乙女の誇り その二

前回言っていた神戸の ダンスフェスティバル を見に行って来ました。ウチの学校が出れなかったのはとても残念でしたが、面白かったです。
そして…全国レベル高っ!!
テーマ性が高く、無言の音楽劇みたいな作品が多かったのが印象的でした…ウチの学校が出れなかったのは、ソレ?









ピシイイイイっ

ククールは、小さいながらも鋭い殺気を感じました。

もちろん、こんな殺気を発する人間なんて、この世に一人しか存在しません。


(頼むから姿だきゃ現さないでくれようぅ…)

ククールはも思わず手で聖印を切りました。




「捨て子だか、売られたんだか知らないが、どうせそんなことをされるのは身分の低いガキどもだろう?身分の低い者たちというのは、高貴な者に奉仕するため生きているのだ。」

そしてチャゴスは、 丸めたハナクソ を、


ピン

と、 恐れ多くも奥さまのお召し物へ飛ばし 、続けました。



「そんなガキどもに、夢だの希望だのといった高尚なものなど不要だ。理解できるはずがない。ムダだっ!!」

チャゴスは、はしばみ色の瞳を見開かれたまま、おそらくは怒りのあまり声も出ない奥さまを余所目に、背後を振り返ります。



「おい、ボクのこの素晴らしい 孤児院の理念の改正案 をきちんと書いておけよ。ムダな金を遣って無駄な努力をしているこの孤児院を、より立派な場所にしてやるための提案だ。うん、まさにレポートにふさわしい。」

小役人根性丸出しのサザンビークのお付きたちは、何も言わずにチャゴスの言葉を逐一書き留めます。




「ま、読み書きに計算術のような実用技能を教えてやることは悪くないな。百姓だけじゃなくて、商人や職人ってのもこの世には必要だ。ただ、 何のためにこのガキどもが存在しているか ということはきちんと教えてやる必要がある。」

チャゴスは、居並んだ子どもたちを見回します。

先ほどから、 なんてムカつく野郎だろう と思いながら事態を見ている子どもたちですが、何せこの孤児院で 優しさと忍耐と礼儀作法の必要性 を教えてもらっている彼らの事、そうと口には出しません。

いえ、なにせ子どもの事、顔には出ていたのですが、チャゴスは鈍いので気付かなかったようです。


「おい、そこのガキ。答えてみろ。」

「…」

その子は何も言いませんでした。

本当はものすごく何か反論したかったのでしょうが、大人たちに反抗しないよう言い含められていたのでしなかったのでしょう。


「フン、バカなガキだ。そんな当然の理屈も知らないと見える。」

そしてチャゴスは、そのブクブクしたチビな体で精一杯エラそうにふんぞり返ってみせると、


「高貴な血を持つ者に奉仕するためなんだよ、たとえばサザンビークの未来の国王たるボクみたいな存在になっ!!!」




「いい加減にしろっ!!この…チャゴス王子っ!!」

いきなり上がった声に、チャゴスはその方向を向きました。


「おれの名はトディー。おれだよ、今のを言ったのはおれだ。」




みなさま、覚えておいででしょうか?

かつてマルチェロ相手にも堂々と論戦を張った、あの勇気と知恵有るいじめっ子の名を。

そう、彼です。


あれ以来、少し反省したらしい彼は、相変わらずガキ大将ながらも、節度というものを身につけ(チャゴスを「ブタ王子」と呼ぶのを我慢したのはそのもっとも大きな表れです)、みんなのリーダー格となりました。

リーザス村の子どもたちとも、ポルクとマルクを通じて交流をはかるというなかなかの大物っぷりを発揮し、みんなに頼られる存在となっていたのです。

そして今回も、孤児院の子どもがこんなムカつく生物に「バカ」呼ばわりされたことに義憤を感じ、名乗りを上げたのでした。




「いいか、チャゴス王子。誰も…その後ろにひっついてる、サザンビークのやつらもだ、誰もお前なんかエラいとも何とも思ってねえよ。ただお前がサザンビークの王子だから従ってるだけさ。」

利口な彼は、いきなり チャゴスの一番痛いところ ドンピシャで突いてしまいました。

ああ、子どもというのは怖いものです。

怖いものですが…一同は、もちろんサザンビークの一同も含めてです、 心中盛大な拍手を少年に贈り ました。




「なんだとっ!!ボクはサザンビークの王子なんだぞっ!?」

「たまたまそこに生まれただけじゃねーかっ!!」

「うるさいっ!!高貴な者というのは、女神に選ばれたから偉いんだっ!!」

「選ばれた奴なら、選ばれた奴らしい様子見せてみろよっ!!お前の、生まれと身分以外のどこがおれたちより優れてるってんだっ!?」




チャゴスは絶句しました。

なんとも情けないことに、反論出来なかった のです。




「アルバート夫人っ!!」

「は…はい?」

事態の成り行きにあっけにとられていた奥さまにチャゴスは、


「この無礼なガキの口のききようは、この孤児院の教育の結果なのか!?」

と詰問しました。

なんとも情けないことに、子どもに勝てなかった腹いせを奥さまにしてやろうと思った のです。




「やい、このヒキョーモンっ!!奥さまはカンケーねーだろっ!!」

トディー少年はなんとも立派かつ正しい反論をしますが、チャゴスが聞くはずもありません。




「…トディー、下がっていなさい。」

「奥さま…」

「下がっていなさいっ!」

奥さまは、 凛としたお声 でそうおっしゃると、



「孤児院の子どもたちの躾の不足は、全てこのアローザの不明にございます。王太子殿下、どうぞご容赦を。」

と、低くひくーく謝罪なさいました。




「……」

誰も言葉を発しはしませんでしたが、子どもたちの瞳も含め、 チャゴスすら感じられる無言の非難 があたりを支配します。




「フンっ!!本当に不愉快な孤児院だっ!!もうこんなトコにはいたくない。見学は終わりだ、帰るぞっ!!」

「チャ、チャゴス王子。レポートは…」

「そんなもの、お前らがテキトーに完成させとけっ!!」

最後までワガママ勝手な台詞を吐き、チャゴスは孤児院をさりました。




「奥さまごめんなさいっ!!」

それを見るなり、トディー少年は大声で泣き出しました。


「お、おれ…おれのせいで…奥さまに あんなブタ野郎 に謝らせちゃって…ほんとうに…おれ…」

奥さまは、 聖女のようにほほ笑まれ ました。


「気にしてはいけません。これはアルバート家の家長として当然の行いです。」

「でも…」

「…トディー、あなたは孤児院の子どもたちの名誉と誇りを守った のです。謝ってはいけません。」


そして奥さまは、孤児院の子どもたちに語りました。




「いいですか、みなさん。あなたたちは確かに不幸に遭いました…でも、それを恥じる事などありません。あなたたちが正当に努力し、自らの名誉と誇りを大事にする限り、 あなたたちには無限の未来と希望があります。胸を張って生きなさい。」

「おくさまーっ!!!!!」

アローザ奥さまはたちまち、殺到する子供たちにもみくちゃにされてしまいました。




「お母さん… カッコいい。」

思わずゼシカも涙ぐみますが、ククールは 青い殺気が増大したまま、いつの間にか消えている ことに、多大なる不安を覚えるのでした。






2009/8/6




最初に想定していた以上にチャゴスがイヤな奴になってる…




乙女の誇り その三へ


アローザと元法王さま 一覧へ

inserted by FC2 system