人は見た目が九割五分 その二



兄とトロデ王の“生まれの不公平さ”トーク。
特級犯罪者のクセに、少しも大人しくしていようという気が兄にないのはなぜでしょう…
やっぱ、大人気ない人だから?
ところで、兄ってどのくらいの“イケメン”なんでしょう?兄が好きになりすぎて、もう客観判断が出来ない(笑)













マルチェロも含めた一同が

ボーゼン

とする中、トロデ王は椅子の上に立ち、机を縁台代わりにバンバン叩きながら叫ぶように語り出しました。






「ええかっ!? 人はどうやって、王や貴族を判別すると思うっ!?答えてみいッ!!マルチェロ!!


「…服装や態度だ。」


「そうっ!!人はのう、 見た目で身分を判断するのじゃっ!! じゃから、王や貴族は、王や貴族たるに相応しい服装をする…じゃがの、服装だけでは足りんのじゃ。民は、 王や貴族に、王や貴族にふさわしい体格や容貌といったモノを期待するのじゃっ!!」




「…まあ、そうね、確かに。」

「うん、まあ高貴な姫君には、高貴な姫君らしい顔やスタイルでいて欲しいもんな。」




「ワシの母上はのう、女王に相応しくたいそうお美しい方じゃったが、残念ながら少々お背が小さくておられた。そして父上は、女王の配偶者にふさわしい堂々たる体躯であられたが、残念ながら少々…その、 ファニーフェイス であられた。そして、そのお二方の間に生まれたワシは…」




トロデ王は、さすがに口にするのも辛かったのか、言葉を濁しました。






「…普段、トロデーン城にいる時はいいんじゃ。…辛かったのは、舞踏会なんぞで他国の王やら貴族やらが集まる時じゃった。…分かるかっ!?ククールよ、 ワシの顔を見ながら、貴婦人方がクスクス悪意たっぷりに笑う のを見る辛さがっ!?


「…すんません オレ、生まれながらの絶世の美青年だから、ぜんぜん想像すら出来ません!!」
ククールは、ついうろたえて、心底思ったままを 口にしてしまいましたが、幸い、興奮しているトロデ王は気にしませんでした。




「お忍びで町をうろついていて、うっかりチンピラに絡まれて、逃げずに戦った挙句、 全治二週間 のケガをした後…警護官が駆けつけてワシの正体が分かったとき、そやつらがなんと言ったと思う!?ゼシカ?」


「え、っとぉ…」


『え、ウソマジで王子様?(上がり調子)マジ信じらんねーって、 だって、王子さまフェイス違うし、コレ!!

…コレじゃぞ、コレ!!ワシはれっきとした王子さまじゃったのに… 王子さまフェイス違うといわれたんじゃぞっ!?




「…」
ゼシカは微妙にチンピラの言い分も分かるような気がしましたが、そんな事を口に出していいと思うような教育は受けていませんから、もちろん何も言いませんでした。






「国王に即位してからものう…ワシは子どもの頃から、欠かさず牛乳を飲んでいたにも関わらず、 ほとんどの家臣に見下ろされ るし、あー!!なによりムカついたのは、サザンビークのクラウビス王と同席した時じゃ…あやつめ、 ワシの倍は身長がある からチョーシのりおって、いくら内輪のパーティー内とはいえ、ワシが登場した際に気付かなかったフリをした挙句

『おお、そんなところにおられたのか、トロデ王。 視界に入らなくて、気付きませんでしたぞ。いやあ、失敬失敬』 とゆって、座興にしおったんじゃ…あん時はワシ、ワシ… かなり本気でサザンビーク相手に宣戦布告 する気になったぞい…まあ、後で謝ったから、許してやったがの。」




ゼシカとククールは、クラウビウス王はケチなだけじゃなく嫌な奴でもあったんだ。 さすがチャゴスの親だけの事はあった!! と納得しました。


もちろん良い子のみなさんは、他人の外見を貶めるような心ない冗談を言ってはいけませんよ。






トロデ王のつぶらな瞳に、涙が浮かんで、そっと零れ落ちました。





「だいたい…王や貴族が スタイルの良い美形でなきゃいかん と、一体だれが決めたんじゃ…そんなモン、 生まれつきのモンで、自分でどうこう出来るかいっ!!」




「…」
「…」
ゼシカは、うっかり カエルに似てる なんぞと母親に紹介してしまった事に、激しく罪悪感を感じていました。
ええ、そんなに悪気はなかったのです。ただ、トロデ王ならそんなに気にしないかなと思って喋っただけなのですが、普段は明るい王でも、さり気にものすごいコンプレックスに感じていた事のようでした。




