貴種流離 その二

でも、裏ダンジョンまで見ないと分からない「ひっそり貴種流離設定」は、ちょっとズルいとやっぱり思います。
だから「どこの馬の骨とも知れない青年が、結婚式会場からやんごとないお姫さまをひっさらって行く」通常EDは大好きです。









「サザンビークの、エルトリオ王子か?」

さすがマルチェロ、一瞬でそれが誰のことかを見破りました。

エイタスは頷きます。


「現サザンビーク国王クラビウスには、同じく嫡出の兄がいた。だが、将来を嘱望された王子は、なぜか突如失踪し、未だにその行方は不明だ。」

「さすがマルチェロさん、各国の情勢には通じていますね。ではエルトリオ王子はなぜ失踪したと言われるか、ご存知ですか?」

「様々な憶測が乱れ飛んだと言うがな。私は 自らの王位継承の最大の障害となる兄を、失踪に見せかけてクラビウスが謀殺した のだと思っているが?」

「…あなたにかかると、 兄弟の情もなにもかも、へったくれもないですね。」

「何を言うか、 自らの障害とは、自ら葬り去るために存在するのだ。 だいたい、クラビウスというあの男。サザンビークでは名君なんぞと言われているが、 なかなか食えん男 だぞ?トロデーンの外交政策上、あの男には気をつけ給え。」

「後学の参考にいたします。」


エイタスは、 マルチェロの思考は、常に殺伐とした方向に向く という事実を 改めて、深く心に刻み込み ました。




「えっと…何の話でしたっけ?そうそう、エルトリオ王子の話でしたね。まあ確かにそんな説が出たことも間違いないみたいですが、事実は違うんです。エルトリオ王子は、僕の母ウィニアを追って、遥か竜神の里まで行ったのです。いや、正しく言うと、行こうとしました。でも、あと一歩のところで力尽きてしまったのです。」

「…」

「ウィニアは嘆きました。そして、エルトリオ王子との子を産み落とすとすぐに、後を追うように亡くなってしまったのです。残されたのは、サザンビーク王家の血と、竜神族の血をどちらも受け継ぐ赤ん坊一人…あなたが竜神族の人間なら、この子をどうします?」

マルチェロはちょっと考えて、



「私なら闇から闇に葬るな。」




さくっ

と答えました。




「すいません、 一応ソレ、僕のことなんですけど。」

エイタスがツッコミます。


「…人間と恋仲になることすら許されん種族なのだろう?人との間の子が存在することなど、更に許されんはずだ。しかも、両親はどちらも悲劇的な死を遂げられている。 ならば成長した後、自らの種族に仇為す可能性が高かろう。」


そしてマルチェロは、 哀しげに微笑みます。




「私のように な。ならば、先に殺してしまったほうが良い。後顧の憂いを絶てる。」


「…」

エイタスも困った表情になりましたが、 このままでは話がまったく進まないので 話を続けることにしました。






「幸い… マルチェロさんほど種族の維持だけを第一に考える人たちばかりではなかった ので、何年もの侃々諤々の議論の末…」

「そんな議論に何年もかける輩の気が知れん。竜神族とはそんなに気と寿命の長い種族なのか?」

「いつも即断即決が良いとは限らないんですよ? …末…子どもの全ての記憶を呪いで封じて、父親の俗する人間界に放り出すことにしたんです。」

「…子どもをか? 一思いに殺してしまうより、よっぽど残忍な仕打ち だろうが。」

「…そうですね。だからその時にウィニアの父が…つまり僕の祖父が僕と一緒に行くことを申し出たんです。竜神族の長老たちはそんな祖父にとても厳しい条件をつけました。まずは、 竜神族の姿をとってはならない。 そしてもうひとつは 人間の世界では、決して祖父だと名乗ってはならない。 祖父はどちらの条件をも呑みました…結果的に母と、そして父を死なせてしまったことが、とても辛かったからです。」


いつの間にか再び顔を出したトーポが、やはり哀しそうな顔をしました。




「全ての記憶を封じられた僕は、気づいたら森の中に立っていました。そして、僕のすぐ傍には…」

「君の祖父どのが鼠の姿をとって、か。」

「ええ、でもそれだけで随分、心慰められましたよ。それに…僕の一人ぼっちは、すぐに終わりましたから… ミーティアが僕を見つけてくれたんです。」




エイタスは とても幸せそうな表情 で言いました。




「僕は本当に途方にくれていました。だって、気づいたら森の中で、しかも自分が誰だかも、まったく分からないんです。そんな時、彼女は来ました。そして僕を見つけると、最初ちょっと僕の姿を眺め回して僕のことを聞きました。そして 天使のような笑顔で こう言ったんです。

『ねえ、ミーティアのお友だちになってくださいませんこと?』」

「…えらく唐突な申し出だな。」

「それは僕も思いました。だから、会ってすぐに友だちになんてなれるものかと聞き返したんです。そしたらミーティアは答えましたよ。

『だいじょうぶですわ。ミーティア、すごく自信がありますものっ!!』」

と。」


「…それはまた… えらく自信家かつ、強引でいらっしゃる な。ミーティア姫のお姿は直接は拝見したことはないが、ククールの描いた絵姿を見る限りでは、 たおやかで楚々とした、風にも耐えぬばかりの優美な姫君 なのだが。」


「いや、事実そうなんですよ… 見た目は。」

エイタスはそこで なにか続けたさそうな顔 をしましたが、やめました。




「まあともかく、 そこまで自信があるなら と妙に納得した僕が頷くと、彼女はさっそく手を引いて僕をトロデーンのお城まで連れて行きました。そこでいきなり

『おともだちのエイタスですわ。』

とトロデ王に紹介され、そして僕はお城に雇ってもらうことになったんです。」

「一つ…聞いていいかね?」

「はい、どうぞ。」

「君は呪いで”全ての記憶を封じられた”と言ったね?」

「はい、言いました。」

「ということは、君は自らの名前も忘れていたのではないのかね?」

「ええ、忘れてましたよ。」

「では 君のその『エイタス』という名前は、どこから出てきたのかな?」

「どこもなにも… ミーティアがその場で付けたんですよ。

『だってエイタスって感じなんですもの』


って。ちなみに、トーポの名前も同じく

『トーポちゃんって感じですわ。』

と、一瞬で決まりました。」


「これはこれは…」

マルチェロは思わず 感心したように 言いました。




「なんとも傍若無人な姫君でいらっしゃる。」

「…」




マルチェロさんに言われちゃおしまいだよな

エイタスはひっそりと思いました。




2009/1/18




色占い「緑の瞳をした人は傍若無人」

ちなみに「黒髪は割りと勇者」だそうです。




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