ENVY その三

ツンデレカップルって、こんなにも周囲に迷惑をかけるんだ。
このシリーズを書いていて、そう、改めて思いました。









ゼシカは母の怒りの凄まじさに、思わずビビりました。

なぜって?

この時の奥様の怒りの迫力は、 ぶっちゃけ、ラプソーンのイオナズンの838861倍は怖かった からです。




「わた、わた…」

お怒りのあまり、お声がお震えになる奥様。



「わたくしはレイディですっ!!」

「え、分かってる…」

「わかっておりませんっ!!」

奥様はもう一度、 レイディにはカナーリ相応しくない大きなお声で そう仰いました。




「なんという 侮辱!! ゼシカ、貴女がわたくしの娘ではなく、わたくしが殿方であったならば、 決闘を申し込みたいくらいですよっ!!」




ゼシカは、当初のショックからは立ち直りました。

ええ、彼女とて ダテに世界は救って いません。

修羅場には慣れています


もっとも今でも、 レベル1で竜神王最終形態に遭遇してしまった くらいの恐怖は感じていますが。




「わたくしはレイディですっ!!」

奥様は再び、 レイディには相当、相応しくない大きなお声で 仰ると、怒涛のようにお続けになりました。



「レイディたるもの、 名誉貞節 が何よりも大切であることは、貴女もよく分かってることでしょう、ゼシカ!?」

「あ、はい…」


「わたくしの 名誉 は、アルバート家の 貞淑な嫁であり、母 であることと同一ですっ!! わたくしの操は、貴女の父上に捧げられているのですっ!!」

「…でもね、お母さん。お父さんが生きてたら、そりゃあたしも反対したけど、お父さんはもうアタシが顔を忘れるくらい昔に死んでるのよ?」


「それが何だと言うのですっ!!」

奥様は、ぴしゃりと跳ね除けました。



「わたくしの永遠の貞節は、貴女の父上にのみ捧げられていますっ!! それとも何ですか?後家は殿方を引き入れるのが当然だとでも!?」

「まあ…いくら暗黒神が滅びたとはいえ、何かと 物騒 だし…男の人がいた方が安心かな、とか…」


ゼシカは、 その当の暗黒神を滅ぼした女 ですから、それだけで治安は十分でしょう(赤銀の生物も一応いますし)。

なにより、 人の子の中では一番物騒な生物 を引き入れて、 何が安心なの!? というご意見もあるでしょうが。




「まったく世迷言を…実の娘の貴女までそんな事を思っているなんて、 村民たちに知られたらどう思われると思うのです!?」

「…」






どうもなにも、間違いなくリーザス村の村民たちはとうの昔から マルチェロはアローザ奥様のカレシ だと思っています。


気の早いおばさんなどは、


「ところで、あのお二人はお式とかはどうするんだい? どうせ公然のことなんだし お式くらい挙げたって、旦那さまもバチなんかお当てにならないと思うけれどね。ほらいっそ、ゼシカお嬢様のと一緒にしてしまうってのはどうだい? おめでたいことは重なったら、倍、おめでたいからねえ。」

なんぞといっていますし。






「わたくしと、アルバート家への敬意と好意が、ガタ落ちになるとは思わないのですか!?」

いえ、多分…いや間違いなく、 むしろ上がるでしょう。




「でもねお母さん、レイディの貞節は、とりあえず、さて置いてよ。一番大事なのは、 お母さんがマルチェロのことをどう思っているか でしょう?」

「…」


奥様は、一瞬たじろがれたようでした。


よってゼシカはここで畳み込みます。



「お母さん、お母さんはレイディだけど、その前に一個の人で、そして女でしょ!? 感情ってものがあるはずでしょう!? その感情に素直に答えてよ。 お母さんはマルチェロのこと、なんとも思っていないの!?」

「なんとも思ってはおりませんっ!!」





売り言葉に買い言葉 というヤツでしょうね。




「ええ、もちろん有能で誠実な方ではいらっしゃっ…」







奥様はそこで、わが娘の顔が、 血の気ゼロ で、 奥様の後ろを凝視 していることに気付きました。






奥様は、 おそるおそる 後ろを振り向かれました。








そして



















緑色の瞳 と、 バッチリ 視線がお合いになりました。





















「左様か。」




その声は、むしろ消え入らんばかりだったのですが、奥様は、


ザキの呪文で心の臓が凍りつき、砕ける一瞬前に、人はこうなるに違いない

と思うほどの感触をお味わいになられたのでした。




2008/8/11




あーあ、やっちゃったー




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