さぁてそんな
悪い事限定で良く当たるククール予報
など知りもしないチャゴスは、
ものすごぉく憎たらしい顔(思わず踏みつけたくなります)
で続けます。
「何だ?ボクの言う事がなにか間違ってるか?だいたいだなぁ、塔の見回りなんて肉体労働は、高貴なものの仕事じゃないんだよ。エライ人間というのは、後ろでふんぞりかえってるのが仕事なんだ。なのに、領主の一人息子が見回りで命を落とすなんて…
ぶっちゃけバカ極まりない
な」
ふるふるふるふるふる
ゼシカが怒りで身を震わせます。
「サーベルト兄さんを…あたしの大事なサーベルト兄さんを…
バカですってっ!?」
「バカでなきゃ阿呆だな。」
ゼシカがメラゾーマの印を結び始めたのを見て、ククールはあわてて割って入ります。
「サーベルトは立派な子ですっ!」
ですが、先に叫んだのはアローザ奥さまでした。
「…お母さん…」
「サーベルトは立派な子です、あの子は…あの子は心優しくて、この村が大好きで…だから、自分でこの村の見回りまで買って出て…」
奥さまは、必死の形相です。
「あの子は…あの子は本当に…」
「奥さま…」
奥さまの声が震えていきます。
「なぁに泣いてんだ、“オバサン”」
とうとうチャゴスは
魔王をも恐れぬ言葉
を吐きだしました。
「…アンタさぁ、ちょーっと色々と考えた方がいいと思いますよ。」
ククールは、口を開きました。
「はぁっ!?誰に口きいてるんだ?」
チャゴスは
生意気にもスゴ
みます。
「ほらさぁ、セケンテーってモンがあるから、そりゃこっちも
アンタがお客さんだと思うから
気ぃくらい遣いますよ?でもさー、迎える方にも礼儀があるように、そっちだってそれなりの礼儀とか尽くして欲しいんだよねー?別にオレら、アンタの家来じゃないんだから。」
「ボクはサザンビークの王太子だぞ?」
「別にウチ、サザンビークの領国とかじゃねーし。オレらがアンタに気を遣うのは
アンタの王族という身分
に対してだけであって、
アンタそのものじゃねーんスよ、チャゴス王子?」
「お前ナマイキだぞっ!!聖堂騎士崩れのくせしてっ!!」
ククールはちょっと観念しました。
そりゃ事を荒立てたくないのはヤマヤマですが、彼だって一応聖堂騎士だったのです。
女性への侮辱は看過できません。
そこでチャゴスは何かを思い出したのか、
ニタニタと気持ち悪く笑い出し
ました。
「そうだ…お前はあの“背神者”の弟だったな…」
「…」
「サザンビークから兵を連れて来て、ここらへん一帯を捜索してやる。知ってるだろ?法王庁があの“背神者”を密かに捜索している事を…」
ククールは内心で「あーあ」とは思いました。
「ソレ、オレになんかカンケーあるんスか?捜されたって構いませんよ、いないモン捜したって出てきやしないんスから。」
「なにか証拠が出てきたらどーなるのかなー?
なにせあの一行のうち二人がいる村だ。
トーゼン、トロデーンもそれに関わってると思われるだろう?
父上は女神への崇拝厚い方だから、そーれは看過なさらないだろう。
知らないぞー、どうなっても。」
証拠ごとこいつを滅殺してえっ!!
ククールは心底思いました。
「捜したきゃ捜せよ」と大見えは切ったものの、捜されたらいろいろと困るものがてでくることに違いはないのです。
そして、
なにせこのバカチャゴスのことですから
本気で、他領にサザンビーク兵を入れかねません。
フツーならクラビウス王が止めるでしょうが、
コトは法王庁に関わっています
ので、最悪、それは認められかねないわけです。
「…」
「土下座して謝罪しろっ!!そうしたら許してやるっ!!」
「…」
愛する兄の為だ
と、ククールがちょっと観念しかけた時です。
「責任者はわたくしです。」
いまだに震える声ながら、奥さまはしっかりとした声でおっしゃいました。
「奥さま…止めてくださいよ。オレ、未来のムコですから…自分の不始末くらい自分でつけ…」
「お黙りなさいっ!!家長はわたくしです。責任はわたくしが…」
「ほんっとにさっきからウザいババアだ。」
そこでチャゴスは何か思いついたようです。
「どっかで聞いた話だが、あの“背神者”は女を誑かすのが上手だったとか…」
本当に、王族の情報網ってすごいですね。
「アレか?あの“背神者”に誑かされたのかっ!?このババアはその情婦か!?それでみんなして庇ってるとかいうオチなのかっ!?」
はい、なかなか素晴らしい察知ですね。
ええ、とても正しいですよ、その推察。
チャゴスにしては頑張りました。
みしみしみしみしみし
地震のような殺気が走りました。
チャゴスはもちろん、ゼシカとククールも思わずすくみあがってしまうようなとてつもない殺気が走った後、
奥さまは、
優しい手触りが、目じりから頬を拭うのを感じ
ました。
ええ、すくみあがっている人間にはそんなことが出来る筈もありません。
2009/8/10
「貴女に涙は似合わない」
と、つまりはそういうシチュです。
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