Lovers その三
エイタスが登場してからの「アローザと元法王さま」とは思えない雰囲気、というのが結構好評のようで…
みなさま、ラブコメよりシリアスが好きなのかと、邪推する日々であります。
あ、拙サイトの主人公の名は「エイタス」で、「アンジェロ」というのは、マルチェロがリーザス村で使っている偽名です。
「諸君に問う、力とはなんだっ!!」
マルチェロのそんな、
チャーム力高すぎのよく通るバリトンの演説
を耳にした瞬間、ククールの膝は上半身を支える力を失いました。
「…相変わらずみたいだね。」
エイタスのそんな、一見ほんわかしていてそうで、
相当殺すモード上がった
言葉が、ククールに突き刺さります。
「ちち、違うんだ、エイタスっ!!」
「ナニが違うの?」
鋭い刃を内に秘めたエイタスの笑顔
に、ククールは
半泣き
で反論しようとします。
なんでだよ、兄貴…どうして、どうして、
孤児院の子どもにお話しするのに、そんな革命をブチあげそうな演説口調
なんだ!?
ククールの苦悩ももっともです。
マルチェロの様子を見にきた…というより、
マルチェロが殺すに値する危険度のままなら始末しにきた
エイタスに、ククールは
兄貴はとっても平穏で安全なひとになったよ
というところを見せたかったのです。
本当なら、前もってシナリオすら書いておきたかったのですが、ぶっつけ本番になってしまったのは仕方ありません。
ただ、お屋敷のメイドの
「アンジェロさんなら、孤児院で
子供たちと遊んでくれて
いますよ。」
との言葉に、ククールは
思わす女神さまに祈りをささげ
ました。
だって、
前科を悔いた悪人が、身寄りのない子供たちを集めて作った孤児院で、子供たちと戯れる
なんて
見るからに、ハッピーエンドな絵ではありませんかっ!?
というわけで、半分安心してエイタスをいざなってきてみれば…
この始末ですっ!!!
そんな弟の苦悩なんて知らぬ顔で(まあ事実知らないわけですが)マルチェロは呑気に(もちろん、彼はいつも大真面目ですが)孤児院の子どたちを相手に
余人をひれ伏させるのに、いかに力が重要か
という講義をえんえんとおカマしでありました。
「違うんだよ、エイタス。兄貴はその…
他に話せるようなネタがないだけなんだっ!!!!!!(泣)」
ククールの言葉は、苦しい言い逃れであるのはもちろんですが、ウソでもありません。
心から合理主義を尊ぶ男
(のわりに、その生き方は不合理極まりないですが)マルチェロの頭脳は、おとぎ話だの、童話だのといった代物を蓄積しておく
無駄
を認めなかったのです。
必然的に彼の話せる話と言えば、
10年後を見据えた投資術
とか
顧客を確実にモノにする弁論術
とか
異端とは何か!?
とか、そーゆー
子供の心の豊かさとは正反対のものを育む
ものばかりなわけです。
ま、マルチェロですから。
エイタスは、ほとんどすがりつかんばかりのククールは悠然と無視して、どうやら話がひと段落したらしい中へ、入って行きました。
「あー、ゆうびんやさんだー」
郵便屋の格好をしたエイタスの周囲に、子供たちがむらがります。
「なにをはいたつしに来たの?」
子供の問いに、エイタスは
生臭い用件を胸に秘めている
とはとうてい思えないほどの爽やかな笑顔で、
とてもかわいらしいラッピングが施された箱
を差し出しました。
「こんにちは、良い子のみんな。郵便屋さんがみんなに、プレゼントを届けに来たよ。」
子供たちが喜んであけると、中には、美味しそうな焼き菓子がたくさんつまっていました。
おそらく、ミーティア姫の手作りでしょう。
ククールは、女王さま修行で多忙だろうに、孤児院の子どもたちにまで気配りを欠かさないミーティア姫の心遣いに、
こんな時でなかったら
大感激したことでしょう。
「こんにちは…アンジェロさん。お久しぶりです。」
エイタスがそう挨拶すると、こどもたちは不思議そうにマルチェロに問います。
「アンジェロさんのおともだち?」
マルチェロは、エイタスの爽やかな笑みに、穏やかな笑みで返しました。
「ああ、知り合いだ、昔のな。」
「確かに、もうだいぶ昔みたいに感じますね。」
エイタスは微笑んだまま、それでもマルチェロから視線を外しません。
「久々だ、積もる話もあろう。少し、外に出ないか。」
そしてマルチェロは、自分からそう言いだしました。
ああ、兄貴…子どもたちの前なら、いくらエイタスだって、いきなり斬りかかりはしないのに。
ククールは言いたいのですが、言える状況ではありませんでした。
三人は、村からは軽く視界の離れる、ゆるやかな丘の上まで来ていました。
「わあ、きれいな場所だなあ。リーザス村から、こんなところに来れるなんて、旅をしていたときは気付かなかったよ。」
確かに、花は咲き乱れ、蝶は飛び、鳥は囀る、この世の天国のようなのどかな雰囲気の場所です。
「マルチェロさんがこんなところに案内してくれるなんて、意外でした。貴方は、こんなに場所には無縁そうに思っていたから…あ、失礼でした?」
「いや、その通りだ。だが、のどかさが君をこの場所に案内した理由ではない…トロデーンの未来の女王婿陛下。」
「エイタスで結構です。」
「ではエイタス君。おそらく君の目的が、村人を巻き込まない場所を欲していると思ったのでな。」
「え?僕の目的を御存じなんですか?」
マルチェロとは別の意味で、人を惹きつけてやまない、黒い瞳で微笑みながら、エイタスは言います。
「だから、これを持ってきた。」
そう言ってマルチェロは、
するり
と、それをエイタスに示しました。
「地獄のサーベル、結局、ククールから貴方にいったんですね。ウチでは結局だれも使わなくて…いや、とてもいい剣なんですけれどね。切れ味鋭くて。」
「ほう…それは、君が腰につけたそれよりも、切れ味は良いのかな?」
さすがマルチェロ、とうにエイタスの腰につけた剣にも目を配っていたようです。
ははは
エイタスは、声をあげて笑いました。
「ええ、コレもなかなかいい剣ですよ。」
そして、ようやく笑みをおさめて
ひた
と、マルチェロの瞳を見据えました。
「試してみます?」
「…私が聖堂騎士団長で、君が私の部下だったなら…」
「なら?」
「若輩者の分際でそんな台詞を吐いた事を、
骨身にしみるまで後悔させてやったがな」
ククールは理解しました。
コレはもう、血を見ずには収まらない
と。
2008/10/7
たぶんみなさん忘れていると思いますが、この地獄のサーベルは、エイタスが昔の仲間と「アイテム分け」をした時に、ククールにくれたものです(換金性が高いから)
ああ、そんなコトはどうでもいい展開ですね。
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