亡国☆フランチャイズ その一
林檎ちゃんっぽいタイトルを目指しただけで、タイトル後半に特に意味はありません。
しかし、チャゴスが王になった時のことを考えるに…クラビウス王の心労いかばかりか、お察しいたします。
さて、アルバート邸に入ること数時間で、邸中の人たちからの敵意と憎悪を受けることに成功したチャゴスですが、もちろん彼の破壊力はそんなものではおさまりません。
まず、彼の外見は
お亡くなりになった旦那さまといい、アローザ奥さまといい、サーベルト坊っちゃんといい、ゼシカお嬢さまといい、高貴な方は美男美女でいらっしゃるはず
という、村人たちの
素朴な期待
を、一瞬で打ち砕いてしまいました。
まあ、それはチャゴスのせいではありません
…が
その裏切られた感は分からないでもない
ですけれどね。
やっぱり、王子さまお姫さまには美形でいてほしい
という、
ほとんど信仰に近い思い
というものは、一般庶民にこそ強いものでしょうから。
しかし、素朴なれども善良な村人たちは、外見のイマイチさ(もっとも、彼の外見は「イマイチ」くらいでは済まないかもしれませんが)程度ならすぐに慣れたでしょう。
一番の問題は、外見よりも彼の中身でありました。
チャゴス王子は(よせばいいのに)村の中に、お付きを連れて朝の散歩(といっても、早起きに村人たちからすれば十分昼な時間)に繰り出します。
「うわっ、クサい。なんだこのクサさは。」
そして叫びます。
「なんだ?動物の臭いか?なんて生臭いんだ。なんでこんなところにフンが転がってるんだ、不潔なっ!!」
そりゃそうでしょう。
ここは村ですから。
動物だってのびやかに歩いてますから、そりゃフンだって転がりますとも。
「ったく泥臭い。動物だけじゃなく、人間まで臭いな。さすがド田舎だ。我がサザンビークでは想像もつかないなっ。」
当たり前ですが、サザンビークの王城の中には畑はありませんので、土のにおいもほとんどしません。
ですが、もちろん一歩お城の外を出れば、お百姓たちが土を耕しているわけですので、土のにおいだってしましょう。
まったく、どんな育ち方したんでしょうね。親の顔が見てみたいものです…知ってますけど。
「食事は不味いし、邸は粗末だし、女だってブスばっかしだ。なんでこんなトコに来たんだろう。」
…と面と向かって言われたら、
どんなに自覚のある謙虚なブス
だって
「てめェに言われたくねぇんだよ、そのツラ、縦か横に押しツブすぞ、コラっ!!」
と思うでしょう。
と…まあこんな言葉を皮切りに、あらん限りのリーザス村と村人たちとアルバート邸を罵ったチャゴスは、朝の散歩の数十分で、邸どころか
村中のみんなからの反感と敵意と憎悪を受けることに大成功
しました。
いくら憎まれっ子とはいえ、なかなか得がたい才能ではあります。
ほとんどの人間には、手にいれたくもない才能でしょうけれど。
さて、こんな生物が村に侵入してきたからには、健全な判断力を持った人間ならこれを
異物
と判断して、
除去したくなる
のが当然でしょう。
もちろん、チャゴスを目の前にした村人たちの五人に三人は、クワを握る手に殺意が籠りましたし、残りの二人は、二十センチほどカマを振り上げたようです。
チャゴスにとっては幸いなことに、鈍感な彼は気付きもしませんでしたけれど。
彼らが踏みとどまったのは、もちろんチャゴスに容赦したからではありません。
悲劇のヒロインのように寂しげな微笑みを浮かべた奥さま
が、チャゴスの傍にいたからです。
村人たちはチャゴスに抱いた殺意を
殉教直前の聖女ごとき奥さまの悲しげな微笑み
を見るに、自分の心も
全ての罪を許せるほどの寛大さを手に入れたような気がして
なんとか押しとどめることができるのでした。
「アローザ奥さまがあれほどのお辛い顔をなさってるんだ。」
「きっとよんどころない事情がおありになるだ。」
「んだんだ、オラたちも我慢するだよ。」
「そうそう、
奥さまの為
に。」
村人たちは、
厳しくも麗しい奥さま
を、
ほとんど信仰のごとく崇拝
しているようです。
すごいですね、本当に。
「…サーベルト兄さんはほんっとに優しい人だったけど…」
ゼシカは呟きます。
「今、生きてこの光景を見ていたら、きっと兄さんは
チャゴスを斬り倒した
と思うわ。」
そういう彼女も、やる方ないうっぷんを
自分のMPをどう使えば、チャゴスに最大ダメージを与えられるか、そして、最大ダメージを食らったチャゴスはどうなるかを
シミュレートして、なんとか堪えていたのでした。
2009/7/10
チャゴスのHPは20000、しかもはぐれメタル耐性持ちなので、実はLv99ゼシカでもダメージを与えるのはけっこう困難です。
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