被昇天 その一
暦の上では夏の暑さもおさまったはずなのに、まだまだまだまだ暑ぅございます。
暑いと更新する気になれず、寒いと手がかじかんで更新する気になれず。
「ちょ…」 ククールは、ようやく硬直から解けました。 兄貴っ!? そう叫ぶ気力もなく、茫然とゴルドの大穴を見下ろします。 「…」 アローザ奥さまも、叫ぶことすらお出来にならず、 ぺたり と膝をついたまま、上半身も倒れ伏しそうになったのを、エイタスが慌てて抱き起こしました。 「父上っ…」 別人のように聡明、かつ善良になったチャゴス が、クラビウス王を見上げます。 「父上、ボクはこのような結末を望んではいませんでした。」 そして彼は、今までのスネたような口調ではなく、 知的かつ論理的な口調 で、父に訴えます。 「父上、ボクのことが原因で、マルチェロがこのような結末を迎える事になってしまったのですか?」 「否である。」 間髪入れずに、重々しい声がチャゴスの発言を否定しました。 チャゴスと背丈こそ左程変わらないとはいえ、 威厳には格段の差がある ニノ法王は、 予想外の事態の連続に思わず声を失っている クラビウス王と、そして 真摯な面持ち のチャゴス王子に向けて、重々しく語ります。 「チャゴス王子の件は、儂の知った事では無い。それはサザンビークの私事である。法王庁が、そして儂が裁こうとしておるのは、 ただ、女神への反逆それだけよ!!」 ニノ法王は、ゆっくりとゴルドの大穴へと歩み寄ります。 「尤も、其れも終わったの。」 茫然と穴を見下ろすククール。 虚脱したアローザ奥さまも、彼には目に入らないかのようです。 「助かる事など有り得まい… 女神の御心により、そう、女神はマルチェロをこの世から連れ出す事を望まれたのじゃ。」 ちちちちち 小さな鳴き声がしたのを、サザンビークの近衛兵たちや、聖堂騎士たちが耳にしました。 こんな廃墟に、小鳥? 誰かが呟きました。 ちちちちち 鳴き声は少しずつ大きくなっていきます。 幾人かは、鳥を目にします。 何羽も。 何羽も。 「…鳥が…こんなに?」 チャゴスの呟きに、クラビウス王は気が付きます。 「…増えて…来たな。」 見る間に小鳥は、数えきれないほど増え続け、そして奇妙なことに、ゴルドの大穴に飛び込んでいくのです。 「何が起こってるんだ?」 ククールが呟きます。 「…」 エイタスは、いつの間にやら目を覚まし、しかし、唖然とした面持ちで鳥の大群を見詰めているアローザ奥さまの姿を認めます。 「ニノ法王、その杖…」 「…」 ニノ法王はエイタスに指摘されて初めて、手にした神鳥の杖が、輝きを放ち初めていることに気付き、あわてて手を離しました。 きらりっ!! 神鳥の杖が、ひと際大きな輝きを放ったとみるや、杖から何ものかが飛び出し、一目散にゴルドの大穴へと飛び込んで行きました。 「何が起こってるんだ?いやむしろ、何が起ころうとしてるんだ!?」 その答えは、瞬きをほんの数回する間に、ゴルドの大穴の奥よりやって来ました。 青い閃光 と言いましょうか。 それが大穴の奥より、眩く輝き出ます。 ばさ ばさ ばさ ばさりっ!! 大きな羽ばたきを一つして、ほの青い半透明の翼を持つ美しい鳥が舞い出ました。 いえ、それが鳥だったのは、地上に姿を現すまで。 表した直後、鳥はすぐに姿を変えました。 「兄貴ーっ!!」 今度こそ、ククールは心から叫びました。 2010/8/26
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