「…じゃからの、ミーティアがワシに似ずに母親に似てくれた時はとても嬉しかったんじゃ。おお、あの子は本当に 姫君の中の姫君 な外見じゃからの…おお、馬になってもあんなに美しかった子じゃ…」


トロデ王が、なんであんなにミーティア姫を可愛がっていたのか、二人はとても納得しました。





トロデ王は、かなり冷めたお茶を一息で飲み干すと、再びマルチェロに指を

びしいっ!!
と突きつけました。





「マルチェロよ、分かるかっ!?お主のような、 人妻に大人気の長身イケメン聖堂騎士団長 に、ワシの気持ちが!!王子時代、王様時代通じて 五十一人連続で告って、即拒否を食らい、 しかもその拒否台詞が

『ゴメン無理、見た目が』

な、ワシの気持ちがっ!! どうせ分かるまい(泣)!!」


ついにトロデ王は泣き出してしまいました。


ゼシカが優しく肩を叩く間、ククールは視線のやり場に困り、 同じイケメン の兄に、救いの眼差しを向けました。




「…」
兄は、眉根に皺を寄せて何か考え込んでいます。

そんな様子もやっぱり魅力的なのが、イケメン特権なのです。


「兄貴…」
「ククール…一つ聞きたい事がある。」

「…なに?」
兄が質問するなんて、珍しい事もあるもんだと思いながらククールが問い返すと、兄は言いました。







「確かに、私は長身は長身だと理解しているが、容貌は… 私はイケメンに分類されるのか?」
ククールは、思わず兄の表情を確認しましたが、 兄はめっちゃ真顔でした。








「…兄貴…」


ククールは、色々と言いたい事は全部じぶんの心の中にしまって、切々と 兄がいかにノーブルでクールでインテリジェンスなイケメンか を説き起こしてあげました。









「だいたいのう(くすん)生まれが卑しいだの、卑しくないだのは、言わなきゃ分からん事じゃが、外見の良し悪しはまさに 見た瞬間分かってしまう んじゃ…しかも、ワシは王じゃから、人前に出ないワケにもいかんしのう…」


「トロデ王、泣かないで。あたしもククールも、もちろんエイタスもヤンガスも、みんなトロデ王が大好きよ。魔物だったとしても、そうでなかったとしても大好きよ。そして、トロデーンの人たちだって、みんなトロデ王が大好きなはずだわ。だって… トロデ王は、とってもステキな王さまだもの♪」

ゼシカの優しすぎるフォローに、トロデ王は涙を浮かべたままではありますが、笑顔になりました。
四十超えたオッサンとは思えないくらいの、キュートな笑顔 です。
ゼシカはうっかり、抱きしめたくなりました。






「…ありがとう、ゼシカ。そうじゃ、ワシは色々悩んだが、おかげで悟ったのじゃ。」



そして、ククールの説明を呑み込みかねているマルチェロに向って言いました。

「なってしまったものは仕方がない、今更どうともならん。じゃから、 大切なものは、未来の自分じゃとっ!!」




2006/8/29






自分で書いてて、微妙に心が痛んだ回でした(笑泣)
うん、外見で判断されるって、悲しいよね、トロデ王。
王族だの貴族だのという種族は、人より優れていることを要求されるため、当然美形要求も高いワケで…でも、ンな事言われたって必ず美形に生まれるとも限らないわけで…でも、見たら分かってしまうのが外見なワケで…ある意味、とても大変な人種なのかもしれません。
兄は、そりゃ高貴な血は一滴も流れてないかもしれませんが、バリバリノーブルな外見をしているため、そんな事で悩んだ事なんてないでしょう。そりゃ、物腰やなんかは努力で身につくでしょうが、顔立ちだの身長だのはやっぱ生まれつきだからねえ…
DQ世界も属する中世というのは、血筋と、そしてこのような外見差別がバリバリまかり通った世界でもありました(まあ、今もですが)。だから、悪い人とは“見た目が”悪い人でもあったワケです…嫌な世界ですね。

しかし兄って、自分の外見をどう認識してたんでしょうね?ククールを美形と理解出来ているようですから、美観基準はまあ世間並みたいですが。まあ、使えるものはなんでも使う人なので、外見もフル活用したと考えるのが自然ですが、まるきり認識してなかったゆーのも面白いかも。




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