忙しくてお洒落にまで気が回らないのに、 ちょっと気分転換 で、お洒落なさって、 わたくしたちにご披露下さったに違いありません。 ですのに、わたくしったら、亡父の思い出にひたってばかりで、マルチェロさまのお召し物に一言も言及しませんでした。 マルチェロさまが気分を損ねられるのは当然です!!」





くらっ

ゼシカは、 ちょっとめまい がしました。





(分かってたけど…お母さんがこんな人だって、 生まれた時から知ってた けど…)






思わずソファーに倒れこんでしまったゼシカに、奥様は慌ててお駆け寄りなさいました。




「どうしたのです、ゼシカ?気分でも悪いのですか?」

「うん、気分はかなり悪いわ。」

「それは大変です、とりあえず、早くお休みなさい。それでも直らなければ、明日、お医者様をお呼びして…」

「寝たいのはスゴくあるんだけど、その前にお母さん、聞いておきたいことがあるの。答えてくれる?正直に。」

「まあ、今更改まって何なのです。実の母娘ではありませんか、何でもお聞きなさい。」



ゼシカは、 マダンテを放つ時 のように、大きく大きーく深呼吸し、そして言いました。








「ぶっちゃけ、マルチェロのことはどのくらい好きなの!?」





















アローザはこんらんしている。

























「今のまま、アルバート家の女主人と、執事みたいなカンケーで満足なくらい? もう一歩進んで、恋人になりたいくらい? もう少しビミョーに生臭い関係? それとも、 いっそ結婚して、子どもとか生んでみたい!?」























アローザは、ショックを受けている。


















「ねえお母さん、あたしもククールも、ずっとお母さんとマルチェロを見守ってきたけどね。 そろそろハッキリしてほしい ワケよ。そりゃ、あたしだって、あのデコを

『お父さん♪』

って 笑顔で呼べる自信 はまだないけどさ。でもね、あたしだって自分の好きで冒険の旅に出て、ククールみたいな、 ダンナにするにはかなりビミョーな生物 を連れて帰ってきちゃったから、 今更、お母さんのすることにいちいち文句は言わない わよ。サーベルト兄さんだって…生きてたらきっと、

『お母さんが好きな人を見つけて幸せになるなら、それは僕にとっても幸せだよ』

って 超笑顔で祝福してくれる はずで…」










アローザは、ショックから立ち直った。


















ショックから立ち直られた奥様は、 そのお顔を、そのおぐしと同じ色に染められました。

それが、羞恥の故なのか、怒りの故なのかは、よく分かりませんが。






「一体、何を世迷言をっ!!!!」

そして、 レイディには微妙に相応しくないお声で ゼシカに仰いました。





2008/7/12




やっぱり、勝負はインファイト。
それがべにいも流です。




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