修羅道とは倒す事と見つけたり その一
昨日のぎっくり腰ですが、いろんな方々のアドバイス通り整骨院に行き、電気治療とマッサージを受けて、家であったかいお風呂に入って、あったかくして寝たら、大分ましになりました。
でも、無理は禁物、今週はおとなしくします。
エイタスは、愛娘エステル姫の頭を撫でます。
すでにふさふさしているエステル姫の髪は、ご両親似の黒髪。
「うふふエイタス、そんなに何度も何度も撫でたりしたら、そのうち摩擦でエステルがハゲちゃいますわよ。」
ミーティア姫が笑いながら、エイタスの傍に座りました。
「…」
エイタスは、
ものすごく不安そうな顔で
自分の額を撫でます。
そして、エステル姫の額を指で触ります。
「大丈夫だよ、この子、僕似でデコは狭いから。」
ミーティア姫はにっこりと微笑みます。
「何を悩んでいるのかと思ったら、
マルチェロさんのことを考えていらっしゃいましたのね?」
「えっ、どうして分かったの!?」
「うふふ、そりゃ夫婦ですもの。」
とミーティア姫は
微妙にウソをつき
ました。
「…君にはウソはつけないなあ。」
「まあウソなんてつかなくてよろしいことよ?
マルチェロさんと浮気でもしてない限り。」
「たとえ、そうしなければ世界が滅ぶのであっても、僕が彼と浮気する事はあり得ないから安心してよ。」
「まあ…」
ミーティア姫は可愛らしく口を驚きの形にして、
「世界の滅亡と引き換えになら、浮気されるのもやぶさかではありませんわ。」
と、
かなりキョーレツにズレた回答
を返しました。
「…はは。」
エイタスは力なく笑います。
「世界の安否を個人的な事情より優先するようになったなんて、君も為政者らしくなったね。」
そしてエイタスはもう一度、エステル姫を優しく撫でました。
「エイタス?マルチェロさんの心配ならきっと不要ですわ。お父さまもそう仰ってましたし、それにマダム・アローザと
真剣な恋
をしていますもの。」
「…真剣な恋をしてたら、心配はどうして不要なのかな?」
ミーティアは姫君らしくたおやかに微笑みながらも、
自信満々すぎる瞳
で言い放ちました。
「愛は奇蹟を起こすからですわっ!!」
「…」
ミーティア姫は、いつもなら彼女の言葉にはほとんど無条件に賛同してくれるエイタスが無反応なので、少し不満に思いました。
「どうしたんですの、エイタス?信じませんの?だってわたくしとエイタスの愛は見事、実って、今、トロデーンは平和でみんな幸せですわ。」
「…僕の両親は、多分、本当に心から愛し合ってたんだろうけど、奇蹟は起こらず、恋は悲恋に終わった…」
エイタスは、寂しそうに笑います。
「今の所、一対一じゃないかな、その可能性。」
ミーティア姫は言葉を返そうとしますが、エイタスは珍しくそれを許しません。
「ううん、別に僕が両親の顔を知らずに育ったことを今から蒸し返そうって訳じゃないんだ。そもそも、そうでなければ君やトロデ王と会うこともなかったろうし。そりゃ僕の生まれた所は竜神族の里かもしれないけど…」
エイタスは力強く呟きます。
「僕の心の故郷はこのトロデーンだから。」
そしてエイタスは、ミーティアをそっと抱き締めます。
「そしてミーティア、
僕は君と出会えて、君と一緒になれて、本当に幸せだと思ってる。」
「エイタス、サザンビークで何かありましたの?」
ミーティア姫が問いますが、エイタスは答えません。
エイタスは立ち上がり、窓を開けました。
外に広がる、トロデーンの街並み。
「…僕はこのトロデーンに育てて貰ったんだから、トロデーンに恩返しをしなきゃならないと思うんだ。」
「まあエイタス、ヘンなお話ですわ。お父さまも、そしてこのトロデーンも、
エイタスに恩返しをしてもらいたくてエイタスを育てた訳ではありません
わ。あなたはそりゃこのトロデーンで生まれた訳ではありませんけれど、このトロデーンで育ったことは間違いないんですもの。」
エイタスは小首を傾げます。
一児の父になったとはいえ、そんな様子を見るとまだ幼い少年のような仕草です。
「なんて言うのかな…多分、
僕は地に足が着いてない
んだ。両親がほんとうに存在したって知ったのもついこないだだしさ。君はこのトロデーンのお姫さまで、そしてエステルもそうだ。だから君たちはそんな気持ちは分からないかもしれないんだけど…」
エイタスの瞳が、ミーティア姫には見えない色を宿します。
「僕は、僕がここにいていい理由を必要とするんだよ。」
ミーティア姫は、少し沈黙します。
「マルチェロさんみたいな事をおっしゃいますのね、エイタス。」
「どうして?」
エイタスが僅かに不満そうな顔をしますが、ミーティア姫は怖じずに返します。
「あの人が暴走なさった理由もきっとソレですわ。
自分の存在理由が欲しい
ってこと。あの人はオディロ院長がいらっしゃらなくなったら、ご自分を認めて下さる方がいなくなってしまって、その存在理由を権力や力に求めてしまったから、ああおなりになったのでしょう?」
「…君って、本当に聡明だよね。」
「でももう大丈夫ですわ、
マダム・アローザの愛
がありますもの。
愛は心の渇きを癒しますわ!!」
そしてミーティア姫は、更に強い瞳で続けます。
「エイタスにはまずわたくしがいますわ、エステルもいますわ、お父さまだって実の息子のように思っていますわ、お城のみんなだってエイタスが大好きですわ。冒険のお仲間たちもいますわ。
みんなみんな、エイタスがここにいることに理由なんか求めませんことよ。だから大丈夫。」
ミーティアがあまりに力強く断言したので、エイタスは柔らかく微笑んで、ミーティア姫に口付けます。
「ありがとう。」
「うふふ、どういたしまして。」
エステル姫を抱きあげたミーティア姫に、にっこり微笑むと、エイタスは扉を開け、部屋から出て、そして扉を閉めました。
「でもね、ミーティア。」
エイタスは呟きます。
「ある愛を守るために、別の愛を破壊しなきゃならないことも、この世にはあるんだよ。」
そしてエイタスは、バルコニーに出て呪文を唱えました。
2009/12/16
自分の恋を成就させるために、チャゴスからの好意を(いくらチャゴスとは言え)公衆の面前で踏みにじったミーティアですが、彼女は愛の尊さと純粋さを心から信じています。
そして結末予測アンケートまだまだ設置してます。
二人の恋の行き方を想像して、べにいもにも教えてください。
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