Can You Keep a Secret ? その三




アローザ奥さまは 法王庁に売るつもりはない!! と力いっぱい断言した後、


「では、お疲れでしょう、お休みくださいませ。」
と優しすぎる言葉をかけて、そして自室に戻りました。



「…」

ククールもゼシカも、二人とも、ナニを言っていいんだか困って無言です。




マルチェロは腰掛けていた椅子から立ち上がり、ゼシカに一礼しました。




「ではゼシカ嬢、あなたの母上のお言葉に甘えて休ませてもらうことにする。」


「あ、うん…その…」
ゼシカがなんと答えていいのか困っていると、マルチェロは続けます。



「それと、お休みになられる前に母上にお伝えいただけるかな?」

「…なんて?」


「『貴女の高潔なご見識には痛みいる』と。」

「それってイヤミ?」

マルチェロはそれには答えずに、部屋を立ち去りました。




ククールは部屋まで兄を追いかけます。

「なあ兄貴、このまま立ち去ったりしねーよな?」
ククールの言葉に、マルチェロは答えます。

「ククール…」
「なに?」

「私は人に命令されるのは大嫌いだが、 慈悲を一方的に施されたままでいるのも大嫌いだ。」


さすがは兄、負けず嫌いな台詞です。


「それじゃ…」

「ああ、受けた借りは必ず返す!!我が剣にかけてな!!

マルチェロは、そう言って地獄のサーベルを叩きました。



「兄貴、それって復讐の誓いみたいに聞こえるよ?」

ククールは一応ツッコミましたが、マルチェロはそれには反応せずに、部屋に入ってしまいました。











アローザは、部屋に入って安楽椅子に腰掛けました。



ほう…

そして、うっとりしたため息をつきました。



「マルチェロさま…聖堂騎士団長、マイエラ修道院院長、法王警護隊隊長、そして法王の座にあった男ながら、 とても口ではいえないような忌まわしい罪 に手を染めた方…ああ、 そんな方に恋してしまうなんて♪


きゃっ♪


と、呟きたいようなとてもステキな気分です。




読者諸姉も経験上お分かりかと思いますが、 禁断の恋というのは、恋の中でも更に美味なものです。


更に、その人物が大物で憂愁の美青年 だったりすると、さらに禁断の恋は美味になるものです。

…マルチェロは美青年というには、ちょっと?トウが立っていますが、元法王なんてゆー すごぶるつきの大物 な上に、 歴然としたイケメン です… デコがやや広いですが。



まあともかく、そういうワケで

恋に恋するアローザがときめいたとしても、無理からぬこと と言えましょう。





「とても口ではいえないような忌まわしい罪 …ああマルチェロさま、あなたは一体、なにをなさってしまった方なのでしょう?」



徳高き前法王さま暗殺 の上に、 聖職者の分際で暗黒神のチカラを借りて 法王にまで成り上がり、 神と勇者の血族マンセーなDQ世界 において、 それらを全て否定する演説を公然と行う という、 DQ世界観を根底から破壊した罪 です、アローザ奥様。




「お噂ではお聞きしておりますわ。聖地ゴルドでの新法王さまの即位式に、 悪漢四人組 が押し込み、式典を台無しにしてしまい、そして聖地自体が崩壊したという事を…そのお気の毒な法王さまが、マルチェロさま、あなたでしたのね。」


そんなには間違ってはいない噂です。 悪漢四人組 のうち二人が、奥様のご令嬢と、そのご令嬢の婿候補 ではありますが。



「そんな方が、今では法王庁から追われる身なんて…きっと無実の罪なのでしょうね。ええ、 あれだけ昂然とした態度でいらっしゃるんですもの…」


昂然というか、 マルチェロの態度がデカいのは、今にはじまった事ではない という事を、もちろん奥様はご存知ありません。



「きっと、ニノ法王に嫌われて、こんな目に会っていらっしゃるのだわ。ああ、なんて狭量な人なのでしょう、新法王は!!」


そりゃあ、 取り立ててやった相手にクーデター起こされて、若くもない身で煉獄島に投げ落とされ、一月も閉じ込められ たら、嫌いたくもなるでしょう。



「そもそも、ニノ法王は悪人に決まっています!! そんな悪人に嫌われるのですから、マルチェロさまは、きっと 善良で高潔な方に決まっています。」



奥様は、たまたま親しい人(夫や息子などの家族含む)が全て 善良な美形 で構成されていたため、



美形=善人


と思い込むという、悪い習癖がありました。というわけで、その逆も彼女の頭の中では成り立っていたのです。つまり




美形ではない=悪人




幸か不幸か、アローザ奥様は、昔のニノ大司教に会った事がありました。

そして外見上、見事に上記の図式が当てはまる人間だったので、ニノ法王も悪い人だと思い込んでいました。


 彼女の脳裏には 悪人も改心することがある という考えが、すっぽりと抜け落ちていたのでした。



まあ、アローザ奥様ほど極端でなくとも、 ニノ法王とマルチェロを比べてどっちか信じろと言われたら、マルチェロを信じる!!と答える人が間違いなくほとんどでしょう。



 人は見た目が九割五分なのです!!! (DQ世界においては)






「ええ、今思い出しました…夫が亡くなって、サーベルトが後を次いだ時に、マイエラ修道院にもご挨拶に行きました。確かその際にサーベルトがお会いした聖堂騎士団長は確かあのマルチェロさまだったはず…ええ、ええ、帰ってきたサーベルトがしきりに感心していましたわ。

『あの方はすごい人です、母さん。』

あの賢くて善良なサーベルトが褒めるくらいですもの、やはり悪人な筈はありませんわね。」



スゴい
という形容詞は、よいものにも悪いものにも使えます。


すごく変!!


でも 


すごくおかしい!!


でも


すごくイッテる!!


でも。



ですが、奥様の恋の妄想は止まりません。


そもそも恋とは、 妄想によってはじまり、真実を知ることによって終了する ことがほとんどなのです。




ともかく、アローザ奥様の頭の中では、


無実の罪で法王庁から追われる、高潔で有能な騎士さま


というカンペキな図式が出来上がりました。

これはもう、庇うしかないでしょう、オンナとして!!






「いつまでも、マルチェロさまがご滞在下さいますように…」

うきうきしながら、お星様にお願いするアローザ奥様なのでした。




2006/8/6






やっぱりギャグ不調。
なんの根拠もゲーム中にはないのですが、サーベルト兄さんは、マルチェロ兄貴と会った事があると思っています。

理由

一 場所的に近い
二 アルバート家は金持ち
三 マイエラ修道院は聖地だ


兄貴が金持ちから金を巻き上げる機会を逃すハズはありませんし、だとすると、マイエラ修道院から船着場まではすぐ近くで、ポルトリンクまで連絡船があり、しかもそこの権益を所持しているアルバート家と無縁なハズはないと思います。
アローザ奥様のご主人が亡くなったときとか、代替わりのご挨拶含めて、寄付金持って聖地参りくらいしたんじゃないかと思ったので、今回はこんな話を入れてみました。まあ、ゼシカとは面識はなかったようですが。
しかし、だとすると、「ブラコン妹を持つ兄(美形)」と「ブラコン弟を持つ兄(男前)」の天国のコラボレーションですね。さぞや絵的に麗しい光景であったと思います。…書きたくなって来た(笑)






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