More Than その二

どこぞの「王を殺せ!」の展開があまりに可哀相なので、ちょっと甘いものに逃避したくなったべにいもであります。









というわけで…いえ、もちろん奥さまは レイディらしく 全てをお隠しになろうとしたのですが、 ミーティアの超攻撃により あれよあれよという間に、ほとんど全てを吐かされてしまいました。




ゼシカは後で語ります。


アレは間違いなく、永遠の巨龍の攻撃より激しかったわ

と。




「ですが、 こんな思いはレイディに相応しくありませんっ!!」

それでも奥さまは気丈に仰いますが、それは ほんのり涙声 に、ゼシカには聞こえました。




「まあ…」

ミーティアは、おっとり…に 聞こえる 可愛らしい声で驚いて、でも続けました。


「どうして、それがレイディに相応しくありませんの?」

「え…?」

マダムには、その問いがとても意外なようでした。



「何故なら… レイディというのは、自らを制御するもので…」

「どうして、恋心を制御せねばなりませんの?」

「どうしてと…」

奥さまは返答なさろうとしましたが、お言葉に詰まられました。




ゼシカははらはらします。

ミーティアの猛攻は 激しすぎ ます。


奥さまは か弱いレイディ でいらっしゃるので、あんまり激しく攻めすぎると…




「無分別な恋に走るのは、不道徳です。」

「まあ、ちっとも無分別ではありませんわ。マダムもマルチェロさんも独身ですもの。」

「村人たちにも示しがつきません。」

「示しなんてつける必要はありませんわ。きっとみんな祝福しますもの。」



奥さまはたじたじです。

ゼシカは我が母ながら、こんなにたじたじになった奥さまの姿を見るのは、 生まれて初めて でした。




「つまりマダムは…」

ミーティアは、 にっこり笑って 言いました。


「ご自分の恋心を、『レイディ』の言葉で覆い隠していらっしゃるだけですわ。それこそ、レイディに相応しくないなさりようじゃありませんの?」

「…」




ついにマダムは、完全に立ち止まってしまわれました。


「お母さん…」

思わず慰めかけてしまうゼシカを制して、ミーティアは マダムの瞳を覗き込みます。




奥様は、その大きな緑の瞳 に、再びドキドキしてしまわれます。






「マダム、ミーティアのお話を聞いてくださいませね。」

「はい、姫君。」

「ミーティアはね、ずっとエイタスのことが好きでしたの。でも、エイタスのお嫁さんにはなれませんでした。なぜならミーティアには、別の婚約者が決まっていたからです。ミーティアは思いました。そしてエイタスにも言いました。

『エイタスがサザンビークの王子さまだったら良かったのに』

ミーティアはワガママでしたわ。でも、エイタスは怒りませんでした。そしてしばらくして…ミーティアとお父さまは、悪い道化師に魔法をかけられて 馬の姿にされてしまった のです。」


「まあ、馬にっ!!?」


「ええ。そして、お城も茨に包まれてしまいました。エイタスは幸い、呪いにはかからなくて…そしてミーティアとお父さまは、元の姿に戻るためにエイタスを連れて旅をすることになりました。ええ、最初は辛かったけれど、旅は楽しかったですわ。おかげで、ゼシカにも会えましたもの。でもね、ミーティアは不安だったのです。」

「…ええ、馬の姿に変えられてしまわれては、それは…」

「もちろん、それもありますわ。でもね、一番不安だったのはエイタスのこと。エイタスは、元に戻れるか分からないミーティアたちの為に旅をしているのです。辛いし、命もあるかどうか分からないのに。お父さまは、そんな風にエイタスを縛ってしまうのがとてもお辛そうでした。そしてミーティアは…エイタスがそこまでしてくれるのは、 お父さまが王さまで、ミーティアがお姫さまだからではないか と思って不安でなりませんでした。」


「…」


「旅の途中でね、ミーティアたちは不思議な泉を発見しましたの。飲むと、少しだけ元の姿に戻れる不思議な水。ミーティアは、その時思い切って言いました。

『エイタス、ミーティアたちの為にガマンしないで下さいね。お父さまだって、そんなことは望んではいらっしゃらないし、ミーティアも…』

そしたら、エイタスは言いました。」


ミーティアは、 にっこり笑って 言いました。


「『もし、君がお姫さまでなくても、僕は君の側にいるだろう』

って…ミーティア、嬉しくて嬉しくて…その時から、エイタスがもっと大好きになりました。」


「まあ…」


奥さまは 感極まったような表情 におなりなさいました。

なにせ、淑女であると同時に 乙女 でいらっしゃいますので。




「旅が終わって…お父さまもミーティアも、元の姿に戻れました。でも、そしたら今度は婚約者と結婚しなくてはならなくなりました。ええ、ミーティアも王族と生まれたからには、覚悟はしていました。覚悟してトロデーンを出て、覚悟して花嫁衣裳を着て。でも… ミーティアはそこで、別の覚悟を決めました。」

「姫君…」

「ここで結婚式を抜け出したら、サザンビークと戦争になるかもしれない。そうしたら、トロデーンのみんなにも迷惑がかかります。でも、でも、 ミーティアは振り絞りました。」


「姫君、それは…」


「勇気ですわっ!!」







「自分も加勢しといて何だけど、今になって冷静に判断してみると、 勇気 の一言で、両国の戦争の危機とか引き起こしちゃって良かったのかしら、と思うわ。」

一応ツッコミを入れてみたけど、 自分の世界に入りまくっているミーティア 及び 美しい愛のお話に大感激なさっている奥さま には、やっぱり届かないゼシカの言葉でした。




2008/12/11




自分の要求を相手に呑ませるのが為政者に必須の能力なら、ミーティアは 問答無用の超級為政者 ですね。彼女を未来の女王に頂くトロデーンの未来は、 相当明るい ものと思われます。
エイタスはやっぱり苦労するでしょうが。




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