臨界点 その三
ヒマ人らしくレンタル屋さんを愛用しはじめました。
というわけで、DQ8のオーケストラ版借りて、オペラ座の怪人のサントラ借りて、ペル4のサントラ借りて、MDに編集して、昔のMDを整理して…ほんと、ヒマな時にすることばっかしてます。
「ま…」
奥さまは口にしかけて、お止めになります。
口にしてはまずかろう…そう思われたのです。
「御気遣いは無用です、マダム。」
艶のあるバリトンがそう語ります。
「誰だっ!?」
真っ先に立ち直った(チャゴスの肝がククールやゼシカに勝るというわけではありません。その殺気の元が何か知らないからこそ出来たことです)チャゴスが、声の方向に松明を向けました。
きっらーん
輝かしいデコ
続いて、
燃え上がるような緑の瞳
が闇に浮かび上がりました。
「お…お前は…
そのデコっ!!」
やはりチャゴスにも、まずは
輝かしいデコ
が目に入ったようです。
「そして
その悪魔のような緑の目っ!!」
チャゴスは、殺気に押されて少し震えつつも、
「背神者マルチェロだなっ!?」
と、正確にその正体を暴きました。
「如何にも。」
マルチェロは冷静です。
そして、冷静に闇に沈んだその姿がまた、
ひっじょーに大魔王臭い
のでした。
「どうやら私をお探しのようなのでな、こうして姿を現したということだ。御初に御目にかかる、サザンビーク王太子のチャゴス王子。」
こここ…怖ぇぇぇぇぇー
ククールはすくみあがりながら思いました。
だってさっきからマルチェロは、冷静な上に冷静なのですもの。
そりゃなんでかといったら…ですよねー?
「ふ…フハハハハハ、ボクの計略にかかってまんまと姿を現したなっ!!」
チャゴスは笑い出しました。
「背教者め、貴様がこの村にいるなんてことはボクにはとうにお見通しだったんだっ!!」
まあ、そういうことにしておいてあげましょう。
残り少ない彼の命運に免じて。
「これが、トロデーンが法王庁に背信した証拠になるっ!!これで、サザンビークがトロデーンに兵を起こしても、誰も文句は言うまいっ!!!見てろよ、ミーティアっ!!エイタスっ!!そしてトロデ王っ!!お前らのトロデーンを、今度は城ごと破壊しつくしてやるっ!!!」
そこまで一息に叫んだところで、チャゴスは
みょーに生温かい視線
に気付きました。
普通なら抗議したり、弁明を試みたりしそうなシチュエーションですのに、奥さまはともかく、ククールとゼシカの視線は、
屠殺場に曳かれていくブタでも見るような同情に満ちた視線
なのです。
チャゴスは、妙に機械的に首を戻し、無表情にこちらを見つめるマルチェロを見ました。
松明で照らされて、嫌に陰影をましたその顔を見て、ようやく彼は
今この場には彼の味方は誰もいない
ことに気付いたのです。
「ようやく御気付きのようですな、チャゴス王子。」
いっそ穏やかなのがとおっても怖いマルチェロの台詞です。
「は、はは…バカを言うなよっ!!ボクに何か手だしをしてみろっ!!サザンビークの父上が黙ってはいない…」
「マダム…貴女の御言いつけに背いて、出て来てしまったことを御許しください。」
「…」
「兄貴。分かってると思うけど、殺しちまったら…」
「フン、貴様に言われるまでも無い。殺すつもりはおろか、肉体に傷一つつけるつもりはない。」
マルチェロの言葉にすこし勇気づけられたらしいチャゴスは、
「ふは、ふはは…そうだ、いい心がけだ。背神者のクセになかなか殊勝じゃないか。大人しく縛につけば法王庁も…」
と言いましたが、
「殺さずとも、舌を切り取らずとも、口を塞ぐ術を、私が心得ぬとでも思ったか?」
もちろん、マルチェロの意図は明白です。
「はは、ははははは…」
じょじょじょー
ひどく情けない音と、生臭い臭気が広がりました。
「ではマダム、
貴女の御客人をしばし拝借仕ります。
なあに、サザンビークの者どもが騒ぎださぬうちに御返しします。
ご安心を。」
「え…ええ…」
「びぎゅうああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ…」
リーザス村の夜に、そんな声が響きました。
村人たちはその声がチャゴス王子の者だと気付き、
爽快な気持ちで
眠りを再開しました。
そして、サザンビークの者たちはうすうす気づきながら、
内心ではざまあみろと思ったから
なのでしょうね、
気付かなかった事にして
やり過ごしました。
もちろんチャゴス王子はアルバート邸へ戻りましたよ。
ちゃんと、フツーの時間に、そして
何事も起こらなかったような顔
で、
「ただいま」
と
笑顔で挨拶をして。
2009/8/11
大事ですよね、
笑顔で挨拶。
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