十面埋伏 その二

寒いのでモコモコ着こんでます。ですが何をトチ狂ったのか昨日の夜、
「べにいもはこんなモコモコ着込まなくても大丈夫な子」
という気がモリモリ湧いてきて、思いっきり薄着(夏でもいけそうなカッコ)を用意してしまいました。
朝、外出た瞬間に後悔した上に、一日中いろんな人に
「薄っ!!」
とツッコまれました。









「五月雨突きっ!!」

エイタスが竜神王の剣で、常人にならば目にもとまらぬ速さの四段突きを放ちます。


「…風穴が開くな。」

「開けて下さい、話が早いんで。」

エイタスは放つ殺気を隠そうともしません。


「もう一度問う。そこまでして私を殺そうとする理由は何だ?殺される覚えは山程あるが、君に其処まで殺されようとする理由が分からん。」

「では、女神さまのお膝元…にあなたが行けるとはあまり思えませんが、土産にお話ししましょう。」

エイタスはそう言いましたが、剣の勢いを緩める気配も無ければ、殺気を収める気配もさらさらありません。

勿論、マルチェロもそうなるという期待はしていないようですね。


「サザンビークに行ったんですよ。」

「成程、そういう事か。」

マルチェロは 超一瞬 で納得します。


「納得したなら、僕の方こそ説明して欲しいものですけどっ!?」

怒りの炎をまとって放たれた斬撃をマルチェロはかわします。


「チャゴス王子が何をしたか知りませんけどね、どんな理由であれ、どうしてあんな不用心な事をしでかしてくれたんですかっ!?自分のした事がどんな結果を生むかなんて、分かり切った事でしょう!?」

エイタスは怒りをいっぱいに含んだ声、そして剣捌きで、サザンビークであったことを叫びました。


「…フン、あれだけの証拠で私と気づくとは、クラビウスの眼力もなかなかだ。」

「あんな特殊な事をしでかしたらクラビウス王でなくても気づきますよ。どうしてもっと普通の仕返しをしないんですか?」

チャゴス王子が精神的苦痛を受けた事に関しては、完全スルー のエイタスです。

ま、当然でしょうけど。


「むしろ、どうしてそこで耐え忍ばないんですか!?我慢するのは得意なんでしょう!?」

「私一人の事ならなっ!!」

「…っ」

エイタスは、至近距離から放たれたかまいたちを避けようとして体勢を崩します。

マルチェロはそのまま崩れかけたエイタスの足首を、強く踏みつけました。


「ぐっ…」

エイタスは、無様にしりもちをつきます。


「私は自分を殺しに来た男をむざむざ生きて返すほど甘くないぞ… メラゾーマっ!!」

至近距離で、生き物のように盛り上がる火球。

エイタスは、恐れもなく片手を炎の中に突きだすと、


「ベギラゴンっ!!」

と叫び返します。




炎と灼熱が反射し合いました。




「…」

火傷した腕で治癒の呪文をかけながら、エイタスはマルチェロを睨みます。


「至近距離でメラゾーマとか止めて下さいよ。 ククールじゃないんですから。」


「…」

同じく、至近距離から食らった灼熱を呪文で癒しながら、マルチェロはエイスタの眼差しを不敵な笑みで受け止めます。

「はは、そうだったな失礼した、 君はククールではなかったな。」




そうですね、 ククールじゃなければ 至近距離でメラゾーマは危険ですよね。

いいですか、モニタの向こうのよい子のみなさん、 ククールでなければ、真似してはいけませんよ?




「…これでも騎士の端くれなのでな。」

マルチェロがぽつりと呟きます。

「…マダム・アローザに何かしたんですか、チャゴス王子は。」

「フン。」

マルチェロは冷笑します。


「愚弟を侮辱されて私が怒りにかられたとでも思ったのかね?」

「いえ、そんな可能性がチラとでも頭を掠めることなんて、決してあり得ないです。」




どうしたのですか?

え?

マルチェロがククールに手厳しい事をいうのは、 本当は弟のことを心から愛していることを認めるのが恥ずかしいから ですって?

まあ、 聖者であり、何よりあの両名の育ての親たるあなたの見解は出来る限り尊重したい気がするような気もしつつある方向で行きたいというこの方針案の具体的な施行に関しては可能な限り善処したいと考えないでもない ですが、でも 今の見解を支持する者はあなたとククールくらいなもの ですよ?

まあ当のマルチェロもあなたが言う事なら、 例え太陽がま緑だという事でも信じるでしょう けれどね。




「身の安全、結構な事だ。世界の平安、大変宜しい。だがな、エイタス君 それを自らの愛する者の苦痛と引き換えにしなければならないのだとしたら、君ならどうするね?」


「…」

エイタスは、厳しい表情を和らげます。

ようやく年相応の微笑みを浮かべて、そしてマルチェロにそれを向けます。


「マルチェロさん、僕は前あなたに言いましたね。 結局、自分の”欲望”の思うままに他人の迷惑を顧みなかったという点では、僕と貴方の行動は=(いこーる)だと思った と。でも僕の行動は愛が基盤にあるから世間に許容されるだけのことで、でも だから、あなたも誰かを愛したら、あなたが愛と幸福に包まれることが、貴方の一番の贖罪だと考えるから、貴方がそうなることを心から祈ります と。」

「そうだ、君の祈りを女神が聞き遂げ給うたのか、 私はマダムアローザを心から愛するに至った。 そして、その愛が生んだのが、 この不祥事だが!?」


エイタスは表情を和らげたまま、静かに続けます。


「僕もね、 妻のミーティアと娘のエステルを心から愛して ます。彼女たちの為なら、世界だって滅ぼせますよ、多分。」

「で、手始めに私か?」

「あなたが死ねば向こうさまの気も済みます。ついでに法王庁とかも安心するでしょう。あなたに恨みはありません、 ただ僕と、僕の愛する人たちの穏やかで幸福な生活を守るために、あなたの首が必要なだけですっ!!」




ギガデインっ!!




穏やかに微笑むリーザス像を凄惨に彩る雷が、エイタスの剣に纏わりつきます。

そのエイタスの姿は、年若い死神を連想させました。




「…今度はククールはいませんよ。」

「それが私を落胆させるとでも思うのかね?」

「いいえ…」

エイタスの浮かべた笑みは、その雷と同じほど凄惨で悲壮なものでした。



「ただ、 今度こそ、あなたの体に焼け焦げた穴がいくつも開くな と思っただけです。」







小さく息を呑む音がしました。

エイタスは気づいていないようです。

そして、小さな足音と、布らしきものを擦るような音。

エイタスはやはり気づいていないようです。

いえ、マルチェロ以外の誰だって、こんな場面で、こんな微かな音を聞き分ける事は出来ないでしょう。




愛ゆえ、ですね。




「ギガブレイ…」




「…さま…っ」




その声をマルチェロが耳にした瞬間、マルチェロは 空前絶後の恐怖 を味わったような表情になりました。






2010/1/13




この手の場面でのコレは、お約束ってか定番っていうか王道ですよね?
そしてこの終わり方してお正月特大号で一週とんじゃうのもまた、お約束だと思われます。

そして 結末予測アンケート まだまだ設置してます。
二人の恋の行き方を想像して、べにいもにも教えてください。




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