雍歯封侯 その三
せっかくバレンタイン話も書いたことなんで、本編も書くことにしました。
「連れては…」 「行きませんっ!!」 奥さまは、微笑…ではなくて、 ヒマワリの花のようににっこりとお笑い になりました。 「その結論で、よろしい?」 「ええ、勿論です、マダム。」 マルチェロもつられて、 まったくマルチェロらしくなくにっこりと笑い ました。 「理由は…私が申し上げるまでもありませんな。」 「ええ、お分かり下さっている通りです。」 奥さまは、 少女のようにころころとお笑い になられます。 よほど清々しいお気持ちなのでしょう。 「わたくし、やはり、わたくしの嫁いで来たアルバート家が大好きなのです。リーザス村も、村の人たちも、わたくしの大事なゼシカもっ!!」 さっくりと無視される、未来の花婿です。 「大好きなアルバート家ですから、わたくし、女神さまに与えられたこの命が尽きるまで、見守っていきたいのです。」 マルチェロも深く頷きました。 「そうなさって下さい、 私の一番愛しい方。 私はもう命亡き身、何一つ焦る事など無い身です。 貴女が、貴女の生を全うなさり、満ち足りた御顔でいらっしゃるのを、いつまでもいつまでも御待ち致しましょう。 …それに。」 ちら マルチェロは、 凍りつかんばかりに冷たい瞳 で、 地べたに転がる何か を一瞥します。 「確かに、御令嬢と あんな代物 を二人だけ地上に残し、貴女の大事なアルバート家を任せておくなど、 気が休まらないにも程が有りますからな。」 「ご心配、ありがとうございます、マルチェロさま。大丈夫、 わたくしとて伊達にアルバート家の主婦を20年以上やっておりませんわ。 これから何十年かかろうとも、 絶対に、アルバート家の婿に相応しく育て上げてみせますわ、アローザの名に懸けて!!」 奥さまの 今まで見たことがないほどの力強い断言 に、マルチェロも安心したように頷きます。 「惚れ直しました、マダム。」 「ま…いやですわ(ぽっ)」 「御安心下さい。貴女の御手を以てしても、本当にどうしようもないその時は、不肖マルチェロ、 いつでもあの愚弟をアルバート家は愚か、この世の何処からも消し去って御覧に入れます。」 「まあ、マルチェロさまってばなんてお優しい…(ぽ)」 ぽ なーんて言っている場合じゃないような気もしますけど… ま、仕方ありませんね。 これが、自由意思を与えた人の子の出した結論だと言うのなら、我はそれを受け入れるのみです。 「全能なる“女神”の名に於いて、汝の決断を、そして結論を、嘉しましょう、マルチェロ!!」 「ち、父上大変です、空がっ!!」 「なっ、なんと空が…」 「…美しい、ですね。こんな美しい空は見たことがありません、聖下。ええ、 こんなに美しい青い空の色 なんて…絶対に…」 「…ふふ、女神が、マルチェロの、背教者マルチェロの決断を嘉し給うたか…不思議なものじゃ。じゃが、儂のような卑賎なる人の子に、女神の御真意など窺えるはずもない。 女神よ、全ては貴女の御心のままに。」 「たっ…大変だ。ククール、ククールってば、 寝てる場合じゃない、起きなよっ!!」 「ふごっ!!…痛ってーな、エイタスっ!!つか、オレ、なんかお前に攻撃されて気を失ってたような気が…」 「そんな些細なことなんてどーでもいいだろっ!! いいから、アローザさんとマルチェロさんを見なよっ!!」 「ふがっ!!思いっきりラブシーンじゃねーかっ!! てか、オレが気絶してる間に、何が起こったんだっ!?」 「…僕もなんか いろいろメタパニってた からイマイチ定かじゃないんだけど…多分、 マルチェロさんはアローザさんとの別れを決意した んじゃないかな?二人の纏ってるオーラからすると。」 「さっすがオレの兄貴っ!!スバらしい決断だぜっ!!」 「うん…そうだね。好きな人のために『待つ』ことを選べるなんて、 今までのマルチェロさんとも思えないよ。」 「兄貴はやればできる子なんだよっ!!」 「うっわー、君にだけは言われたくない言葉だな。」 「…てかさ、さっきから延々と抱き合ってるじゃねー?」 「そうだね…で?」 「なんでちゅーしねーんだよ!?」 「は?」 「こーゆー時は、ちゅーだろ、ちゅー。 ぶっちゅー だろっ!?」 「…だから君はどーして、 こーゆー場でそーゆー空気読めない発言しかしない…」 「あーにきーっ!! ちゅーしろ、ちゅーっ!!別れのちゅーを、ぶっちゅーっ と…」 「5、20、50、あーあ…100…」 「はふらぶっ!!」 「…これが、 地上での永遠の兄弟の別れ の最悪の姿なんだなあ…しみじみ。まあ…さようなら、マルチェロさん。本当は最後に貴方に言いたかったんだけどね。 どうしてククールも連れてってくれなかったんだっ!! って…」 2011/2/13
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