告白 その三

本当に好きな人にはウソをつけないし、つきたくない男マルチェロ。
さて、オディロ院長ならば全ての真実を優しく抱きとめてくれるでしょうが、奥さまは、さて…









殺し合った

その言葉の重い響きが、奥さまをお喉を押しつぶし、沈黙を強いました。




マルチェロも黙ります。

ですが、黙ったままのマルチェロの視線は、避けられることなく奥さまに向かうのです。




「…ゼシカは理由もなく法王即位式に襲いこむような娘ではありません。」

奥さまは、意外にしっかりした口調でお話をお始めになりました。


「然り。御令嬢は正義感の強い方だ。 相手が悪ででも無ければ、 そのような事はなさるまい。」


「…」

奥さまの瞳がマルチェロに向けられます。




「悪?」

奥さまの瞳が、 厳しい色 に染まりました。




マルチェロは、 全てを観念したような瞳 になります。




「マダム、貴女に問う。貴女が御令嬢に 決して為してはならぬ悪 と御教育なさったことは何ですかな?」

「卑劣な手段を用いる事です。」

「成程。他に?」


「自分より弱い者を踏みつけたり、傷つけたりする事です。」

「成程。他に?」


「女神さまが定められた世の理を守らぬ事です。」

「成程…」

マルチェロは沈黙します。

奥さまも沈黙なさいますが、先ほどのように弱気な瞳でではなく、 常日頃の奥さまのような厳しい瞳のまま で、でした。




「…免罪符、というのはただの紙切れでしてな。」

マルチェロは、 昔の彼のような皮肉な微笑を浮かべ ました。


「私の経文と口先三寸に騙されて、何千Gも出して買う輩を見るのは、滑稽な見世物でした。」

「…」


「高位聖職者は金に汚い。だから、大金を差し出して要求を通しました。賄賂と申しますな、これは。」

「…」




常日頃の奥さまのような厳しい瞳に見守られながら マルチェロは次々と己が旧悪を口にしていきます。




「ニノ大司教が煙たかった。そして、法王の次期候補として名高いニノ大司教を葬れば、一介の法王警護官に過ぎない私が、一時に高められるかもしれない。貴女の御令嬢とその御仲間たちが、暗黒神の杖に憑かれた黒犬を倒したのを見たとき、私の脳裏に浮かんだ考えは、ただそれだけでした。ええ、そこには 法王聖下を御守りせんとして死力を賭して息絶えた私の部下たち と、そして何より 心労で御倒れになった法王聖下その人 がいらしたにも関わらず、です。 私の脳裏に浮かんだ事は、ただ我が野望を満足させんというその一事だけ でした。」

「…」

「ですから私は命じたのです。 ニノ大司教とその暴漢どもを煉獄島に放り込め と。」

奥さまのお口が、驚きに開かれます。


「貴女も御存じでしょう、マダム。煉獄島の悪名を。そして…御令嬢も、そして我が口の軽い愚弟ですら、その事は貴女に申しあげなかったようですな。」

「マルチェロさま…あなたはゼシカを煉獄島に…?」

「然り。」

お口をふるふると震わせなさる奥さまに、マルチェロは 更に皮肉な笑みを口元に湛え ます。


「御怒りですか?ですが、まだまだそれは御早いのですよ、マダム。」

「まだ?」


「さて、邪魔者のニノ大司教を追放する事に成功した私が、更なる高みを目指さなかったとでも御思いになりますか?そして、 更なる高みを目指すために、誰を殺せばよいかを知らなかったとでも、お思いですかっ?

奥さまは、 まさか、そんな と仰りた気に、目を大きく見開かれます。




「あ、あなたは…マルチェロさまあなたは…女神の僕でいらっしゃるのに、畏れ多くも、女神の代理人である、いと高き法王さまを…」

「殺しました。 女神の代理人たる法王を、我が父たるオディロ院長の親友であった方を、そして私をオディロ院長の代わりに導いてくださるつもりだったいと高き方を、抵抗する術も持たぬ無力な老人を、 暗黒神の杖で、 私が殺したのです、この手で。私のこの手は、今でもその感触をはっきりと覚えていますっ!!」




沈黙。




奥さまの唇だけでなく、奥さまの全身がわなわなと震えています。

ですがマルチェロは、それでも言葉を続けるのです。




「そして私は、この衣服をまとって法王即位式の壇上に立ったのです。この手を、さまざまな悪事と他人の血に染めた代償と引き換えに、私はこの衣を手に入れました。だから私は何があってもこれを守り抜くつもりでした…女神の僕の身で暗黒神の力を借りても、 血を分けた弟の心の臓を、我が剣で貫くことを為してでもっ!!」




良かったですねククール。

一応、 あなたを殺す事は代償となりうるくらいの認識はマルチェロにはあった ようですよ。




「あ、あなたは…その為に弟を、そしてゼシカを… 殺そうとしたというのですかっ!?」

とうとう、はしなくも絶叫なさる奥さまです。




「然り。」

どうしようもなく、冷たいマルチェロの返答です。




「あ…あ…あ…あなたは…」

奥さまは全身を、怒りとも恐怖とも もはや判別出来ないほどのさまざまな感情のためにぶるぶると震わせ ながら仰いました。




「あなたは許しがたい極悪人ですっ!!」

言葉が相手を肉体的に傷付けうるものならば 間違いなくマルチェロはその言葉に殴打されて、打ちのめされ、血を流した でしょう、ね。




2009/9/18




ふう…ようやくこの台詞まで辿りついた。
一休み一休み。

そして結末予測アンケートまだまだ設置してます。
二人の恋の行き方を想像して、べにいもにも教えてください。




然れども その一へ


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結末予想実施中

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