立ち上がれ、マルチェロ・チルドレン!! その二




注) アンジェロというのは、マルチェロ兄貴がリーザス村で使っている偽名です。ちなみに、マルチェロの正体(笑)を知っているのは、公式設定の二人+アローザ奥様です。






ククールの驚愕の台詞にも、マルチェロは少しも動じません。

「当たり前だろう、ククール。あの程度で仕事が終るとでも思っていたのか?」

「あの仕事をあの程度って言うのは、兄貴だけだと思います!!」

ククールは力いっぱい叫びましたが、兄に黙殺されてしまいました。



「ご令息のサーベルト殿の相続税対策がまだでしたので、僭越かとは存じましたが、 裏帳簿などを作成 いたしておりました。これで、如何な税務署員がやってきたとしても、 相続税は1Gもかかりませんよ マダム。」



「あらアンジェロさま、裏帳簿というのは、 悪い方が作成するものなのでは?」



アローザ奥様の、ある意味とても素朴で真っ当なな問いに、兄は爽やかな笑顔で応じます。




「何をおっしゃいます、マダム。いかな商店、如何な企業、如何な貴族に、いかな王室でも、 裏帳簿というものは必ず存在するものです。」

「あら、そうなのですか?」


アローザ奥様の、経済的な無知に乗じて 兄は弁舌爽やかに続けます。




「だいたい、裏という言葉に負の意味などありますまい。 裏紙、裏山、裏門、裏番組、裏道、裏話、 裏取引どれも正統なものではありませんかな?」



「少なくとも、裏取引は正統じゃないと思うわ。」





ゼシカはツッコミましたが、アローザ奥様の耳には入らなかったようでした。

「わたくしは本当に経済には無知で、お恥ずかしいことです。」
「ご心配なく、マダム。 私がついております(スペシャルスマイル)」



ククールは、 本当は兄は世界征服の野心を捨てていなくて、手始めに資金調達手段としてアルバート家を乗っ取ろうとしている のではないかという、 至極尤もな不安に捕われました。



ですから、必死で自分にこう、言い聞かせました。




違うんだ!!兄貴は改心したんだ!!もう、あんな電波な野望は捨てたんだ。だってもう杖もないし。だって、オレと仲良くしようって言ってくれたし、今アローザ奥様に親切にしてるのも、恩返しだからなんだ、そうだ、そうなんだ!!いや、そうだろう…そうだといいな…




「兄貴っ!!そうだと言ってくれっ(泣)!!」

「何をだ、ワケが分からん。」
兄はククールの 魂の叫び を、さくっとスルーしました。



「では、これで報告を終了いたします。今後も私にお任せいただけますかな?」
「ええ、もちろんです。これからもよろしくお願いします、アンジェロさま。」
「恐縮です、マダム。」
そしてアローザ奥様に優雅に一礼しました。








部屋に戻った兄は、一秒も無駄にすることなく、次の仕事にとりかかります。
うっかり惚れ惚れしそうな仕事っぷりです。



「兄貴…そんなに一生懸命仕事してどうすんの?」

「何を言うか、 人生とは人が何事かを為す為に存在するのだ!!」




尤もな台詞です。ええ、その 何事がいい年こいて 世界征服とかでなければ、もっと素晴らしかったのですが。






ドアを開けてゼシカが入ってきました。



「ねーマルチェロ、お母さんがね、お風呂場の水周りと、お屋敷の外壁の塗りなおししたいんだけど、 お金あるかって…」

「ゼシカ、はっきしゆって、 この屋敷ごとだって余裕で買いなおせるよ?」



ククールはアローザ奥様の あまりの金銭感覚のなさに ちょっと薄ら寒いものを覚えました。




「うむ、それならば業者を手配しておこう。ポルトリンクに良質の業者が…」

ゼシカは、マルチェロの机の上にある帳簿及び裏帳簿をぱらぱらとめくりました。




「なんか、あんたの帳簿見てると、 ウチってお金持ちだったんだなってスゴい実感できるわ。」
「恐縮ですな、ゼシカ嬢。」

「ゼロがいっぱい…ひいふうみい…」
ゼシカは、マルチェロの渾身の作である裏帳簿と、それに記された、 彼女の乳より巨大な 財産をしばらくじっと眺めて、そして言いました。



「ねえ、こんだけのお金、どうするの?お風呂場の水周りと、お屋敷の外壁の塗りなおしじゃ使い切れないでしょ?」



そりゃそうだよ、ゼシカ!!

とククールは心の中でツッコミました。




「貯金?」




「ゴールド銀行に寝かしておくつもりはない。 金は天下の回りもの。投資せねば宝の持ち腐れというものだ。 暗黒神も滅び、海の魔物も大人しくなった今、海洋事業への投資が一番有利だが、安全性を考えて林業への投資もしておかねばな。それに、今年の気候からすると今年は西の大陸で穀物が不作になりそうだ、今のうちに買いつけて…」

さすがやり手団長の面目は健在です。

スラスラと出てくる計画は、まだまだどんどこ続きそう でしたが、ゼシカは問います。

「それって、お金が減るの?」

「投資で財産を減らしてたまるか!!増えるのだ、勿論!!」




ククールは、

ゼシカは一体なにをアホな事を。 遂に寝不足でトんだのか?だとしたら兄貴が悪いよな?

…とかヒヤヒヤしましたが、ゼシカの瞳には、ボケのボの字もありません。






「ね、マルチェロ。あたし、あんたが来てからちょっとだけうちの経済状況とも分かるようになったから言うんだけどね。うちのお屋敷の出費だけならね、リーザス村からの地代収入とかだけで十分賄えてるじゃない?ほら、お風呂場の水回りだって、外壁工事だって、家具の買い替えだってイケるわ。」

「そのようだな。質素なご家風で結構なことだ。」
「んで、あんたとかククールとかがいろいろと頑張ってくれたから、ポルトリンクからたっくさん貿易収入とか入るようになったじゃない?」
「…だから何だ?何か不満なのか?」

ゼシカは、マルチェロの瞳を見つめました。



「なのにあんたは、 もっと収入を増やそうとほとんど不眠不休で頑張ってる けど…あんた一体、何のためにお金を稼いでるの?」




ククールは、ゼシカそう問われた その時のマルチェロの表情を一生忘れる事はできない だろうと心から思いました。





ええ、そのくらいマルチェロは、 激しく動揺していたのでした。




2006/8/19






常に高みを目指す男なだけに、「なんで高みを目指す必要があるの?」という問いは禁句のようです。
ていうか、そんな事考えてる人なら、法王さまの忠告だってちゃんと聞いてたはず。





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