貴種流離 その三
通常EDでは
ミーティアの押しの強さにエイタスが駆け落ちを強制された
ように見えないこともないですが、いやきっと、
そこには愛がありまくったんですよねっ!?
と思って、今回のお話を書きました。
「…まあともかく。トロデーンのお城にまずは下働きとして雇ってもらった僕は、ミーティアの遊び相手も兼任でした。ミーティアは母親を失ったばかりだったんです。トロデ王はミーティアにとても優しいけれど、でも、ああ見えて国王ですからね。いつもは明るかったけれど、やっぱりとても寂しかったんですよ。」
「…だろうな。」
「ほんとうに…いつも一緒にいた気がします。お姫さまなのによく台所に忍び込んでは、こっそりつまみ食いをしたりね。そんな時でも彼女は
天使みたいににっこりわらって
いろいろごまかしちゃうんです。ヒドいひとでしょ?」
エイタスも
にっこり笑い
ました。
「そして僕はもう少し大きくなって…いつまでもじゃがいもの皮むきじゃいられないから、何かの仕事を選んで修行することになって…僕は兵士という道を選びました。
一番、彼女の役に立てる仕事だと思ったから
ですよ。まあ、
『エイタス、今日の料理もとっても美味しいですわ。』
と彼女に言ってもらえる料理人とかも良かったんですけどね。」
エイタスはほんのり笑いました。
「また困ったことにトロデ王も身びいきで、下っ端とはいえ近衛兵にしてくれて…幸せでした。」
「だがな、ミーティア姫は生れ落ちるとすぐに、
あのチャゴス王子
との婚約が決まっていたはずだろう?君が姫をどう思っても…」
「そうですね。
僕が彼女に出来る最後の任務は、サザンビークの王太子妃になる花嫁姿の彼女を護衛すること
になると分かってはいたんです。もちろん、彼女も。サザンビークからはチャゴス王子の肖像画も届いていましたから。ええ、
いっそまばゆいばかりに美化されまくった肖像画
でしたけど。お城の人たちはそんな
チャゴス王子の麗しい肖像画
に幻惑されてミーティアに、すばらしい王子さまで幸せですね、と言っていましたけれど。」
「チャゴス王子の肖像画が麗しい?
どこをどう美化しても麗しくなるとは思えん
が。」
「そうですね。
美化
と言ったら語弊がありますよね。では
全てにおいて偽りである肖像画
と言い直しましょう。まあ、ミーティアはそれを見てもちっとも嬉しそうじゃありませんでした。
『ミーティアのおばあさまはね、このチャゴス王子のおじいさまと恋をなさって…でも、二つの国は仲が悪くて、結局、結婚出来なくていらっしゃったの。だから、ミーティアがチャゴス王子と結婚したら、女神さまのお膝元のおばあさまも、きっと喜んでくださるわ。』
でもやっぱり
とても悲しそうな顔で
僕を見るんです…僕は立場上、何も言えませんでしたけど。」
「身分違いの恋など悲恋で終わるものだ。」
マルチェロはきっぱりと言いました。でも、こう付け加えました。
「だが、
そこに恋心が存在するだけ、何万倍もマシ
だろうがな。」
と、切なそうな顔で付け加えました。
「…ドルマゲスの呪いであんなことになってしまって…そりゃ旅は辛かったですけど、でも僕は正直、
ちょっとホッとして
いたんです。だって、ミーティアが馬の姿で、トロデーンがあのままなら、ミーティアはチャゴス王子と結婚しなくて済むわけでしょう?」
「確かに。」
「しかも旅の途中、サザンビークでチャゴス王子の
真の姿
を見てしまいましたからね。何も言いませんでしたが、
こいつにだけは絶対にミーティアを渡したくないと心から思いました。
そして…夢の中でのミーティアの言葉から、彼女もそう思ってくれていることにホッとしました。そして…まあいろいろあって、僕は竜神族の里へとたどり着き、
サザンビークのエルトリオ王子の息子だという出生の秘密
を知ったのです。その時、僕は思い出しました。昔、まだ僕も彼女もほんの子どもだった時に、彼女が言った言葉を。
『エイタスがサザンビークの王子さまだったら良かったのに』
僕は本当に、サザンビークの血を引いていたんです…」
マルチェロは言います。
「君の言うことを信じよう。君はこんなつまらん嘘を言う人間ではないだろうからな。だが、”サザンビークの王子”と”サザンビークの血を引く”は意味が同じではない。」
「そうです、証明と言ってもこのアルゴンリングと、そして、僕はどうやら父にそっくりであるという不確かな証拠だけ…そうこうしているうちに、僕たちは暗黒神を倒し、ミーティアとトロデ王とトロデーンの呪いは解け…そして近衛隊長になった僕は、かねてからの覚悟どおり、彼女をチャゴス王子の花嫁としてサヴェッラまで送っていく任務を仰せつかった…いや、自分で引き受けたんです。サヴェッラに着いて遭遇したチャゴス王子は
やっぱり期待を裏切らないロクデナシのまんま
でした。憤懣やるかたないみんなは僕に言いました。
『そのアルゴンリングを見せて来い』
と。僕もその気になって、アルゴンリングを持ってクラビウス王の所まで行ったんです…」
「それで?」
「クラビウス王は、また少し驚いたような表情になりました。ええ、初対面の時もとても驚かれたんです。多分、僕が父にそっくりだったからでしょう。その時僕は
イケるっ!!
と直感しました。」
「悪くない判断だ…だが
なら何故、君はそうせずにサヴェッラの大聖堂から花嫁を連れて逃亡するような軽挙に出たのかね?
あんなことをすれば、サザンビークの面目は丸つぶれだ。
その国辱がトロデーンへの敵意に、そして開戦へもつながるなどとは、容易に想像出来るだろう?」
マルチェロの言葉に、エイタスは静かな口調で答えました。
「ねえ、マルチェロさん。僕はミーティアに言ったんです。旅の途中、彼女が言った言葉に対して。」
「どんな会話だ?」
「ミーティアは言いました。僕がドルマゲスを倒す旅をするのは、トロデ王が僕の主君で、
そして彼女がお姫様だからではないか
って。そのために我慢しているなら、そんなことはしないで欲しいと。だから僕は答えました。
『もし、君がお姫さまでなくても、僕は君の側にいるだろう』」
エイタスは問います。
「なかなかクサい台詞でしょう?」
「まったくだ。
私なら死んでも言えん。」
「でも、心からの僕の真実なんです。」
エイタスは
小さな少年のようにはにかむ
と、続けました。
「僕がミーティアを好きになったのは、彼女がお姫さまだからじゃないんです。そりゃ、彼女はお姫さまですけど、お姫さまとして育ってきてますけど、
でも、”お姫様だから”
好きなわけじゃないんですよ。そして彼女は、
森の中で一人ぼっちの何にも覚えてない僕
を
友だち
と言ってくれたんです。そんな僕だから…
彼女を手に入れるなら、サザンビークの血がどうこうという理由でなく、僕エイタスとして、そうしたかったんですっ!!」
マルチェロはいつになく熱く語るエイタスに、
少し驚いたように
見えました。
まあ、なんと珍しい。
「…だから僕は、アルコンリングをクラビウス王には見せませんでした…」
2009/1/21
いつになくアツいエイタスくんです。
まあ、
恋する男の子
ですからね。
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