満を持して その一

このシリーズは、けっこういろんな人が出て来てます。
だから、「あの方」だって、満を持して登場して下さると思うのですよ。









ゴルドの廃墟に、ただ沈黙だけが広がります。

奥さまはまだ嫁がれぬ頃に、この聖地ゴルドにお参りしたことがおありになりました。

息を呑むほどの女神像の美しさ (まあシャマルの腕も良いことは認めますが、 なんと言っても素材が良い ので

おや、聞こえませんでしたか?ではもう一度

素材が良い

ので…え?しつこいですって?

でもね、 重要な事は繰り返さないといけませんから)


に感激なさったことを覚えていらっしゃいます。

あの頃は、女神像巡礼に参る人たちでこの場は賑わっていました。

それが、今は、 人っ子一人いない廃墟 です。


まあ確かに世界の中心にあるとはいえ、草木も生えぬこの荒地に好んで来たり、ましてや住みたい人間がいるとも思えません。




ぼう…

何やら白いものが通り過ぎたような気が、奥さまはなさいました。


「きゃっ…」

奥さまは、 これを好機とお思いになったのか、マルチェロの腕を再び掴み ます。


まったく奥さまも、 お変りになったものです。



「ま、マルチェロ、何か…」

「何か?」

「ゆ、幽霊のようなものが…」

「…」

マルチェロは、眉間に皺を寄せて、奥さまに言ったのではないのでしょうが、呟きました。


「まあ、あれだけ人が死んだのだ。亡霊の百や二百、出たとておかしくあるまい。」

「マルチェロさま?」

「…」

マルチェロは再び黙りこくったので、奥さまは、 今度はマルチェロの腕をしっかり掴んだまま 共に沈黙なさいました。




ピシイイイン

奥さまは、マルチェロとつないだ手から、そんな感触をお感じになりました。


「何なのです?」

腕に感じた妙な感触にマルチェロを見上げようとすると、


「…」

やおら、マルチェロが額を押さえて蹲りました。


「マルチェロさまっ!?」

「…」

めったに表情を変えないマルチェロだというのに、 チャームポイント秀でたデコ には脂汗までかきながら、 苦悶の表情 を浮かべています。



「マルチェロさま?お加減でも…」

「まだ共鳴があるのかっ。」

「…は?」

何の事だかさっぱりお分かりにならない奥さまです。


「それとも… 作為的なものかっ!?」

「あの…マルチェロさま…」

奥さまは聡明な方ですが、 マルチェロの発言の意図が一ミリグラムもお分かりになりません。

確かにマルチェロは 出会った当初から、発言の意図が読めない発言を繰り返す男 でしたから、まあ慣れっこといえばそうなのですけど。

でも、いくら気丈な淑女の奥さまとはいえ、 こんな陰気かつ不穏な場所 でこんな意味不明発言をされたら、余計不安になるというものです。




「マルチェロさま、ひどい汗…」

奥さまは手編みの純白のレースのハンカチで、マルチェロの 広い額 をそっと拭いなさいます。


しかし、こんな人っこ一人いない廃墟で、まさか本物の幽霊…


奥さまがそうお思いになった時でした。




バラバラバラ

足音が展開します。


「…」

マルチェロは、 ひどく苦しげな表情 のまま、


「まったく、この『聖地』は、余程私と相性が悪いと見える…」

自嘲し てから、 地獄のサーベルに手をかけ ました。






2010/2/15




デコデコしつこい?
でもまあ、 マルチェロといえばデコネタ は、思いだした時、使える時に使っておかないと、ね?

そして 結末予測アンケート まだまだ設置してます。
二人の恋の行き方を想像して、べにいもにも教えてください。




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