然れども その一

確かに前回の展開を書いてからしばらく間をおくつもりではありましたが、 まさか半月もあけることになろうとは自分でも予想外 でした。いやあ…忙しかったなあ…(しみじみ)









マルチェロは怒りの表情を浮かべませんでした。

そんなものとはまるで逆のまるで 処刑台に引き据えられた殉教者のような面持ち で、ただ黙って奥さまの前に跪きました。

そう、それはまるで 奥さまが断罪人であるかのよう な光景でした。




奥さまは身じろぎもなさらずに、そのお顔を昂然とお上げになって、そしてマルチェロを見下ろしていらっしゃいました。




ろうそくがゆらめきました。

窓は開けられていないのに。




一つ、ろうそくが消えました。




もうひとつ、ろうそくが消えました。




まったく、今日という日はなんて灯りが消える日なのでしょう。

まるで

ええまるで、 灯りが照らしてはならぬものを優しく隠してくれているよう です。




風もないのに、ろうそくは全て消え去りました。

闇の中。

奥さまはマルチェロの顔が見えませんし、

マルチェロも奥さまのお顔が見えません。


奥さまが人道にもとる罪にお怒りなのか、

奥さまが自分を憎悪しているのか、

それとも。









「わたくしは騙されました。」

奥さまはおっしゃいました。

その言葉がマルチェロに何を与えたか、闇はなにも語りません。


「あなたが一番最初に、今のことをおっしゃっていたなら、わたくしは決してあなたをこの邸へ… わたくしの全てであるこのアルバートの邸 へ入れることなどしなかったことでしょう。」

マルチェロは何も返しません。


「まして…」

奥さまのお言葉はそこで空気を振動させるのをやめ、そしてたっぷりと時間が過ぎ去ってから、


「あなたを恋する事など、決してなかったでしょうっ!!」

と、叩きつけるように続けられました。




マルチェロは何も返しません。

「何も反論なさいませんのっ!?」

とうとう奥さまは耐えかねて叫ばれました。




どうして何も返さないのでしょうね?

ねえ、返したって良いと思うのですよ。

だってマルチェロは弁の立つ男でしょう?

天使のように純粋な奥さまを丸めこむ事なんて、とても容易いはずなのでしょう?




マルチェロはそんなことをする子ではない?

ふふ、そうですか、 本当はとても優しくて、純粋な子 ですか。




「致しません。」

マルチェロは静かに言いました。


「貴女の仰る通り、私は許しがたい、しかも卑劣な極悪人ですよ。」

そして静かに続け、それきり黙りました。




小さな息遣いだけが、闇の中に音を残します。

それはどちらの息なのか、分かりません。








「ええあなたは、マルチェロさま…あなたは本当に酷い人です。貴方は許しがたい、卑劣な極悪人です。あなたは世界の理すら乱そうとなさったのでしょう?それは世界すら滅ぼしたのかもしれないのではないのですか?」

「でしょうな。」

マルチェロの返答の言葉は、弁明ですらないためにひどくそっけなく奥さまには聞こえました。


「どうして最初にそれとわたくしは知ろうとしなかったのでしょう。そうすれば あなたを恋する事など、決してなかったでしょう…」

マルチェロの瞳は上に向けられました。

でもそうしても、奥さまのお顔は見えません。

何も見えない闇の中、マルチェロは温かな液体が頬を濡らすのを感じました。




「何度でも言います、あなたは本当に酷い人です、マルチェロさま。でも…」

マルチェロは、優しい雨のように頬を濡らすその感触に、 冷たい冬の雨に打たれるよりもなお身の痛む感触 を覚えました。




「そうと知ってすらなお、ええ、でも、わたくしはあなたを愛しています。」




2009/10/5




うん分かってる、前回みたいな終わり方したって
「どーせ今回、最後に奥さまとまたラブくなって終わるんでしょ?」
って思われてたことは分かってる…

そして結末予測アンケートまだまだ設置してます。
二人の恋の行き方を想像して、べにいもにも教えてください。




然れども その二へ


アローザと元法王さま 一覧へ


結末予想実施中

inserted by FC2 system