愚弟三昧 その二

愚弟楽しいので、もちょっと書きます。









何の物音もしませんでした。




ゼシカは、 マルチェロって、童貞喪失するのと引き換えに、瞬間消失の呪文とか獲得したのかしら? と思いながら、しばらく待ちました。




やはり、それ以上なんの物音もしません。






仕方なくゼシカは、台所から出てみました。

ええ、そこには 音一つ立てずにバラバラにされて転がっているかつては麗しかった婚約者の肉塊









とかではぜんぜんなく、なぜか おひつを持ったまま硬直するククール と、フツーに立ちつくすマルチェロでした。




「…」

マルチェロの緑の瞳がゼシカに向きます。

その瞳のあまりの穏やかさ に、ゼシカは思わず緊張してしまいます。




「あ、あの…ククールがご飯炊いて、ね?」

ゼシカは、こわばった微笑みで声をかけます。

といいつつも、とっさの時にはせめてマホカンタくらいはかけて防御しないと、と思いながらですが。


「…ようだな。」

穏やかな微笑み で返されます。


「あ、あはは、ククールってバカでさ、ご飯炊くのに一生懸命でおかずとか作ってなくて…」

ゼシカは、何とか絞り出すようにそう言います。


ですがマルチェロは、 終始穏やかな笑みを浮かべたまま です。




「ご、ご飯、食べよっか?」

「悪いが食欲がない、遠慮させて頂くよ、ゼシカ嬢。」

そして、優美に歩き去ってしまいました。









ゼシカも茫然と立ち尽くします。

マルチェロはいったい、どうしてしまったのでしょう?





10ターンほどそうしてショック状態のままいたゼシカですが、ようやく状態異常が回復すると、ククールに歩み寄りました。




「…ククール?」

姉さんかぶりに割烹着姿でおひつを持ったまま硬直する ククールの顔は、 パルプンテで呼び出された「世にも恐ろしいもの」を見たかのよう でした。




「ククールっ!!」

叫んでも効果が無いので、ゼシカはククールに平手打ちを食らわしました。




ばたんっ!!

ククールはようやく正気に返り、おひつを取り落としました。




「…」

ですが、ククールの表情はあのままです。




「ククールってばっ!!」

「…」

返事も出来ないらしいククールに、ゼシカは続けます。


「いったい、何が起こったの!?」

「…」

「あたしが見てないあの空白の時間に、一体、あんたとマルチェロの間に何が起こったって言うのよっ!?」

「…」

ククールは、 怯えた瞳 のまま、こわごわ口を開きます。


「あ、兄貴に…

『童貞卒業、おめでとう♪』

ってゆったら…」


「…ら?」


ごくり

ゼシカは生唾を飲み込みました。



「ゆったら…」

「らっ!?」


「…あ…」

「あ?」


「ありがとう、っ言われたーっ!!」

そしてククールは、 姉さんかぶりと割烹着のまま泣き伏し ました。




「…」

ゼシカは、 信じられない という顔のまま、立ち尽くします。




「うう…あんなの兄貴じゃない、 オレの兄貴じゃないっ!!」




泣きじゃくるククールを、ゼシカは茫然と見下ろすばかりです。

本当に、マルチェロに何が起こってしまったのでしょう?




廊下に、ククールの泣き声ばかりがこだまします。

邸の中は、死んだように静かです。

みんな、どうしてしまったのでしょう?

もしかして自分たち二人だけ、異空間に迷い込んでしまったのでしょうか?

そう、 間違ったマルチェロの存在する異空間に。




「…それはそれとして、解決しなきゃなんない問題があるわ。」

ゼシカは決然とした口調で言います。


「うう…何だよ、ゼシカ?」

「それはね。」

「…」

ゼシカは、


びしいっ!!

と、台所を指さして、言いました。




「あの、お釜いっぱいに炊き上げたお赤飯を誰が食べるかって問題よっ!!





2009/10/21




やっぱり愚弟+ゼシカは楽しいです。
ようやく元に戻った気がする、このシリーズのノリが。
どうでもいいツッコミですが、ククールとゼシカはマルチェロの 童貞卒業 をどうやって知ったのでしょうね?

と言いつつ、多分邸中のみんなが知ってることだとも思われますが。

そして結末予測アンケートまだまだ設置してます。
二人の恋の行き方を想像して、べにいもにも教えてください。




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