たたかうおとこのこ その三

ブログに書いた靭帯損傷の後日談ですが、おかげで膝がのばせずに変な姿勢でひょこひょこ歩いていたら、次は左足に痛みが来てしまい、そしてしまいには全身がいたくなってしまいました。
「人体って、相互につながっているんだなあ」
と、しみじみ感じ中です…というわけで、足が痛くてかなりブルーです。

この話とは、まるで関係のないお話ですが。









「情けをかける気ではあるまいな。」

マルチェロは、不愉快さを満面に表しました。




ですが、ククールはおおはしゃぎです。

今の今、瀕死状態から復活したばかりだというのに、 マルチェロを抱きかかえんばかり にひっついて、エイタスに訴えました。




「分かってさ、エイタス!! オレと兄貴の麗しすぎる兄弟愛 に免じて、剣をひいてくれたんだろ!?そうだよな、オレは兄貴の為に身を張って剣の間に飛び込み、 兄貴はそんなオレの真意を知って、あえてオレを剣間から投げ飛ばすっ!! なんだよ、この 美しすぎてドキドキしちまうような兄弟愛はっ!!」


よほど嬉しかったのでしょう、 エイタスですらウザく感じる ほどのはしゃぎっぷりです。




「…」

当然のようにマルチェロの表には そんな愚弟への殺意がありありと窺え ます。





「まあ…僕もスッキリしたしね。」

そんなマルチェロの殺意をしっかりと感じ取ったからか、エイタスは話題を


さらり

と軽やかに流しました。




「スッキリ?」

さすがマルチェロの弟だけあって なかなか空気読まない度高い ククールですが、まんまとエイタスの思惑通り、話に乗りました。




「最近、まともに剣を振るってなくてさ。」

エイタスは微笑みます。


「戦ってる時間が一日のほとんどだったのが、ついこの間の気がするのにね。」


「ああなんだ、女王サマのムコ修行って、やっぱ大変なんだな。」

「うん、覚悟はしてたけどね。すごく大変…でも、ミーティアももっと大変だから、愚痴れないよ。おかげでうっぷん溜まっててさ。」

そしてエイタスは、マルチェロを見上げました。




「貴方相手なら、全力で発散出来ると思ったんですよ。」

そして、頭を下げました。



「でも、かなり生意気な態度で挑発しちゃいましたね、すいません。」

「ふん…鬱憤晴らしに使われるとはな。」

言葉こそ不満げですが、マルチェロの語気はそれほど不快そうではありませんでした。




「なんだよーっ!!そうならそうと、最初に言えよ!オレ、マジで兄貴が死ぬか、お前が死ぬかだと思って寿命縮みまくったじゃねーか。」

ククールはようやく


ほっ

としたようにいいます。



「だって、マルチェロさんがおとなしく僕の鬱憤晴らしの相手になってくれると思わなかったから。」

その言葉に、マルチェロは苦笑します。


「愚弟より年下とは思えないほど、出来た人間だと評価していたのだがな。」

「だって、僕はまだ十代ですよ。」

「ったく人騒がせな。スッキリしたかったら、 新婚 なんだから ベッドの上でガッツりと、姫さん相手にスッキりすりゃ…」










じゅじゅう…













毎度おなじみ黒焦げククール が転がりました。


これが、 灼熱の炎によるもの なのか、はたまた 正義の雷によるもの なのかは、 深く詮索するのはやめておきましょうねっ?









「特にストレスが溜まるのがね…」

エイタスが、 すぐ傍に転がる黒コゲた物体 に気づいてすらいないような微笑で言います。




「命令すること なんですよ。」


マルチェロは、そのエイタスの言葉に、不思議そうな面持ちになります。




「命令されるのがストレスになるのは分かるが。」

暗黒神の精神支配にも 命令されるのは大嫌い の一言で乗り切ったマルチェロが言います。



「そりゃ マルチェロさんの98%は支配者気質で出来てる でしょうけど、普通の人はなかなかストレス溜まりますよ?特に僕、トロデーンではじゃがいもの皮むきからスタートした人ですから。頭下げる方がいっそ楽ですよ。」

マルチェロは 他人に頭を下げることが楽など信じられん という面持ちで、答えます。


「だが、君はあの旅でのリーダーだろう?リーダーとは、人に命令せねば成り立つまい。」

「ウチのパーティーは、そんな構造じゃなかったんですよ。みんな、けっこう自己判断してて…だから僕の役割は、リーダーというより… お世話係かな?みんな、ものすごく手がかかったから。」




ちら

エイタスの視線が、 すぐ傍に転がる黒コゲた物体 に向きましたが、一瞬で戻りました。




「信じられん。この世には、 尊い血が流れている とかいうたわごとだけで、能力もないのに人に命令し、人を支配したがる 愚物ばかりがはびこっている というのに。」


「マルチェロさん、それって 褒められていると思っていい んですか?」

エイタスの問いに、マルチェロは答えました。


「ああ、褒めている。 君は有能かつ謙虚な、立派な青年だ。 やはり 尊い血 なんぞという代物は、むしろ有害に…」

「ねえマルチェロさん。」

「なんだね、エイタス君。」

「一つ聞いていいですか?」

「なんだ?」

「僕はトロデーンではじゃがいもの皮むきから始まっているんですが…」

「ん?」

「でも、

『実は王子さまなんです』

って言ったら、どう思いますか?」




2009/1/16




いきなり爆弾発言です。
ちなみにこのシリーズ、マルチェロは ククール以外には 誰に対してもかなり寛大だと思いませんか?




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