Lovers その一
やや昔の話になりますが金城武も出ていた(と思う)中国映画「Lovers」の現代は
「十面埋伏(いたるところに敵だらけ)」
だそうです。この映画に限らず、中国映画は原題のまんまの方がカッコいいことが多いと思うのは、べにいもだけでしょうか?
しーん(もくもく)
「あの、お兄さま、お塩を…」
「…(無言かつ無愛想に渡す)」
しーん(もくもくもく)
「お、お母さま?今日の卵焼きは、格別に美味しゅうございますわね?」
「…(そうですか、と多分言いたいのであろう冷やかな瞳)」
しーん(もくもくもくもく)
もういやー(泣)
朝食が終わり、自室に引き上げたゼシカとククールは、二人同時にそう叫びました。
「もう何日目よ、あの
沈黙と気まずさただよいまくるご飯の時間はっ!!!」
ゼシカの叫びが魂から発されているのも無理はありません。
例の事件
以来、アローザ奥様とマルチェロの二人の間には、
気まずーい空気
が流れすぎているのです。
「もういっそ、マルチェロが出ていきゃいいのに…」
ゼシカが言うと、ククールは否定します。
「何言ってんだよ、ゼシカ。あんな状態の兄貴を放り出すなんて、
魔法の玉を暖炉の前に置いておくようなモンだよっ!?」
つまりは、いつ爆発するか分からないと
第一種危険物扱い
されているマルチェロです。
…当然ですけれどね。
不満顔のゼシカをなだめるように、ククールは言います。
「なーゼシカ。そりゃが兄貴が一番悪いけど、君のお母さんの対応だって、ちょっと大人げなかったとは思わないか?」
「…まあ、思うわよ。
淑女がどうとかゆーレベルじゃない
とは思うわよ。」
「それに兄貴は
スゴく傷ついて
るんだ。兄貴は…
あの兄貴がだよっ!?
オレにぽつって言ったんだよ。
『ふん…獣か…反論のしようもない。我が所業から導かれた自業自得というものだ…
マダムに嫌われても当然だ!!』
なーゼシカ。
30男が、両想いの女性にちょっとヒドいこと言われただけで、『嫌われた』って思いこんでるんだよ！？可哀想とか思わない！？」
「…確かにそう思わないでもないわよ。
だって相手はほかでもない、あのマルチェロだからね。」
弟と未来の妹に好き勝手、彼の一番嫌いな同情をされているマルチェロです。
しかし、確かにそう思えるでしょうね。
なにせ、他でもない
全世界はおろか、神すら敵に回した男
が傷ついてるわけですから。
「…なんとか兄貴を慰められないかな。」
ククールが言います。
「アンタじゃムリだしね。」
ゼシカが答えます。
「なんで兄貴ってば、オレに慰められてくれないのかな。」
「そりゃアンタ、
信頼関係が皆無だからよ。」
さらりと回答するゼシカです。
「オレにとってだけじゃなく、兄貴にとったってオレは、
大事な大事な今のとこ唯一の家族!!
なのにな…」
「仕方ないわよ、ククール。」
ゼシカは
太陽のような笑顔
を浮かべて言いました。
「だってククール、アンタ、
とりあえず人間的に信頼できないもの。」
ククールも、
女神さまのように麗しい笑みを浮かべて
返します。
「なんだよゼシカ。
そんなオレが好きなクセにー。」
かくして、
ホントにいろいろソレでいいのかっ！？
とツッコミたくなるLoversの二人が、深刻な事態から目をそらして
いちゃいちゃ
していると、チャイムが鳴りました。
「はーい」
入口に近かったので、二人は自ら玄関へと向かいます。
「郵便でーす。」
差し出した手紙を、ゼシカはその場で封を切ります。
「…エイタスとミーティアからだわ。」
トロデーンで、女王&女王婿修行中の、新婚の二人が、お忍びで遊びに行くとの手紙でした。
「うわー、うれしい。さっそくお返事書かなきゃ。んでもって、準備、準備。えっと、いつ来るのかな…」
「ゼシカ、
訪問日時:今
って書いてあんだけど。」
「…今?」
二人は、顔を見合わせました。
「ひどいな、二人とも。もう僕の顔、見忘れちゃった?」
郵便屋さんが、そっと帽子を上げました。
「うふふ、いつもと格好が違ったら、すぐには分かりませんわ、エイタス。」
後ろの木陰から、何かが
ぴょこん
と、飛び出して来ました。
「エイタスとミーティアっ!!」
思わずハモってしまう二人に、郵便屋の格好をしたエイタスは
「急に押しかけてゴメンね。お久しぶり。」
と、
かなりパパらしさが増した笑顔
で答えました。
２００８／９／１３
トロデ王が出てきたあたりで書いてると思いますが、ミーティアは妊娠中なのです。
なのでパパ。
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