被昇天 その三
こないだのアロマルでは「夏が終わりました」とかゆってましたが、気付いたら冬ですよ。
生きてない? マルチェロの発したその言葉の意味を悟りかね、その場の人間は一様に、 ぽっかーん という顔をします。 しばし 「兄貴が生きてない筈なんかないもんねーっ!!」 と、 どっかの誰か (いちいち明示せずとも分かりますね?)が、 猛ダッシュ して、マルチェロに猛タックルにも見える、 壮烈な抱きつき を行いました。 「どうらヴばっ!!」 北斗の拳の端役悪人のごとく(あら、自分で言っておいてなんですが「ホクトノケン」とは何でしょう?) 異声を発し て、 どっかの誰か (いちいち明示せずとも分かりますね?)が、 ゴルドの高い高い空を舞い上がり ます。 しばし 「あなたが生きてない筈などありませんわっ!!」 と、 麗しの貴婦人 (いちいち明示せずとも分かりますね?)が、珍しくも強い語気でそうきっぱりと言って、マルチェロに歩み寄りました。 そ 彼女は、マルチェロの衣に触れます。 何故なのでしょう、先ほど青い鳥と化して現れたからでしょうか。 彼の衣は、純青に染められていました。 「触れられますわ。」 奥さまは、マルチェロに触れるだけで、何故かひどく悲しい気持ちにおなりになられました。 けれど、努めてそれを出さないように、優しく微笑まれます。 「あなたのお手は、温かいですわ。」 奥さまは、ひどく自然に、マルチェロの手に、ご自分の手を重ねられました。 今までのアローザ奥さまでしたら、恥じらいの表情をお浮かべになられたでしょうに。 でも奥さまは、今は本当に自然に微笑まれるのです。 「…」 「ほら、生きていらっしゃいますでしょう?」 奥さまの微笑みは、でも、 傍目にも痛々しいくらいの、切ない微笑み になってしまわれました。 それは、一同の心をひどく痛ませましたが、それに一番傷ついたような表情になったのは、マルチェロでした。 マルチェロは何かを言おうと口を開きかけ、そして、ゆっくりとかぶりを振り続けました。 そして、最後に大きく一つ、かぶりを振ると、口を開くのです。 「私はもう生きてはいないのだ、マダム。」 そして、奥さまの凍りついたお顔を見て、僅かに小さな声で続けます。 「今少し正確に申上げよう、マダム。私は、もはやこの地上に生を続ける事は無い身なのだ。」 マルチェロは、奥さまが自分の言葉を少しも理解していないと見ると、少しだけ逡巡しました。 「…私は、この地上に居てはならぬ身だ。」 彼にしては小さな、そして、 弱気な声 で、マルチェロは言いました。 「『汝は地上にいてはならぬ。』 それが 私に下された審判だ。」 「そんなっ!!」 奥さまは大声で叫ばれると、 「そんなことは絶対に…」 と続けられかけましたが、サザンビークのクラビウス王、チャゴス王子、近衛兵たち、聖堂騎士、何より厳しい瞳でこの会話を見詰めるニノ法王の視線に改めて気付かれ、お口を噤まれました。 そーだーそーだー、ぜってぇーそんなことねーもん、オレ、兄貴のこと大すきだもん、ちじょーがほろびたって、兄貴がちじょーにいたほーがいーもん。てかむしろ、兄貴がちじょーほろぼしたってあにきが… 「あっ…」 奥さまは、酷く切ない溜息をお漏らしになります。 ああ、もろちん、 どっかの誰か (いちいち明示せずとも分かりますね?ちなみに、今、この場で瀕死状態なのはこの生物だけです)は、 満場一致で軽快にスルー ですからねっ? 「わ、わたくしは、では…」 奥さまは、縋るような瞳でマルチェロを見つめます。 マルチェロは、彼にしては珍しく言い淀んでから、奥さまに言いました。 「…私は、選択を賜った。」 「…何のですか?マルチェロさま。」 「私は…女神の御許に召される。生きながら…と言うのもおかしな話だが。」 「あれだけの悪事を為しているのに、女神のみもとですの?」 話を黙って聞いていた、サザンビークのレベッカが思わずツッコミました。 「ボクが思うに、女神はお近くで監視なさるおつもりではないだろうか。だって、 下手に地獄に堕として、地獄の覇権を握られたりしたら本末転倒だろう?」 「まあ、新チャゴス王子… チャゴス王子だったとは思えないご聡明な仰りようですね。ね?クラビウス陛下?」 「うむ…正直、 国家レベルの恩人として、国賓待遇と恩給を賜いたい くらいだ。」 「静粛に。」 サザンビークの3名は、 大真面目な顔のニノ法王に叱責 され、慌てて口を閉じました。 「マルチェロさま? あなたが賜った選択とは何ですか?」 アローザ奥さまの問いに、マルチェロは観念したように口を開きました。 「あなたも、女神も御許に御連れするかという選択だ。」 2010/10/30
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