謝罪 その三
妹のお誕生会をして飲みすぎてぼんやりしてます。
こんな風にお誕生日で酔いしれる事ができる平和を噛みしめつつ、64回目の終戦記念日を過ごしています。
「マダム…」
マルチェロはあわててハンカチで奥さまの目頭を拭いました。
「如何なされたのですか?まさか私への御怒りの余り…」
「わたくし…
とても弱くなってしまいました。」
「は…」
「…サーベルトが女神のおん元へ召された時、わたくし、泣きませんでした。淑女として相応しく、取り乱さずに家訓通りに過ごす事が出来たのです。なのに…今回、わたくし…サーベルトの話になった時に、涙を我慢する事ができませんでした。」
「…」
「わたくし、淑女として失格になってしまった自分がとても恥ずかしくて、自分への怒りを抑えきれませんっ!!」
「マダム…」
マルチェロは、奥さまの肩にそっと手を置きました。
「わ、わたくし…耐えようとしました。耐えられたのです…昔なら。なのに、とても悲しくて、辛くて、そして…
マルチェロさまのお顔ばかりが浮かんで
…」
「マダム?」
「マルチェロさまが助けに来て下さるのじゃないか、そんなことばっかり考えていたら、涙も抑えられなかったのですっ!!」
そして奥さまは再び、
ぽろぽろと涙をお零しに
なります。
「わたくし、がんばって来ましたのよ。こちらへ嫁いできてから、一生懸命アルバート家の良い奥さまになろうとして…夫が女神のおひざ元へとわたくしを置いて行ってしまわれてからも、サーベルトもそうなってしまっても、ゼシカが旅に出ても…がんばって…がんばって淑女でいたつもりです。でも…」
そして奥さまは、マルチェロを睨みました。
「あなたがいらしてから、わたくし、駄目ですわ。一人では頑張れないっ!!」
「…」
「どうしてわたくしの前に姿を現しなさいましたの?わたくし…わたくし、
あなたがいると、頼ってしまいますっ!!」
「…」
奥さまは、マルチェロの手渡したハンカチで涙を拭うと、強いて厳しい表情をつくろうとなさいました。
「いえ…こんな事を口にしてしまうのが、そもそも淑女として失格ですわね。」
そして、ドレスの裾をお持ちになると、
「申し訳ございません、マルチェロさま。取り乱してしまいましたわ…年をとると駄目ですわね、涙もろくなってしまって…」
と一礼なさろうとしました。
ふわさっ!!
奥さまは叫ぶ事もお出来にならず、ただ、
抱きしめられた感触
に唖然となさいました。
「私もです、マダム。」
そして、その言葉に更に唖然となさいます。
「…私も自重しようとしたのです。あの物体を黙らせることは簡単でした。でも、それは貴女の御心に背く事になると思い、ずっと我慢に我慢を重ねて来たのです…ふふ、私も大分と気が長くなりました。これも年の功ですかな。」
本当ですね。
聖堂騎士団長時代なら、
チャゴスは最初の数秒で豚ミンチ
でしたでしょう。
「ですが…我慢しきれませんでした。
貴女の涙を見る事に耐えきれなかったのは私の咎です。
貴女が御自分を御責めになることはありません。」
「マルチェロ…さま…」
「私に頼ってしまう…
貴女に頼みとされることは、我が望外の喜びです。
ですが、それが貴女の淑女の誇りを傷つけることになることを、私は遺憾に存じます。」
「マルチェロさまっ!!」
ひしっ!!
両想いの恋人たちは固くかたーく抱き合いました。
「マルチェロさま…ごめんなさい…マルチェロさま…」
そして奥さまは、泣きながら何度も繰り返しました。
「何故に貴女が私に謝罪なさるのです?」
「…あなたは追われる身であることは、わたくしも存じ上げていますのに…このような…」
そして奥さまは、視線をお上げになります。
「どのみち、ただでは済みませんわ。」
「…」
マルチェロは黙ったまま、奥さまを優しく抱きしめました。
「覚悟の上です。」
そして、付け加えます。
「貴女には決して御心配は…」
「心配しますっ!!」
奥さまは仰います。
「マルチェロさま、愛する方が何か大変な目に遭ったならば、心配しないなどということはございません。確かにあなたはとても頭の良いお方ですけれど、それでもわたしくは心配せずにはいられませんっ。」
マルチェロは少し戸惑った表情になり、そしてほほ笑みました。
「母親に叱られた気分です。」
「まあ…」
奥さまは心外そうなお顔になりました。
「それは…わたくしはあなたのおかあさまとそれほど違わないかもしれませんけれど…」
「いえいえ、そういう意味ではないのです。そうですな…」
マルチェロは少し考えて、そして言いました。
「叱られるほど心配されるのが…
とても嬉しい気分なのです。」
2009/8/16
どんどんラブラブになっていく二人。大丈夫か?「好事魔多し」と言うぞ?
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