という訳で、リーザス村の、アルバート邸の、そして娘のゼシカも未来の婿のククールも、もちろん当の奥さまも楽しみにしていらした
奥さまのお誕生会
がついに開催されました。
村中が飾り付けられ、広場に燃やされたかがり火が照らし出す中、村人とアルバート邸のコックが共同で作り上げた、
高さが子どもの背丈ほどもあるケーキ
に奥さまのお年の分だけ(でも奥さまはそれをご覧になって、
そっとヘコまれ
ましたが)ロウソクが立てられ、奥さまはみんなの祝福のまなざしの中、
ふー
とお消しなさいました。
ぱちぱちぱちぱち
たちまち、大きな拍手が村中に響き渡ります。
奥さまは淑女らしく微笑みなさり、アルバート邸から提供された酒や食事が、お返しのプレゼントとして人々に給されます。
人々はたちまち飲めや歌えの宴会モードです。
奥さまはそれをしばらくご覧になると、踵をお返しになり、邸へお戻りになります。
ええもちろん、邸の中は更に豪勢に飾り付けられているのです。
「お母さん、コレはパヴァン王からのプレゼントですって。」
ゼシカがそっと耳打ちして、楽団を示します。
恩あるゼシカの母が、アスカンタ出身だと聞いたあの
頼りなくも善人
な王は、
でしたらわたしもお誕生日をお祝いさせて下さい
とのお手紙と共に、アスカンタの楽団を派遣してくれたのでした。
本当に、なんていい人なんでしょうね、
王としてはものすごく不安な人物
ですけど。
「まあ、なんて素晴らしいご配慮。」
奥さまは素直に感心なさいます。
そしてそれと同時に、アスカンタ楽団は、奥さまのお耳にも懐かしく、そして心地よいアスカンタの曲を演奏し始めました。
「そろそろ…」
ククールは呟いて、今から始まる
奥さまお誕生記念舞踏会
に集まった面々を見ます。
ええ、さっきから何度も彼はそのメンバーを見つめているのです。
見つめているのですが、何度見ても、
いなければならないある人物
の姿が見当たりません。
あの背の高い、そしてと何より
存在感のありすぎるあの人
がその場に居たら、ククールが気付かないはずはないのですが。
「始めてーんだけどな…何してんだよ、いつもはムダに時間に厳密なクセに、こんな大事な時に…」
ククールは舌うちします。
もちろん、その人物の不在はゼシカも、何より奥さまが一番気付いていらっしゃいます。
もちろん淑女な奥さまはおくびにもそんな態度はお出しになりませんけれど。
でも、乙女な奥さまの事です、
内心は不安で仕方が無い
ことは、分かり切っています。
愛するマルチェロ
が、待ちに待った自分の誕生会に来てくれない…
これほど奥さまにとってお辛い事が有りましょうやっ!?(いやない、反語)
ククールはしばらく待ちましたが、やはり来ません。
これ以上、この場の人々を待たせる訳にも行きません、村外の人物は招いていません(秘密保持の為です)が、それでもお客さまはお客さまですから。
「この場にお集まりの、紳士淑女のみなさま、ただいまより…」
ククールが声を張り上げた時です。
ばたむっ!
エラそうな音がして、扉が開きました。
カツッカツカッカツカツッ
規則正しい軍靴の音が、静まり返った室内に響きます。
「…」
何より一番呆気にとられたのは、ククールとゼシカです。
「兄貴…」
ククールは、なんとかそれとだけ呟き、残りは心中で絶叫します。
そのカッコはねーだろっ!!??
他の人々も、最初の驚きに続いて、今度はマルチェロの格好に息を飲みます。
純青の、体にぴたりとした上半身に、歩むだけで優美にひらひらと舞う下半身。
基本、村を出た事が無い村人たちの中の数人だけが、
「聖堂騎士サマみてえだな。」
との感想を抱きますが、とんでもない、
聖堂騎士、しかも団長の制服
です。
しかも…
「あ、アレって…」
ゼシカも呟き、そして途方に暮れたようにククールに目配せをします。
ええ、色的にはシンプルな聖堂騎士団長の
豪奢なアクセント
である
金ベースに神聖文字が縫い取りされたフチ
がついており、しかも首からも同じリボン状のものがかけられていて、歩くたびに、更に優美にひらひらします。
なに、法王即位式の衣装着て来てんだよっ!!!
ゼシカもククールも声こそ出さないものの、
心中同時に超絶叫
しました。
もちろん、あの
電波な法王即位式
に列席したものはこの場に他には居ず、他の面々はただ、
その余りに余りな圧倒的カリスマチャームに強制沈黙
させられているだけです。
だって、マルチェロはこの村に居る時は素性を隠していましたので地味ーな服しか着ていませんでしたもの。
それが、
一足飛びにあの衣装
です。
それは黙らされるしかありませんよね?
ですが、マルチェロはまったく意に介する様子は見せません。
ただ、唖然と立ち尽くす奥さまのところへと進んでいきます。
「遅れました非礼を御許しください。」
跪き、優美きわまる謝罪をしたマルチェロに、奥さまはただ、頷くことしか出来ません。
マルチェロは立ち上がると、やはり
この世の美の粋を集めたような挙措
で、奥さまに手を伸ばし、そして
魅惑の上に魅惑的な低めの艶のあるバリトン
で言いました。
「踊りませんか?」
2009/8/23
よーやっとマルチェロにこの台詞を吐かせられたーっ!!!
連載開始からずっと、
いつかマルチェロにこの台詞を言わせるんだ
と思いながらいく年月(丸三年以上)。
映画では草刈さんが言ってましたが(そして「王さまと私」でも、確かアンナの方が言ってた気がする)
まあ気にするなっ!!
まあともかく、アロマルのトップにも置いてありますが、結末予測アンケート設置してます。
二人の恋の行き方を想像して、べにいもにも教えてください。
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