More Than その三

あの禁欲的な奥さまですら「ワガママ」と言われてしまいましたが、だったら人生87%が
「もっと高く!!」
という野望で構成されているマルチェロはどう表現されてしまうんだろう…









「では一つ、ご指南下さい、マルチェロさん。」

マルチェロの 恫喝 にもちっとも怯まず、微笑みながらエイタスは言います。


「生憎だが、私は君に敗北した身だ。指南などとんでもない。」

一見、謙虚な台詞ですが、 もちろん、マルチェロは既に殺気すら放ち初めて います。


「確かに貴方には勝ったには違いないですけど、なにせ4対1でしょ?」

「何、どうせあの時の私は 暗黒神憑き だった。」

「けど、こっちも タンバリン付き だったしなあ…あんまりハンデとは言えなかったと思いますよ。」


二人とも 謙虚に譲り合っている ように聞こえますが、もちろん、ククールの周りに渦巻いているのは、 魔王と勇者の一騎打ち直前の切迫感 です。



ククールは肌がピリピリしました。




「ああ、兄貴…もう一般人になったハズなのに、 どォして役割が大魔王なんだーっ!!!!」

ククールは涙ながらに叫びますが、もちろん、二人の耳には入りません。




「エイタス君。」


ひた

マルチェロの緑の瞳が、エイタスを直視しました。


「今なら、仲間やアイテムがなくても私に勝てる自信がある…ということかな?」



ひた

エイタスの黒い瞳も、マルチェロの瞳を正面から受け止めました。


「ちょっとナマイキ言わせていただけるなら。」




ふっ


どちらともなく吐き出した、小さな吐息の音が聞こえました。






直後に、鋼のシンバルが響き渡りました。



エイタスの力量を、その一撃だけで見極めたのでしょう。

マルチェロは体格差を生かした鍔競り合いで競り勝って、先に優位に立とうとしたのですが、細身に見えるエイタスが力の勝負でまったく譲ろうとはしません。




「…いきなり乱暴に過ぎたかな?」

先に見切って、自ら間合いを開けるマルチェロです。



「ええ、マルチェロさん。それは紳士のやり方じゃないですよ?」

言葉が終わるか終わらないかと同時に、エイタスは疾風のように突き込みました。


マルチェロが外した間合いを詰めるということは、接近戦に自信があるということです。

スピード優先のその突きは、攻撃の威力で劣りましたが、エイタスは続けて攻撃を放ちます。



「火炎斬りっ!!」

炎を纏った刃が振り下ろされます。




「…おいおい、エイタス…」

ククールは、自分の 悪い 予想は、 超バッチリ的中する というあの感覚に、思わず呆然としていました。




ホントに、本気で兄貴を殺す気なのか!?

ククールは、信じたくありませんでした。





「さすがに若いな、攻撃が早い。」

マルチェロは、自ら攻撃を仕掛けずに受け手にばかり回っているように見えます。


彼の言うように、やはり エイタスのぴちぴちの若さ(パパになるとはいえ、なにせまだ10代ですから) には勝てないのでしょうか?



まあ、 もう三十路 ですからね。






エイタスの幾度目かの攻撃を避け、マルチェロはバックステップで大きく間合いを開けました。




「いつも攻撃態勢 の貴方らしくもない…」

エイタスは、温和ないつもの表情を


きゅっ

と強めて、言いました。


「逃げるんですか?」

その「か?」とほとんど同時に、 青い稲妻 がエイタスの頬を掠めます。




「隼斬りっ!!」

その声と同時に走る二本の剣線の、一本をエイタスは受けましたが、もう一本は受け損ねました。




ぶわっしゅ

青くのどかな空に、赤い血が一閃しました。




「聖堂騎士団の練習試合では…」

マルチェロは、 王者のように倣岸と 口を開きます。


「先に血を流したほうが負けという決まりだったが?」


「ふふふ…」

エイタスは回復呪文を唱えながら、 負けず嫌いの少年の挑むような目つき のまま、笑います。




「マルチェロさんてば…コレは 練習試合ではない ですよ?」




そして、すぐに構えと殺気を戻しました。




「そうか、練習試合ではない か…」

マルチェロは、 心から楽しそうに 呟くと、やはり剣を構え直しました。




「一応言っておくが、 私は大人気ないぞ?」

「ええ、マルチェロさん。それは イヤと言うほどよく分かってます。」




とんとんとん

エイタスは軽くブーツで地面を叩きました。


「だから…」

そして、剣を握りなおしました。




「もっと本気で闘いたいんですよね?」



2008/12/12




閲覧の皆様へ。
戦闘シーンの続くこの話は 純愛がウリの「アローザと元法王さま」 です。

マルチェロが好戦的なのは今更言うまでもないことですが、拙サイトのエイタス君も 男の子なので やっぱり、何だかんだいって好戦的なのです。




たたかうおとこのこ その一


アローザと元法王さま 一覧へ

inserted by FC2 system