狡猾 その二

一日寝てたら、もうこんな時間。
まあ、眠いってことは体が休息を欲してるって事だから、いいや。









「歓迎されてるってのが、とってもコワいですよね、トロデ王。」

エイタスが呟きます。


「まったくじゃのう、何かとんでもないサプライズイベントが待っていそうじゃ。」

トロデ王も頷きます。


2人がいるのは、豪華な客間です。

ちなみに、存在する地名はサザンビーク。

彼らは、ミーティア姫の出産祝いの答礼として、はるばるサザンビークまでやって来たのでした。




不思議なお話です。

トロデーンはサザンビークの属国でもなんでもないのに、大臣の訪問の答礼に国王おん自らと娘婿が来るなんて。

でもまあ仕方がないのです、仮にも各国の代表者が集うサヴェッラで あんな騒動 を引き起こしてしまった訳ですし、いくらサザンビークの国民が チャゴスを心から嫌っている とはいっても、腐ってもチャゴスも一国の王子です。

サザンビーク王家の面子を潰された という怒りの買い方はしているわけですから、 かなり下手に出ておく必要がある という政治的な判断により、2人はわざわざ答礼に赴いている訳なのです。


というわけで、卵や石くらいはぶつけられる覚悟はしてきた2人なのですが、今の所、 大国サザンビークの懐はさすが深い という歓迎ばかりを受けています。


そして、クラビウス王からも スペシャルな大歓迎のことば をたっぷり受けている訳です。




「トロデ王、そんなお気遣いなさるな。儂と貴殿は友とも言える仲ではないか。そしてエイタス殿は、年からして息子のようなものだ、おくつろぎなされ。はっはっは。」




エイタスは、トロデ王に近づいて、そっと囁きます。


「歓迎されすぎててコワいですよね?」

トロデ王も、エイタスを見上げて言い返します。

「…しかしじゃな、お前とミーティアの駆け落ちの件についての手打ちは一応済んどるじゃろう?」

「…でも、イヤなカンジなんですよ。なにせ、 チャゴス王子がいっさい姿を見せないし。」

エイタスは、腰の竜神王の剣をいつでも抜けるようにしています。

さすがにサザンビークのような大国が、一国の王族を闇討ちにするとは思えませんが、 政治の世界とは何が起こるか分からない ということは、エイタスも骨身に染みて知っていることです。


「ふうむ…本当に、何が起こったのかのう。やっぱり、リーザス村で何か起こったんじゃろうか。」

「…」

チャゴス王子がリーザス村を訪問すると聞いた時は大騒ぎをしたのですが、ついそのまま、 ミーティアの出産にまつわるあれやこれやですっかり失念していた のは、うかつでしたでしょう。

でも、まあ初めておじいちゃんになるトロデ王と、初めてパパになるエイタスの そのウキウキドキドキな気持ち からすれば、 チャゴスのことなんて思い出したくもなかった のは、気持ちとして理解できます。


エイタスは、そういえばゼシカとククールの様子もなにかおかしかったと今更になって思いますが、今更遅いです。

そして、一国の王太子のことだというのに、誰もチャゴス王子のことについて触れようもしないのも気になります。


「いやしかし、チャゴス王子がちゃんと元気にサザンビークに戻ったことは事実ですし。」

エイタスはそう言って、自分とトロデ王を納得されようと努めました。


「そ、そうじゃのう。サイアク、 あの男に抹殺されたとか、そういうオチはつかん しのう、はははは…」

笑うトロデ王ですが、その笑いが ビミョーに硬い です。




「お待たせ致しました。」

部屋が開いて、眼鏡をかけた女性文官が入って来ました。

サザンビークの国王秘書官のレベッカです。


「クラビウス王が、私室でお待ちです。」

そして2人は、レベッカに誘われてクラビウス王の部屋へと向かいました。






「いやー、トロデ王、そしてエイタス。はは、 我が甥故に 呼び捨てとさせてもらうぞ。 親愛なる両名とはもっと腹打ち割って話したい と思ってな、こんな席を儲けさせてもらった。ま、寛ぎ召されよ。」

クラビウス王の私室には、簡素な酒とツマミの用意が為されていました。

侍女や給仕の一人もいません。そしてクラビウス王もかなり寛いだ格好をしています。


「さ、グラスを。」

そして、クラビウス王自らがワインの瓶をとります。




「我らの親交と我らが両国の未来に乾杯。」

そうして、杯がいくたびか巡らされました。

クラビウス王は上機嫌な様子で、言葉巧みに酒を勧めます。






「おお、そういえばウチの愚息が、エイタスの旅のお仲間の故郷のリーザス村にお邪魔したことがあったな。」

何気ない口調で、クラビウス王が口にしました。


「ああはい、何もおもてなし出来ませんでと申しておりましたが。」

そんなに酒の強くないエイタスが、さすがに少し気が緩ませながら返答しました。


「ははははははははは。」

クラビウス王は大笑いしながら、傍らのレベッカに何か目配せしました。

レベッカは頷くと部屋から出て、しばらくして誰かをつれて入って来ます。




「ヤア オヒサシブリ デス。ボク ハ ブタ デス。」

その誰かは、丁寧に頭を下げて挨拶します。


「…」

「…」

エイタスもトロデ王も、酔いが一気に醒めました。


「ボク ハ チャゴス ダヨ。ボク ハ ブタ デス。」

何かの幻聴であって欲しいとという両名の淡い期待を一瞬で消し去り、チャゴスはもう一度そう言いました。




「リーザス村で おもてなし をうけてからずっとそうでな…」

クラビウス王は、 あくまで笑顔 です。




「まったく、礼儀正しい子にして頂けて、父親として有り難すぎて叶わんよ。」

もちろん、 その目はまったくわらっていない のですが。









2009/11/22




人生万事、塞翁が馬。

そして結末予測アンケートまだまだ設置してます。
二人の恋の行き方を想像して、べにいもにも教えてください。




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