親ゴコロ その一
人の親になったことがないので、親ゴコロってものはよく分かりません。
逆ギレ…対人関係において、何らかの迷惑を被った被害者が迷惑を与えた加害者に怒りの感情を表している(つまり、相手に対してキレている)とき、加害者が自分が怒られていることに耐えきれずに、開き直り的に被害者に向かって逆に怒り出す現象を指す俗語である。(うぃき様)
よぉく考えてみましょうね。
今回の「被害者」は、精神崩壊を起こさせられたチャゴスに他ならないでしょう。
そして「加害者」は、チャゴスを
超意図的に
そんな状態に追いやったマルチェロに、また他なりません。
そして、今回怒っているのは、クラビウス王であり、これはチャゴスの父親な訳ですから、まあ我が子が精神崩壊させられている事に対して怒る権利はあるというものです。なにせ当のチャゴスは自分で怒ることが出来ない状態に置かれている訳ですから。
しかし、
逆ギレ
しているククールは、マルチェロの異母弟です。
きちんと
逆ギレ
することが出来るはずの当のマルチェロは、クラビウス王には何の反応も示していないのにです。
「ほう…」
クラビウス王は、眉を上げます。
「確かにうちの
豚児
が、そちらの…
誘拐された
奥方のお治めになるリーザス村にご無礼を致した事は事実のようだ。」
「ハイ ボク ハ プレイ ヲ イタシマシタ。ソノトオリ、
ボク ハ ブタ デス」
自分の子供をへりくだっていう語。豚犬(とんけん)とも言う。元は三国志の曹操が人さまの子をバカにして使った語。決して、見た目が豚っぽい子という意味ではないから、間違えて使っちゃダメ。
そしてクラビウス王は、
自分で自分の事を「豚児」と認めたチャゴスの言葉
は聞かなかった風を装い、奥さまに軽く謝罪しました。
「いえいえそのような事は決して…」
自分が誘拐されておしまいになっている
なあんてことは
すっかりお忘れになっている奥さま
が慌てて、丁寧に応対するのを、マルチェロは渋い顔で睨みます。
「…だがな。」
クラビウス王はククールに向き直ります。
「だからといって、報復に精神崩壊させられる程の悪行であったかな?」
クラビウス王はなるたけ穏やかに口にしようと努めてはいましたが、
眉間の怒りジワが抑えようもないほどピクピクしていた
のは、ニブい聖堂騎士たちにも分かるほどでした。
まあ確かに。
チャゴスは存在自体が許しがたい
とはいえ、その行いをとってみれば、人を殺した訳でなし、肉体を傷つけた訳でもなし、
村人たちに死なない程度にリンチを食らったら済む程度のムカつく所業
ではありました。
「ははは、それにだな…
誰がやったか分からんのなら、君が庇う筋合いであるまい?」
「…」
痛い所を突かれて、ククールは黙りこみました。
クラビウス王は、
まだピクピクしそうになる眉間の怒りジワ
をなんとか宥めて、今度はマルチェロに向き直ります。
「良い御兄弟
を持って、幸せだな。」
「あの生物を『良い兄弟』と認めるくらいなら、サヴェッラ大聖堂で貴様らに土下座して我が罪を悔いて見せた方が何億倍もマシだっ!!」
「ひでえよ兄貴っ!!この献身的で美しいオレが兄貴の罪を隠ぺいする為にカラダ張ってゴルドくんだりまで出てきたってのにぃっ!!」
「…ほんっとにバカなんだから、ククールってばっ!!」
物陰に隠れたままのエイタスは、小声ながら血を吐かんばかりに絶叫します。
エイタスはいっそ、
ククールごと全てを消し去りたい衝動
に駆られました。
「だいたいマルチェロさんも、あんな事言ったら、ククールが何て言うか分かり切ってるじゃないか…
あのバカ兄弟っ!!」
エイタスは
勇者としてこの世の闇とバカ兄弟をまとめて撫で斬りにしたいどうしようもない衝動
に駆られましたが、なんとか堪えます。
堪えがたきを堪え、忍びがたきを忍び、そして
成らぬ堪忍、するが堪忍
我慢強き者よ、汝の名は勇者♪
なーんてエイタスが耐え忍んでいることなど気付きもせず、瞳に涙を浮かべたククールは、
「なんだよバーカ、バカチャゴスの親父めっ!!お前なんか親バカじゃなくてバカ親だってのっ!!」
と幼児のような悪たれ
をついていました。
「だいたいよ、太陽の鏡の時でもそーだけどよ、サザンビークは金持ちのくせに、しみったれのドケチ王めっ!!」
「あらあら、それは聞き捨てならないわ。」
傍に控える国王付き秘書官レベッカが言います。
「クラビウス陛下は、サザンビークが金持ちの『くせに』しみったれのドケチなのではありません。
陛下がしみったれのドケチ『だから』
サザンビークが豊かなのです。
原因と理由を逆にするなんて、あんまりです。」
「レベッカよ、反論すべき所はそこではあるまい。」
「ハイ ハンロン ポイント ズレマクリ デス。
ボク ハ ブタ デス」
「いい加減にせぬかっ!!」
とうとう、このマヌケな会話を聞くに聞きかねたニノ法王が、一同を一喝しました。
さすが地上での女神の代理人の一喝です。
クラビウス王ですら、恭しくその一喝に従いました。
「聖堂騎士、ククール…」
「お生憎さま、オレはもう聖堂騎士じゃないですよ、ニノ法王。『元』です。今は聖堂騎士団とは縁も所縁もありませんね。」
ニノ法王は、神鳥の杖(であると思しき杖)でククールを指示します。
「そうであったとしても、女神の創り給い、我が法王庁が守っておる法を侵して良い理由にはなるまい。つまりおぬしは、
特級犯罪人
と知りつつ、そこの男を…」
「ちょっと待って下さいよ。今はクラビウス王の用件が先でしょ?」
そしてククールか、わざとらしくクラビウス王にウインクなどくれます。
「サザンビークの稀に見る名君クラビウス王。貴方さまが、わざわざ直々にこんなゴルドくんだりまでいらしたのは、
大事な大事な王太子殿下の身に起こったある懸念事項について我が兄にお問いになる為
でしょう?」
ククールの皮肉な笑みに、クラビウス王も冷笑で応じます。
「しかもその為にわざわざ法王庁まで巻き込んだ
んだ。先にこちらのご案件を解消して差し上げるのが、今後の為にも宜しいんじゃないですかねえ?」
ニノ法王は、ちらりとクラビウス王と、そして
「ボク ハ ブタ デス」
を繰り返すチャゴス王子を見ました。
「良かろう、お先に用件をお済ませあれ。」
「恐縮に存じます、聖下。」
そしてニノ法王は、昔と同じく眠そうな瞼の下にある、
しかしかつてと異なり慧々たる光を放つ瞳
でククールと、そしてマルチェロを見据えます。
「好きなだけその口を開くが良いぞ。
どうせ、女神の奇跡でも起こらぬ限り、ここから逃れる術など無いのだからのう。」
あらあら、女神の奇跡
は、待ち望まれているのでしょうか
ね?
2010/3/29
タイトルが「親ゴコロ」なのに、肝心の話に入れなかった。
そして
結末予測アンケート
まだまだ設置してます。
二人の恋の行き方を想像して、べにいもにも教えてください。
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